第34話

 時は深夜。シュノーク古城にある塔の最上階、私とアール君は魔王サタナス様に魔力を渡していた。


「魔王様、まだ?」

 

「フフフ、よい魔力だ。ワタシの枯渇していた魔力が戻る……あと、もう少しだな」


 と、頭にささる長い爪と、魔王サタナス様に吸い取られて自分の魔力が枯渇していくのがわかる――それは背中のアール君もで、彼のくっつく力が弱くなっている。


「……クゥ、これほど魔力がなくなるのは、はじめてです――結構、辛いものですね」


 まずい!


「アール君、今すぐ床に降りて、このままだと私が倒れた時、アール君を潰しちゃう!」


「出来ません! 僕はエルバ様に酷いことをした。エルバ様だけが辛いなんて……嫌です!」


 だけど、アール君も限界なのだろう――背中からずり落ちて足に引っ付いた。2人ともに限界なわけで……視界がぼやけてきて勝手に瞳が閉じてくる。


「魔王サタナス様、限界です、まぶたが落ちます……後は任せました」


「サタナス様、僕も限界……です。……この部屋に施した遮音魔法が消えます」


 アール君と私は魔力の枯渇で体から力が抜け、眠るように崩れ落ちる体を何かがふわりと支えた。

 




 


 戻った魔力を操り2人を鳥籠の中から支えた魔王は、感知されないよう部屋に魔法結界を張り、魔力枯渇で眠ったエルバとアールを床にソッと寝かせた。


 次に自分が300年と閉じ込められていた、憎き鳥籠を素手で粉々に破壊する。足元に原型を止めない鳥籠をみて、サタナスは頷き腹の底から笑った。


「クククッ――フフ、ハハハッ! ようやく、枯れていたワタシの体に魔力が戻った、ありがたい」


 久しぶりに魔力が戻り体が喜んでいる、サタナスはすぐさまアイテムボックスから"魔王契約書"を取りだし、燃やした。目の前でチリチリと燃え上がる魔王契約書に、契約無効の魔族文字が浮かび消えた。


「これで、良いな」


 今、このときを持ってワタシは魔王ではなく、普通の魔族に戻った。新魔王にサタナスの魔王契約が消えたと伝わっであろう。


 終わった……ただ、ひとつ心残りがあるのだとしたら、キモワル聖女に邪魔をされて勇者との真っ向勝負が出来なかったことだな。


 ――あれは満月の夜であった。


『魔王サタナスすまなかった……あの僕との真っ向勝負の時、変態聖女ミサエラを止めれなくて……』


 昔、一度だけ老いた元勇者がここ、シュノーク城を訪れた。彼の話を肴に酒を交わしたのが最後だったな。人の生は早い……いつしかキモワル聖女もいなくなり、この城も朽ち果て、ワタシの姿を見れるものはこの城に集まった、亡霊くらいで誰もおらぬようになった。


 ――このまま城と朽ちてもよい、そう思っていた。


 しかし300年と時が経ち。

 あのキモワル聖女の血を引くらしい、少々頭のおかしな女性が現れ。ワタシの本名を言ったとき、あの女性の執念(しゅうねん)を感じて魔王ながら恐怖を覚えた。


「2度と、ここに戻るまい――魔王サタナスは今宵、消えたのだからな」

 

 ――うむ、実に身軽になった。 


 ワタシに魔力をくれたタスクの娘エルバと、ワタシの元執事、いまの名はアールと言ったか――2人を連れてシュノーク城を後にした。


 

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