第31話
私が愛用していたキャンプ道具が異世界仕様? 神様仕様? に変わっていた。なんだか凄いことになっている。
洗い物入れ箱にいれただけで、使用したクッカー、食器類、メスティンが綺麗になるなんて。
――面白いじゃーないか。
ここに同じ物がもう一つあれば、洗濯も外で出来たのに……残念。
おひとり様テントだって空間魔法だっけ? 私の思い描いた通りになるとアール君が言った。だったら、ビジネスホテル風、旅館風、はたまた天蓋付きベッド、豪邸風? 想像が追いつく部屋になるのかな。
楽し過ぎる! もっとキャンプをして、この道具たちを使いたい。
私達は小腹も満たされ、キャンプテーブルの周りでまったりしていた。
日が沈み、辺りが闇に包まれる。アール君はお気に入りになったアウトドアチェアーの上で夜空を見上げた。
「エルバ様、そろそろ向かいますか? 魔王サタナス様にお会いして要件をのんでもらい……僕は、その、この椅子でまったりしたいです」
その気持ちわかるよ。お気に入りの物、道具ってさわっているだけて幸せだよね。
「そうだね。早く終わらせて、どこか広場をみつけてまったりしよう」
「いいですね、そう致しましょう」
アール君は姿消しの魔法で姿を消して、私はキャンプ道具をアイテムボックスにしまい、身消しのローブを羽織った。
「どうやってこの塔の最上階までいく? ホウキで最上階まで飛んじゃう? たぶんだけど、この建物のなか螺旋階段になっているんじゃない?」
「螺旋階段ですか? 一度、中がどうなっているのか確認のために"サーチ魔法"をかけてみます」
「サーチ魔法?」
アール君はサラッといい、サーチ魔法をかけて古城の中を見ているようだ。アール君が使っているサーチ魔法って、検索、調査できる便利な魔法、
いいなぁ、私も使ってみたい。
植物サーチとかあれば、新しい薬草、食物が直ぐに見つけれる。
「サーチ終了。エルバ様、ここより奥の塔に複数の生命反応あり、この塔の近くに人はいません。そして、エルバ様のいう通り、最上階まで石造りの螺旋階段になっておりました」
「やっぱり、結構大きな古城だから、こちらまで警備の手が回らないのかな? ……修理代、維持費とか高そうだし」
「崩れた箇所を直していたら、キリがありませんね」
だねっと、私はホウキを取りだして乗ると、肩にアール君が飛び乗った。アール君の力を借りながら魔力をためて、地面を蹴り飛び上がる。
「よし、上手くいった。最上階まで行くよ!」
「はい」
レンガ造りの塔の最上階までホウキで飛び上がり、塔の中に入る窓を探すと――ひとつだけ、月がみえる方角に空いていてる大きな窓をみつけ、そこから中に入る。
この塔の最上階は、広々とした部屋になっていた。
「侵入完了。これなら案外かんたんに終わかも」
ホウキから降りマジックバッグの中にしまい、行こうとした私にアール君は待ったをかける。
「エルバ様、そこで止まってください!」
「え?」
踏んだ床が"カチッ"と鳴る。目の前に赤く光る魔法陣が浮かび、私たちに目掛けて弓矢と火の玉が飛んできた。
「【防御障壁】」
アール君は瞬時に魔法を使い、私達の周りに透明なドームを張り、弓矢と火の玉から守ってくれた。
――ヒィィイイ――こわっ!
アール君は驚きのポーズで固まる私の前に、守る様にストンと降り立つ。
「エルバ様、怪我はないですか?」
「うん、うん、ありがとう……アール君のおかげで怪我していないよ」
「よかった。この飛んできた矢は"毒矢"ですね。――エルバ様すみません。僕の落ちど――この部屋全体に魔法感知ができないよう魔法がかけられていました。なんと、コレはすごい数の罠だ――だがご安心を。フフッ、こんな子供騙しの罠は僕には聞きませんゆえ」
「私も大丈夫だよ。この毒矢から香る、甘い香りの毒は私には効かないから……」
『平気だ』という前にアール君の琥珀色の瞳が鋭くなる。
「毒が効かない? さてさてエルバ様は矢に塗られている、毒草を召し上がったことがあるのですね。今は詳しく聞きませんが、それについては後で聞きますね」
――やばっ、墓穴を掘った。
あせる私の様子をひややかにみた後。
アール君は『では、いきます』と余裕ありげに笑い。右前足で床を叩き、この部屋全体に行き渡る赤黒い魔法陣をだして。
「【解除】この部屋に仕掛けられた、全てのトラップ無効――」
このアール君の一言で天井からいくつもの木製、鉄製のハンマーがガタ、ゴドと床に落ちてきた。全ての壁から何本もの槍と鎌が飛び出て、毒矢が落ち、最後に中央の床が抜けた落ちた……
「……ウオッ! 落とし穴!」
なんという、けったいな数のトラップ。
アール君がいなかったら、かくじつに私の2度目の人生も終わっていた。
「……なに、なに、なに、こ、こ、この部屋に入った……ひ、人? 盗賊、虫? を葬り去る勢いだよ」
「そのようですね。余程、取られたくない"高価な物"があるのでしょうか?」
首を傾げるアール君に、私は首をブンブン振る。
「……違う、高価な物じゃないよアール君。取られたくないもの……者って、奥の鳥籠(とりかご)にいる男性じゃない?」
私達が侵入した窓から入る月明かりに照らされ、微かに見えるアンティークの鳥籠を指差す。
その鳥籠の中の男性は――私達と、大量のトラップをみても怯まず、優雅にアンティークチェアーに座り紅茶を飲んでいた。
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