第28話
「《何百年ぶりだろか? ……ワタシの語りに反応した人に出会うのは――しかし、ここにいては危ないぞ》」
「危ない? やはり、お化けが出るのぉ?」
飛び上がり、嫌がるアール君に引っ付く。
「《いや、お化けはおるが、元の住み主達だからさほど怖くない。怖いのはここに住む娘――アマリアという女だ》」
アマリア? ヒロインの名前だけどーー彼女が怖い?
「どうして、そのアマリアさんという人が怖いのですか?」
「《聞きたいかのか? よし話してやろう。あれは初めてアマリアとおうた日のこと……アヤツ、ワタシの姿が見えて、名前をフルネームで呼んだのだ。サタナス・ロザリオン3世と、魔王様と……昔は人の世界にもワタシの名前を知っている者もいたが、表舞台から消えて何百年と経っている。もう、ワタシと名前を知るものは魔族以外におるまい》」
――姿? 今、頭に語り掛けてるこの人物は魔王サタナス様だ。
でも、あなたの気持ちよくわかる。初めて会ったとき、アール君が私の名前を呼んだとき驚いたもの。
やはり、知らない人が自分の名前を知っている。
それは本人にとっては恐怖だ――昔にもあった。私の知らない人が私の名前を呼び、妹とよく見比べていたーー「 『おお、似てねぇ。これがお前の姉ちゃん……?』とかね。
「魔王サタナス様。今日、僕達がシュノーク古城を訪れたのは、あなた様に用があるからです。魔王様はいま、どこにいらっしゃるのですか?」
「《ほう、珍しい客がきたと思ったら……ワタシに用があるとは、して、なんのようだ?》」
「いいえ。――いま、ここで魔王様に僕達の願いを言うのは失礼になります。エルバ様、大切な願いです、魔王サタナス様の前でじかに願い事を言いましょう」
なんでだろう? いまのアール君に『はい』としか言えない、そんな彼の気迫を感じた。
「わかった、アール君。魔王様にはもうすこし日が暮れてから会いに行きましょう。魔王サタナス様はシュノーク古城のどの部分にいますか?」
「《ワタシはお前達が今いる、真上の塔の最上階だ――》」
「この塔の最上階。わかりました……では、のちほどお会いいたしましょう」
と、魔王様との話は一旦終わった。
私とアール君は日が暮れるまで、ここで休むことにした。
「アール君、お腹空いたね。夕飯を軽く食べちゃう?」
「いいですね……しかし、夕飯の材料は持ってきていないはず。いまから村に買い出しに行くのですか?」
私はアール君に首を振る。
「ううん、道具は私のアイテムボックスに入っているし、食べ物はキリ草をだした"エルバの畑"から収穫するから」
「エルバの畑で収穫ですか……(ボソッ。エルバ様はやはり面白いスキルをお持ちだ。それにアイテムボックス、マジックバッグといい、次から次へと楽しいことが起きますね)」
「ん、何か言った?」
「いいえ」
私は併用しているマジックバッグではなく、アイテムボックスを直に開いた。この中には前世、私の愛用していたキャンプ道具が入っている。
まずは休憩するために、愛用していたカーキ色のテントを取り出すと。ひとり用のテントがアイテムボックスの中から"ポン"と、目の前に原型のままでてくる。
「わっ、テントがそのままでてきた? ……少し面倒な組み立てがいらなくて、後はペグを打てばいい?」
不思議に思いながら、アイテムボックスからペグとペグハンマーを取り出した。その横で、はじめてテントをみたであろうアール君は、2本の尻尾を小刻みにすらしながらテントの周りをまわる。
「エルバ様。なんとも可愛い家ですね。この中で休むのですか?」
と、興味津々だ。
「そうだよ。いま、ペグを打って動かないよう、テントを固定するから待っていて」
これまた愛用のペグ、ペグハンマーでテントを固定する、のだけど。硬そうな地面にハンマーひと振りでペグが簡単に入っていく。
「……え?」
――いつもなら大変な作業なんだけど。と、思いながらテントを固定して。なかに引くキャンプマットとラグを、アイテムボックスから取り出して中に引いた。
「アール君、準備終わったよ」
待っていたアール君に入り口を開けて『どうぞ』と言うと、彼は2本の尻尾を立て、ウキウキした足取りでテントのなかに入っていった。
(フフ、アール君、楽しそうね)
「さてと、私は夕飯の支度をしようかな」
袖をまくり、テントの外にテーブル、ポケットコンロ、調理器具をアイテムボックスから取り出した。
それらの前でいまから何を作る? とメニューを考える。
うーん。小腹がすいたからメスティンで、コメを1合炊いて塩おにぎり。さっき見つけたトマトマ、キャベンツ、レタススの塩もみサラダ……エダマメマメの塩茹で。
――あとは、レンモンを浮かべたシュワシュワかな。
水魔法で手を洗い、エルバの畑をひらきコメ草を一合分を収穫して袋の中で振る。もちろん収穫終えた茎はアイテムボックスに入れて持って帰る。
次にメスティンを出して……と、夕飯の準備中にアール君がテントから何かを咥えて飛び出てきた。
「ア、アール君、どうしたの?」
そう聞くと、彼は少し震えた声で。
「エ、エ、エルバ様、テントに入った途端……真っ白な空間が目の前に広がり……その先に見知らぬ緑色をした鉄製の扉が現れ、入口にこんな物が落ちていました」
と、達筆な文字で"エルバ様"と書かれた、手紙を私に渡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます