第24話

「やっぱり、2人に任せるなんて、心配だわ」


「「…………」」


 人里に行くことを許してくれたけど、やっぱりと心配するママ。


 私だって、着いて行けるならついて行きたい!

 でも、着いていけなくて、ごめん……子供の私とアール君に任せて、ママはごめんね……と何度も誤った。


 ――心に残る古傷。


 ママも含めた魔法都市の住民は、人の里に行けない。

 それは…………昔、人との間にあったことを恐怖するから。


 この前、両親に都市の事を教えてもらったときに聞いた。大昔の人と魔王軍の戦争の話……人は戦いごとを嫌う魔法使い、魔女、亜人種族を捕まえ奴隷にして、魔王軍と戦っていた。

  

 その数年後に"神に選ばれし勇者"が生まれ、勇者パーティーは魔王様を倒し平和が訪れた。戦いが終わり――必要がなくなった魔法使い、魔女、亜人達は解放されて、人里と魔王国の間に魔法都市サングリアを設立。

 

 魔力の高い大魔女ミネルバ様が魔法石を守り、都市に結界を張り、魔王討伐から300年もの間――魔法都市を守っている。


 ――その結界も徐々に効果が、薄れてきているとも言われている。そして、都市の人たちにはそれとは別に、髪と瞳の色の問題もある。


 私のパパの髪は銀色。ママは黒髪――灰色髪の私とは違い。この魔法都市の魔法使いと魔女の髪色は……人にはない黒色の髪色と特殊な瞳――各々がもつ魔法属性の色が混ざった"魔眼"をもつ者が多い。 


 ――魔眼って魔法を使用するとき、すごくキラキラして、宝石みたいで綺麗なんだ。


 私の瞳はパパの赤とママのブルーが混ざった紫色。

 ママに大丈夫だよ。と、エルバの畑からキリ草、コメ草、シュワシュワの実をたくさん採取して渡した。


 魔法使い、魔女達が持つ――魔眼はすごいけど。

 私にとっては懐かしい黒髪が、異世界では珍しいなんて不思議だ。



「さあ、エルバ、アール君、しっかり準備するわよ」


「「はい!」」


 エルバ、前に渡したマジックバッグは持っているわね、から始まり。身消しのローブ、何かあった時のために伝書フクロウを呼ぶ笛、護身用ナイフ、煙玉、緊急転移用マジックシートなど、変わった魔導具をママはたくさん貸してくれた。


「もう一度いいます。くれぐれも無茶だけはしないこと、アール君、エルバをよろしくね」


「お任せください、ママ様」

「ママ、パパのことよろしく」


「任せなさい……エルバ、アール君、いちど抱きしめさせて」


 手を広げたママの胸にアール君と埋まった。

 私を抱きしめるママの手が震えている――かならず、なにもなく帰らないと。いまは"前魔王様をみつける"ことだけを考える。

 



 ――翌朝、私とアール君は人里に向かう。


「ママいってきます」

「ママ様、いってきます」


「いってらっしゃい、エルバ、アール君」


 ママに見送られて、私は姿消しのローブをはおり、アール君とほうきに乗りのローリス森を越えて、人が住むグランハ国に向かった。


 私たちが向かうシュノーク古城は、ローリスの森を抜け――北に進むと見えるノロル村の高台にある古城。

 ママが昨日。水晶で知り合いの魔法使い、魔女に聞いて調べたところ。いまはその城にその土地の領主、子爵ルロール・リルリドルが住んでいることがわかった。


「アール君、城まで一時間はかかるから途中で休憩しよう」


「はい、エルバ様。城前に広がるココンムギ畑が見渡せる場所で休憩しましょう」


 人の主食はココンムギ――小麦でパンを焼き食べている。コメ草がみつかる前の私達と同じ主食だ。


 ――いまアール君と話していた、ココンムギ畑から出てきた人がふらつく姿が見えた。私とアール君はほうきから降り、姿消しのローブを脱ぎ近付いた。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫です……しばらく休めば」


「危ない」


 ふらつく、おばさんを支えると。


《軽い熱中症です》


 博士がおばさんの症状を教えてくれた。

 植物特化だと思っていた博士、おばさんの症状もわかるなんて……と、驚きつつ。


 博士、軽い熱中症なら。

 水魔法でだした魔法水に塩?


《熱中症にはシュワシュワが効果的です》


 ――シュワシュワ?


《シュワシュワは魔法水より吸収がはやく、水分補給におススメです》


 シュワシュワにそんな効果があるんだ。

 すごい、シュワシュワは美味しいだけじゃない。


 私はマジックバッグをさぐり、シュワシュワいりの水筒を取りだしてコップにそそいだ。もちろん出かける前にママに冷やしてもらっているし、別の容器には氷もはいっている。


 シュワシュワを入れたコップに氷もいれて、おばさんの前に「飲んでください」と差しだした。

 

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