第22話

 ――パパが魔王様の側近⁉︎


「ママ……魔王様って、いるの?」


「ええ、いるわ。シシリア大深林を抜け、今回の鳥型のモンスターが住む魔族の森――ムスゴの奥の奥に魔王城があるとパパは言っていたわ。エルバが生まれる前に一度、魔王城をみてくるといったのだけど――もぬけのからだったみたい。でも、ここ1ヶ月前にパパが、新魔王様が誕生したかもしれないと話したわ」


「新魔王様?」


 ここ――魔法都市サングリアに魔法使い、魔女、亜人種族、パパ達魔族もいるんだ……魔王様がいてもおかしくない。


「ママ、新魔王様が誕生したのなら。なぜ、魔族のパパは倒れたの? 新魔王様の誕生したのなら喜ばしいことじゃない?」


 その問いにママは困った表情を浮かべ、アール君はさっきから黙ったままで、一点をジッと見つめている。


「そうね、普通はそう考えるのだけど……魔族は少し違うの。パパが……前魔王様の側近をしていたって言ったわよね」


「うん」


 私はそうだと頷いた。


「普通の魔族と、魔王様から証を貰い配下となった魔族は違うの。魔族はね――我が王と決めた者に生涯尽くす。そんなの新魔王様からしたら反乱分子にもなるし、邪魔者になっちゃうわね。前魔王様が消えるか……魔王の座を捨ててくだされば、この状況は変わるはずなのだけど……」


 ――魔王が消えるか、魔王の座を捨てる? だったら。


「"魔王をやめてください!"と、前魔王様にお願いすればいいんじゃない?」


「ママだって言えるなら言いたいわ。だけど……前魔王様は勇者との戦いの後から、もう何百年と行方不明なの。……もし、前魔王様が勇者に倒されていたのなら、パパ達は配下から抜けていた。でも、パパが言うには今も配下のままらしいの」


「魔王様の配下のまま⁉︎」




 ❀




 パパは前魔王様の配下のままで――新魔王様によって消されそう。

 いまは大魔女ミネルバ様の魔法で、毒の進行を遅らせていると言っていた。もって、後一ヶ月――倒れたのはパパだけではなく、ミネルバ様の最愛の恋人と、パパと同じ都市の門番をしている方だと言った。


「どうにか、どうにかして前魔王様を見つけないと……」


「そうね――今、ミネルバ様の命令で人里、魔法都市、魔族の国と……身消しの魔法、サーチ魔法が得意な魔法使い、魔女が集められて捜索隊が結成されて探し回っているのだけど、見つかったとの報告はこないわね――もし、前魔王様は何百年と囚われているのだとしたら、探すのが難しいわ」


「ま、魔王様が囚われている?」


 ママの話で――ふと、この世界のくるまえキャンプ場で読んでいた小説を思い出した。


 タイトルは『ドキパラ学園! 聖女の生まれ変わりは勇者と魔王に激愛される!』で、内容はたしか――ヒロインは大昔に魔王を倒した聖女の子孫。王都にある学園で、勇者と魔王がヒロインをとりあう……だったかな。


 ベースは乙女ゲーム? 悪役令嬢もいたし、ヒロインがこれでもかって勇者、ヤンデレ魔王様、攻略対象に好かれる――ヒロインの癒しの力と魔力は誰よりも高く、古城に囚われた古代魔王を助けたり、おどろきの回復力で危機におちいる人々を助けた。


 ご都合! チートだ! と、ありえないと思いつつも!コミカルに物語が進むから面白くて読んでいたけど。――えーっと、たしか……古代魔王の名前ってサタナスで新魔王の名前は……ローザン、ヒロインの名前はアマリアだったかな?


 ――でも、まさかね。……一応、聞こうかな。


「ねえ、ママは前魔王様の名前を知ってる?」


「前魔王様の名前? ええ知っているわ。たしか、魔王サタナス様だったかしら? パパがお酒に酔うといつも『サタナス様にお会いしたい』って、泣きながら言っているから」


 ママの話で、さぁ――っと血の気が引いた。


(いや、待って――サタナスって、ドキパラ学園に出てくる古代魔王様と同じ名前だ。まさかと思うけど、私が生まれ変わった楽しいファンタジーの世界は"ドキパラ学園"なの?)


 ――嫌々、そんな事ってある?


 転生って、あり得ないことが起こる――それが私の身にも起きた。今、捜索隊が出ていても見つからない。前魔王様の手掛かりがない以上……探してみる価値はあるんじゃない。

 

 ためしに探してみて違っていたら?

 そんなの次の手を考えればいい。だって、私の大好きなパパの命が、かかっているのだもの。


 手が震えて、緊張が走る――落ち着け私。

 

 それで、前魔王様と呼ばれる魔王サタナスが"ドキパラ"の古代魔王様だとすれば"彼はどこ囚われていた?" ……えっと、たしか、思い出せ…………んんっ、あ、シュノークとか言う古城の最上階の部屋だ。



「ママ、ママ、家に世界地図ってある?」



 いきなり叫んだ私にママは驚いていたけど。近くの本棚から魔法で地図を呼び寄せてくれた。その地図を受け取り食卓に広げた……この地図にシュノーク古城が実際にあれば「ドキパラ学園」の可能性大。


 ママとアール君が不思議そうに見つめるけど。


 私は探した。古城、シュノーク古城……シュノーク、シュ…………あ、ああ、見つけた! 魔法都市サングリアからシシリアの大森林抜けて、ローヌの森の西の先、人の里にシュノーク古城はあった。


 ――もう、これで確定と言ってもいいかも。


 この世界は私がここにくる前、キャンプで読んでいた小説――ドキパラの世界だ。

 神様は不慮の事故(ふりょのじこ)で死んでしまった私を不憫だと思い。たくさんの願いと共に『好きな小説の、この世界に』転生させてくれたんだ。

 

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