第20話

 早朝――庭に出てアール君とホウキに乗る訓練をしていた。


「アール君、見ていて」

「エルバ様、お気を付けて」


 ――ママに習って、竹ぼうきに乗る練習を始めて一ヶ月が経っている。はじめのうちは魔力のコントロールが上手くいかず。雲よりも高く飛び、ほうきだけ飛ぶなどのハプニングもあったけど、どうにかスムーズに乗れるようになってきた。


 もう少し上手く魔力を操れる様になれば、ホウキでエルブ原っぱまで五分もかからずに飛んで行ける。――そして、いつの日かアール君と旅に出て、外の世界を見てまわりたい。


 ――まあ、パパとママが許してくれたらだけど。

 


「アール君、どう? 乗れてる?」

 


 庭でバランスをとりながら、ホウキに乗りフワフワ浮いていた。


「そうですね。まだ、僕の補助が必要ですが。はじめの頃よりは魔力が安定してきましたね。いまなら魔法を使っても前の様に暴発しないでしょう……しかし、エルバ様の気持ち次第で、魔法の威力が変わるかもしれませんが」


「気持ち次第……そうだよね」


(私がホウキに乗る、魔法を使うときは、常にアール君の補助付き――彼に助けてもらっている)


 どうしても魔法を使うときに興奮、緊張と焦りがでてしまい、魔法を暴発させてしまう。"だって、魔法だよ!"……いまから私が魔法を使うぞ! と思うだけで気分があがる。


 ――それを抑えれば、なんとかなのだけど。まだ、気持ちの高ぶりが勝つ。


「……ハァ、訓練がまだまだ必要だね」


 魔力をけし、ホウキから降りる。


「でしたら、エルバ様が魔法を使わなくてもいいよう、僕が頑張ります」


「えー、それは助かるけど……私も魔法を使いたい」

 

「なら、訓練あるのみです」

「わかった、がんばる!」


 アール君にみてもらいながら、そのあともほうきに乗った。しばらくして、魔力はきれていないけど……私の集中力がきれ、ホウキが安定しなくなる。


 それの様子を見て、アール君に止められた。


「エルバ様、集中力が切れて魔力が乱れています――ストップしてください」


 と、アール君の声の後に、ホウキと一緒にストンと庭に尻餅をついた。魔力切れならぬ、集中力切れ……お尻を叩きながら立ち上がり深呼吸した。

 

「ふうっ……疲れた。アール君、少し休憩。訓練前に冷やし庫に冷やしておいた、シュワシュワ飲みに行こう!」

 

「ええ、行きましょう。ママ様が作った甘イチゴンのジャムをいれた、シュワシュワが飲みたいです」

 

「イチゴンのジャム入りシュワシュワかぁ、いいね」

 

 イチゴンのジャムを入れると――シュワシュワがほんのり赤く染まり、甘くて美味しくなる。このイチゴンもママが温室で栽培したものだから、博士からタネは貰えていない。

 

 ――好物のミカン、桃、ブドウなどの果物をみつけたいなぁ。






 

「ねぇ、アール君、午後は書庫で本を読む?」

「いいですね、そうしましょう」


 ホウキを庭の魔導具入れに片付けて、休憩をしにアール君と家に戻ると、ママが調合室から血相を変えて玄関まで飛んできた。


「ママ、何かあったの?」

 

「エルバ、アール君――悪いのだけど……キリ草をエルブの原っぱから採ってきて欲しいの」


 ――キリ草?


 キリ草は少し前に原っぱで見つけた、魔法水と混ぜれば傷薬になる薬草だ。ママのこの慌てようは"ただこと"ではない。


「ママ、キリ草はどれくらい、いるの?」


「いま、他の人にも頼んでいるのだけど……なかなか集まらないの。エルブ原っぱに生えているだけ欲しいわ」


 ――原っぱに生えているだけ?


「わかった、出来るだけたくさんのキリ草がいるんだね」


 キリ草は発見済みだから、キリ草を獲りにエルブの原っぱに行かなくても採取できる……でも、エルバの畑から採取すれば"きっと"ママとアール君は驚くだろう。


「2人とも気をつけて行くのよ。アール君、エルバをお願いね」


「かしこまりました。さあ、エルバ様、向かいましょう」


「…………」


 たくさんのキリ草がいるということは怪我人が多数出たんだ。――いまは何も考えない!


 ――私は急かす、2人にブンブン首を振り。


「エルブ原っぱに行かなくても大丈夫だよ、ママ、アール君。いまから、キリ草をだすね!『【エルバの畑オープン】』」


「え? エルバの畑?」

「エルバ様の畑?」


 目の前に自分だけがみえる畑の画面をだして、キリ草を何度かタップした。すると、一束にまとまったキリ草が目の前に"ポフッ"と現れた。

 

「これで一束か……ママ、あと、どれくらいのキリ草がいるの?」


「……あと、二十束もあれば助かるわ」


 二十束か……その数だと少し時間がかかる。

 博士、畑いっぱいにキリ草を生やしたいのだけど、どうすればいい?


《空いている畑にキリ草のタネを植え。キリ草をタップしたままスライドしてください》

 

 空いている畑、スライド? わかった。

 キリ草のタネを頂戴。


《かしこまりました。エルバ様、キリ草のタネです》


 博士から種をもらい。教えてくれたと通り新しいページまでめくり、貰った畑にキリ草のタネを植えて、タップしたままスライドさせた。


 畑にポンポン、キリ草の新芽が生える。


(おお畑一面にキリ草が生えた! この数なら、一気にキリ草を集められる)


 博士ありがとう。


 エルバの畑に生えたキリ草を、つぎつき画面を押して採取した。私の前に採取された、キリ草がポンポンと束になって現れる。

 

その様子をみていたママ、アール君。


「エルバ様、凄い」

「エルバ、あなた……」


「ママ、説明は後――このキリ草を使って、手伝えることがあれば手伝うから」


 エルバの畑で採れた、二十束のキリ草をママに渡した。


「あ、ありがとう……エルバは調合室で空いている水瓶に水魔法で魔法水を出して、その間に私はキリ草をすり潰すわ」


「ママ様。キリ草をすり潰す、手伝いを致します」

「アール君、ありがとう。エルバ、頼んだわよ」


「まかせて!」


 ――私達は調合室に向かった。

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