第16話

 夕食後――部屋に戻った私に、眉をひそめたアール君は言った。


「エルバ様、パパ様はリリンゴを好物とおっしゃったましたが。――ほんらいリリンゴは魔族の森の奥、ドラゴン族が守る果物で、魔王様以外は口にするのが難しい果物です。パパ様は樽いっぱい食べていたとおっしゃっていましたが……どうやって集めたのでしょう?」


 ――ドラゴン? 魔王様?


「ま、まま、魔族の森に……魔王様とドラゴンがいるの?」


「はい、魔族の王――魔王様。魔族の森を守る守護者ドラゴン族……他にもたくさんの魔物の種族がおります」


 ――魔王様とドラゴンなんて、ファンタジー。


 でも、アール君のいうのが正しいのなら。

 

 パパはリリンゴをどう集めていたのだろう。

 見た目が、都市の人達より体がひと回り大きく、仕事が休みの日には朝から体を鍛え、大きな斧を振り回しているけど……


 ――はっ! まさか。パパはリリンゴ欲しさに……魔物の森の奥でドラゴンに勝負を挑んで勝って、リリンゴを貰っていた? ……食いしん坊のパパならありうる。


「エルバ様のパパ様は優しく、お強い」

「うん、パパは優しいね」


 ドラゴンと戦うパパを一度見てみたいと思うけど……逆に考えて――怒らせるとママよりも怖いのかも。

 アール君とママもだけど、パパも怒らせないようにしようと話した。




 ❀




 今回――人が作った改良リリンゴでは博士からタネがもらえないとわかった。タネが欲しかったら――原種の植物、果物じゃないとダメ。

 だけど、野生リリンゴは魔族の森奥、ドラゴンを倒さないとなると手詰まり。でも、いつの日にかパパとママに許可をもらえたら――魔族の森をアール君と探索したいな。


 いや、その前に魔法都市を隠すようにぐるりと囲む"シシリアの大森林"が先かな。


 まだ見ぬ、沢山の植物かぁ……エルバの畑、エルバのレシピ帳――後は調合スキルもあったし、魔法も。


 ――やりたいことがたくさん! なんて、異世界って楽しいのだろう。





 


「アール君、お風呂空いたよ」


 私のベッドの上で調理の本を読んでいる、アール君に声をかけた。


「はい。では、お風呂にいってきます。――あ、エルバ様、髪をちゃんと乾かさないと……風邪をひきますよ」

 

「わかってる、ごゆっくり」


 アール君がお風呂にいったので、タオルでチャチャっと髪を拭きベッドに転がった。そして気になっている、調理スキルを確認することにした。


「ステータスオープン!」


 目の前に現れる、ステータス画面。


 ――ふむふむ。私のレベル、攻撃などの数値は変わっておらず。スキルランに調理レベルが1と"エルバのレシピ帳"の項目が増えていた。

 これが、さっき博士が言っていたレシピ帳か、どうやって見るのかな?


 何気なくレシピ帳をタッチすると――ステータス画面が消えて、目の前に図鑑くらいの暑さの本があらわれた。

 今、あらわれた本の表紙には"エルバの調理レシピ帳"と書かれている。


 私は勢い良く、ベッドから起き上がり。


「この本に触れるの?」


 ドキドキしながら、本の表紙をタッチした……


〈エルバの調理レシピ帳へようこそ。このレシピ帳はエルバ様がエルバの畑で採れた植物を使用して、調理されたレシピが記されていきます〉


 少し明るめで、博士と似た声が頭の中に聞こえた。

 


「へえ、このレシピ帳に載るのは"エルバの畑で採れた植物"なんだ……」

 


〈レシピ帳をタッチ致しますと、ページがめくれます〉

 


 これをタッチするのね――ワクワクしながらタッチすると、レシピ帳が開く。その中にシュワシュワの作り方が記されていた。


[まずピッチャーなどの容器に"水または魔法水"を適量入れて、エルバの畑で採れたシュワシュワの実を一粒入れたら、あっという間にシュワシュワの完成!]


 1ページに簡単な説明と、作り方の絵が載っていた。


 ――小さな妖精がピッチャー、シュワシュワの実などを説明してる。

 


「わぁ、料理手順の絵が……手描きみたいで可愛い!」

 


〈お褒めいただき、ありがとうございます〉


 え、この絵、博士が描いたの――万能博士⁉︎

 

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