第14話

 家の書庫にはたくさんの魔導書が置かれている。

 私は書物を見ながら、アール君にこの薬草見たことがある? こっちはと聞き仲良く、本を読んでいた。


 その、アール君が読んでいた本を閉じて。

 

「エルバ様、そろそろ喉が乾きませんか? 僕、シュワシュワが飲みたいです」


「シュワシュワか――いいね。アール君、キッチンに行こう」


 二人でキッチンに向かい、私は"エルバの畑"の画面を開いて、実がなったシュワの木を指でタッチする。

 すると、目の前にポンポンと十粒程の、シュワシュワの赤い実があらわれた。

 

 ――ほほう、薬草の場合はいったん畑から消えて、新芽から生えるけど。木の実は実だけが収穫できるのか。


 流し場にママが水魔法でだした、"飲水用の魔法水"が貯められた水瓶が置いてある。私は棚から水をいれるピッチャーを取りだして、魔法水をピッチャーにいれて、シュワシュワの実を一粒、魔法水の中に落とした。


 その実からシュワシュワ気泡が溢れて、中の魔法水が炭酸水に変わる。


「アール君できたよ、飲もう!」

「はい、エルバ様」


 二人分のコップにピッチャーからそそぎ「いただきます!」と、できたてのシュワシュワを一気に飲み干した。


 喉に染みる炭酸水。


「プッフワァ、おいしい! いつ飲んでも、シュワシュワは美味しいけど、冷たいシュワシュワも飲みたいね」


「冷たいシュワシュワいいですね。さいきん暑くなってきましたから、僕も冷たいシュワシュワを飲んでみたいです」


 ――そうだろうアール君。

 

 昨日、部屋でアール君をブラッシングしたとき、モコモコの冬毛がこんもり取れて、夏毛にかわってきていた。


『爪は自分でできます!』

 

 と、爪切りは断固拒否の姿勢だったので、あきらめた。



 

 今、キッチンでシュワシュワをどう冷やすか、アール君と悩んでいる。


「私も冷たいシュワシュワ飲みたいけど……問題はどうやってシュワシュワを冷やすかだよ。……そうだ、アール君の魔法でコップを冷やすか、氷を出せない?」

 

「おお、氷魔法を使用するのですね? なかなか、おもしろい発想。その氷を僕が出せたらいいのですが……すみません、僕は火魔法しか使えないので無理な話しです」


「へぇ、アール君の魔法は火属性なんだ。私はまだ習っていないから魔法を使えないし……」


 前にみたステータス画面に、氷魔法があったから一応使えるみたいだけど……試しに魔法を使ったら使ったで、すぐパパとママにばれて怒られるだろう。


 ――エルブ原っぱ1ヶ月禁止! にはなりたくない。


「エルバ様、冷やし庫の中にピッチャーごと入れるのはどうでしょう?」


「冷やし庫? それ、いいアイデアだね。蓋付きの容器じゃないとシュワシュワ(炭酸)が抜けると思うんだ……そうだ、この棚に密封容器がなかったかな?」


 冷やし庫とは――魔法の氷を上段に入れて中のものを冷やす、冷蔵庫のような物で。主にモンスターのお肉などの食材と、ママが作った薬を冷やすのに使用している。

 

 私は食器棚の下をあさり、密封できる容器をみつけた。

 いま作ったシュワシュワは二人で飲み干して、新しく作りなおし、密封容器にいれて冷やし庫にしまい。冷やし庫の前で並んでニマニマながめ。


「アール君、あと一時間くらい待てばシュワシュワ、冷えるよね」


「ええ、冷えますね。エルバ様、一時間後が楽しみです」


「うん、うん、私も楽しみ。アール君、書庫に戻って時間を潰そう!」


「はい」




 ❀




 時刻はお昼前、私とアール君は仲良く書庫にいた。




「「な、なんだ、この飲み物は!」」



「あなた、どうしたの? これは、エルバの仕業ね。エルバ、エルバ、いますぐキッチンに来なさい!」


 とつじょ、パパの家が揺れるくらいの雄叫びと。

 ママの私を呼ぶ声が聞こえた。


「パパ、ママ?」


「あ、エルバ様……もしや?」


「うん、そうだね……冷やし庫に入れておいた、私達のシュワシュワをパパが飲んだみたい……」


 アール君が耳をたて、キッチンからする音を聞き。


「そのようですね……シュワシュワを飲んで驚いているようです」


「もう、パパは食いしん坊なんだから!」

「フフ。なんでもよく召し上がる、パパ様です」


 アール君と顔を見合わせた、うなずいた。

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