第10話
可愛い、黒猫ちゃんに怒られた……。
いや、それよりも。
「……ね、ね」
「ね?」
「「猫が人の言葉をしゃべったぁ!」」
「え? ……知らないのですか? きょうびの動物、猫だって言葉くらい話しますよ」
「うそ? 黒猫ちゃん以外にも言葉を話す動物がいるの?」
「ええ、おります」
――おお、さすが異世界!
今度、お隣のカトリーナお姉さんが飼っている"チビドラゴン"と、ナナばぁーの"子トラ"に話しかけてみよう。
「(ボソッ)……まあ、嘘ですけど」
「ん? なにか言った?」
黒猫ちゃんは目を細め。
「いいえ、何も言っておりません。……ところで、あなたのお腹の具合はどうなんですか?」
「私のお腹の具合?」
意味がわからず首を傾げると、黒猫ちゃんは長い尻尾をパシパシ地面に叩きつけて。
「気持ち悪くないか? 痛くないか? 聞いているのです。そんな得体の知れない"シュワシュワ"する不思議な物を飲んで、お腹が痛くないかを伺っているのです」
――得体の知れないシュワシュワ?
あ、そうか……この黒猫ちゃんは私の心配してくれているんだ。
なんて、優しい黒猫ちゃん。
「ありがとう、黒猫ちゃん。この赤い実は食用だから食べても平気なんだよ。……そうだ、あなたも気になるのなら"シュワシュワ"飲んでみる? ぜったい、びっくりすると思うよ」
と、私は黒猫ちゃんの返事を待たず。マジックバッグからコップを取り出し、シュワシュワをそそいで足元に置いた。
目の前――地面におかれシュワシュワ音がなる、コップの中身を黒猫ちゃんはいぶがしげに見つめた。
「フゥ、未知なる体験――(ゴクッ)大丈夫、僕に毒は効きにくい。なにごとも体験あるのみです! ……摩訶不思議(まかふしぎ)なシュワシュワ……いただきます!!」
オズオズ、ピンク色の舌でシュワシュワをペロリ舐めた。その、とたん――頭から猫ちゃんの毛が"ぶわあっ"とふくらむと、それはいっきに尻尾まで走り抜けた。
猫ちゃんは瞳を大きくして。
「お、おお――こんなの初めてです! 面白い、舌と喉がシュワシュワいたします!」
(おお。なんて、いい反応!)
シュワシュワが気に入ったのか。黒猫ちゃんはシュワシュワを一気に飲んでくれた。そして、ペロペ口舌で口の周りを舐め毛繕いをはじめた。
(か、可愛い、スマホに撮りたい! ……猫の仕草って可愛い。私、前世で猫を飼いたかったんだぁ……鳴き声も、もふもふも見ているだけて癒される)
今、この子を撫で回したい。
家に連れて帰って、一緒のベッドで眠りたい。
朝になったら、ぷにぷにの肉球で起こしてもらいたい。
――出来たら、どんなに幸せだろう。
「フフ。……エルバ様、えんりょせず僕を撫でてもいいのですよ」
「エルバ様?」
――え、今、私の名前を呼んだ?
「どうして、名前を知っているの?」
「名前? エルバ様は知らないのですか? 今、この魔法都市サングリアであなたの事を、知らない人はいません。なにせ、エルバ様はコメ草の食べ方をみつけた有名人です」
――私が有名人? コメ草の食べ方はみつけとというか……博士が教えてくれたんだけど。
「ちまたで"エルバコメ"と名前のついた商品が配られました」
「「え、エルバコメ!」」
だから、さいきん外出するとみんなが……優しい瞳でみてきたんだ。
おむすび食べる? とか、お団子どう? とかもあった。
「……でも、そのネーミングは照れちゃうなぁ」
「フフ、実に面白い……エルバ様、僕は"かれこれ"暇を持て余しておりました。実によい暇つぶ……いいえ、エルバ様とお知り合いになりたいです」
今、私のことを"よい暇つぶし"と言ったな。
まあ、黒猫ちゃんは可愛いから、いいけど。
「そうです! 手始めに僕に名前をつけてみませんか?」
「黒猫ちゃんに名前?」
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