第9話

 この――黒猫のアール君との出会いは一週間まえ。

 私は新作の"コメ団子"を食べながら、いつものエルブ原っぱにきている。


「おいしい! この新作モチモチ団子、作った人に感謝!」


 この魔法都市に住む――実験好きな魔法使い、魔女、亜人達はコメ草が食べられると知ったやいなや。

 ぼた餅、野菜などの具をたっぷり挟んだお焼き、せんべい……いま私が食べているモチモチ団子……などなど。元から栽培している食材を掛け合わせて、新しい商品を産みだしている。


 ――怒涛の勢(どとうのいきおい)とはこれの事ね。


 いまに異世界風のカツ丼、親子丼、牛丼……ドリア、シチュー、カレーと、いった私が食べたい食べ物が、知らないうちに出来ているかもしれないくらいの勢い。

 まあ、カレーはターメリック、クミン、コリアンダー……とか? スパイスがいくつも必要だから、いますぐ作るのは無理かな。


 異世界の植物でそれらしい香草、薬草が見かかれば話は別だけど。でも、コムギンーー小麦粉はある、あとバターと牛乳があればシチューもできる。





「ん?」


 エルブの原っぱを探索中――足元に一センチくらいの丸い赤い実が落ちていた。私はしゃがんでその実をつまみ「博士、この実は何?」と聞いた。


《これはシュワシュワの実と言います》


 シュワシュワの実? 

 博士、食べられる?


《はい、食用ですが。そのまま食べるのは危険です》


 ――なに? 危険な食べ物?


 匂いは無臭、この赤いシュワシュワの実が気になる。

 しばらく悩んだすえ……好奇心は勝ちマジックバッグから水筒を出して実を洗い、ペロリと舐めた……。

 

 お、おお、舌の上で名前のとおり"シュワシュワ"する。

 しかし、このシュワシュワはどこかで味わったことがある。


「あっ!」


 そこでピンとひらめき、その実をポチャンと水筒に落とした。すると、水筒のなかでシュワシュワ、パチパチ聞き覚えがある音がする。



 私の記憶が間違っていなければ!

 


「いただきます!」

 

 私はシュワシュワ入りの水を一気に喉に流しこんだ。

 シュワシュワ、喉を炭酸を飲んだときの爽快感が過ぎていく。


「「お? おお――! ……やっぱり! 温いけど炭酸水だ!!」」



 ――私のひらめきは間違っていなかった。


 で、この実はどこから転がってきたの? と、原っぱを見渡すと。

 近くの低木(ていぼく)――私の腰くらいの木にその赤い実はみのっていた。


 博士に低木の名前を"シュワの木"だと教えてもらい。

 "タネ"をもらって畑に植えると、ページの一角にドンとシュワの木が実った。


(ほぉ、いつもの一マスとは違い、低木(ていぼく)は四マス必要なのかぁ……リンゴの木とか、果物の木はまるまる一ページ使うのかな?)

 


 そうだ、博士。

 シュワシュワの実効能は?


《整腸作用、腸内環境を整えます》


 ほほう、お通じがよくなるのか……飲んどこ。


「プハァ、ひさしぶりの炭酸はうまし!」


 "いつでも炭酸水が飲める!"と喜ぶ私は、後ろから鋭い視線を感じた。――だれ? だと振り向くと。

 もふもふの黒猫が1匹、尻尾を揺らし、草の陰からこちらをジッと見ていた。


 ――私が一人原っぱで、ゴゾゴゾしているから気になったのかな?

 

 異世界の猫ちゃんか……この子の尻尾が二本だ可愛い。もふもふ、ふわふな見た目の猫ちゃんにのほほんと声をかけた。


「君はどこからきたの?」


 私が猫ちゃんにそう聞くと。

 黒猫はいきなり"キッ"と膨らみ、威嚇して、バシバシニ本の尻尾を地面に打ちつけ。

 

「君はここで変わったものを食べて毒、麻痺になったのにもかかわらず。――また、調べもせずに食べているのです? ……あなたは学習しないバカですか!」


「…………ええ?」


 いきなり"もふもふ黒猫ちゃん"に怒られた。

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