第11話
――僕に名前をつけてみませんか?
黒猫はそんな事を私に言った。
「私が黒猫ちゃんに名前つける? あなたは名前がないの?」
「はい、いまの僕には名前がありません」
この子に名前がない? と、なると黒猫ちゃんには昔は名前があったけど。
いまは訳があって、その名前が使えないとか?
もしかして、亡くなってしまった、元の飼い主にしか名前を呼ばせたくないとか? 重大じゃない、私が名前をしっかりつけてあげないと。
――このときの私は、この名前付けがいかに重要で、大切なものなのか勉強不足で知らなかった。
「君の名前は……」
心地よい風が頬をなでるエルブ原っぱで、私は黒猫ちゃんの名前を真剣に考えていた。
「よし、決めた。見た目が黒いから、黒ちゃんなんてどう?」
「却下で!」
「え、お断りありなの?」
「はい。自分の名前ですので、よい名前がいいです」
そんな、きらきらな瞳で見ないで……元の飼い主さんよりいい名前なんて――プレッシャーが。
「うぬぬ……」
トム、却下。
ぽぽ、却下。
しげぞー、却下。
「エルバ様は名付けの、センスがありませんね」
「ひどい、これでも……真剣に考えてるのに!」
まめ吉、ココ、またゴロー、モチ太郎……全部ダメ?
だんだん黒猫ちゃんの額の、模様が"ローマ字のR"に見えてきた。
「アール君はどう?」
「アール……いい名前です」
アール君の名前を、黒猫ちゃんは喜んでくれた。
「つぎに人差し指を、僕の前に出してください」
「人差し指? はい」
何も考えず人差し指をだすと、猫ちゃんはその指をガブリと噛み付き、指から流れた私の血をペリッと舐めた。
「え、ええ――私の血を舐めた? な、なんで?」
驚く私とアール君の真下に、赤黒な魔法陣が現れて消えた。
「いまの物騒な色の魔法陣は何? ……アール君? いま、君は私になにをしたの?」
アール君は琥珀色な瞳を細め、しなやかな2本の尻尾を振り、スッと座ると頭を下げた。
「エルバ様、これからよろしくお願いします。ただいま、エルバ様と僕――アール。使い魔としての血の契約は完了いたしました。これから僕をよろしくお願いします――エルバ様」
――血の契約?
――使い魔?
「ちょっと、アール君、君はなんで? こんな大変そうなことを勝手に決めて、実行しちゃうの! 解除の方は知ってるの?」
アール君となった――黒猫ちゃんは首を傾げる。
「エルバ様、申しわけありません」
「ええ、知らないの? そ、そうだママがいた。……ママに聞けばわかるはず! アール君、家に帰るよ!」
「はい、エルバ様。えへへ、久しぶりの名前と、ご主人です……僕、うれしいです」
「こら、アール君、喜ばないの!」
使い魔となったアール君を脇に抱えて、急いで家まで走った。
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