第40話 バレバレの素性

「その汚い手を離しなさい、ヤンキー」

「もう一人現れやがった!? てめぇは誰だ!」

「えーっと、それは」


 助けを求めるようにイレナを見たが、「なにか自分で考えて」と目で訴えられてしまう。


「せ、正義の女子戦士、ホーリーサタンよ!」


 やけくそで名乗る。


「こいつら、みぃのツレ?」

「そんなダサい名前の奴ら知らないし」


 奥村さんは顔をしかめて首を振る。


「まあ誰でもいい。女だからって手加減してもらえると思うなよ?」


 赤髪ヤンキーが拳を振り上げて襲いかかってくる。

 どう見ても自称喧嘩慣れしたヤンキーでしかなさそうだ。

 脇ががら空きで攻撃し放題だった。


「セイッ!」


 脇腹を思いっきり蹴ると赤髪ヤンキーは「ぐほっ」と声をあげる。

 しかし──


「なめんなっ、クソアマっ!」

「なっ……」


 赤髪ヤンキーは私の脚をガシッと掴んで離さない。

 完璧に入ったけど根性で耐えていた。


「ホーリーサタン、危ない!」


 イレナことダークエンジェルが赤髪ヤンキーの顔面を蹴っ飛ばす。

 さすがに効いたようで赤髪ヤンキーの力が抜けた。

 その隙に体勢を整え、イレナを背後から狙っていたピアスヤンキーに飛び膝蹴りを見舞った。


「ぶへぇっ!」


 顔面にヒットし、ピアスヤンキーは鼻血を吹き出しながらぶっ倒れる。


「さあ、逃げるよ!」


 私は慌ててイレナと奥村さんの手を掴む。


「え、あ、うん」

「えっ!? なんで逃げるのよ! とどめささないと!」

「バカなの!? とどめとかさすわけないでしょ。ほら、早く!」


 騒ぎが広がって警察が来る前に逃げる。

 たとえこちらが被害者であっても警察沙汰にしたら面倒なことになるのは明白だ。


 三人で全力で走り、住宅街の入り組んだ小路まで逃げ込んだ。


「ここまで来たら大丈夫でしょ」


 さすがに息が切れ、三人ともその場にしゃがみこんだ。


「信じらんない。勝った正義が逃げるとかあり得ないし」

「まだそんなこと言ってるの、イレ──ダークエンジェル。警察来たらヤバイでしょ」

「悪いのは向こうなのに……」


 イレナは不服そうに口許を尖らせる。


「ありがと、風合瀬」

「へ? なんで名前を……」

「あんな強い女、あんたくらいしかいないでしょ。まあこっちのなんちゃらエンジェルはマジ謎だけど」


 すっかりバレてしまったらしい。

 仕方ないので私はマスクを取って素顔を晒す。


「ちょ、奈月! 美少女仮面は最終回でもマスクを外しちゃ駄目なの! 自覚を持って!」

「これ、美少女が被るタイプのマスクじゃないから」


 少し迷ってからプロレスマスクを自分の鞄に入れる。

 こういうのははじめてのケースだけど、きっと洗って返すのが礼儀だろう。


「奥村さん、あいつらに絡まれて迷惑してるんなら学校とか警察に連絡した方がいいよ」

「めんどーじゃん、そんなの」

「面倒って。危ない目にあうかもだよ?」

「もともとあたしの蒔いた種だから。それに警察とか学校に言ったって、どうせあたしもあいつらと同等に見られてるから仲間内の喧嘩くらいにしか思われないだろうし」


 奥村さんは少し寂しげに呟く。

 やなりこのままでいいわけがない。


「じゃあ権田先輩に相談したら?」

「は? 絶対嫌」

「あの人なら守ってくれるんじゃない?」


 奥村さんは冷たい目をして私を睨む。


「権田に関わられるくらいならあいつらとつるんでた方がましだから」

「でも」


 奥村さんは怒った様子で立ち去っていった。


「よっぽど権田先輩が嫌いなんだね」

「まあ暑苦しいしね、あの人」


 イレナは苦笑いを浮かべる。


「っていうかイレナ。いつもジャージとかマスクを持ち歩いてるの?」

「まあこんな時のために。まあなかなかこんなシチュエーションはないんだけど」

「こんなことしてたら危ないよ」

「よゆーだって」


 イレナはにっこり笑ってピースをしている。

 緊張感がなさすぎる。


「わたし昔から美少女ヒーローに憧れてたんだ」

「あんなものはアニメの中だけ。実際にしたら危ないの」

「だってせっかく強いんだよ? 正義のために使わなきゃもったいないでしょ」


 イレナは真面目な顔でそう言っていた。


「そもそもなんで私の分まであるのよ」

「こんなこともあろうかと思って用意してた」

「そんなことのために二着もジャージを持ち歩いてたの?」

「あと二人で決闘するときもこれ被ってたら身元が隠せるでしょ」


 しれっと怖いことを言う。

 でも確かに顔を隠さず決闘してるのを見られたら面倒だ。


「それにしても奈月ヤバかったよねー。わたしが助けなかったら殴られてたんじゃない?」

「は? あんなの余裕でかわせたし。イレナこそ背後がら空きでピンチだったくせに。私が助けたからよかったようなものの、あのままじゃ後ろから蹴られてたよ」


 しばらくどちらが強いかを言い争い、最後は笑いあっていた。

 やっぱりイレナは最高の親友だ。


「あー、もう疲れた。古林くんのおじいちゃんに会いにいくのはまた別の日にしよう」

「そうだね。じゃあポテトでも食べに行かない? なんかお腹空いてきた」

「えー? いまから? もうすぐ夕飯でしょ」

「いーじゃん。よゆーだって」


 感触ばかりしてるのにどうしてイレナはこんなにスタイルがいいんだろう?

 脚の太さがちょっと気になる私は羨ましくて仕方なかった。




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 美少女仮面のおかげで今日も世界は救われた!

 強いぞ、美少女仮面!

 負けるな、美少女仮面!







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