第39話 正義の女子戦士、ダークエンジェル

 ~ワンパン姫side~


 苦手な教科の課外授業があったので放課後一人で受けていた。

 間もなく期末テストなのでそろそろ真面目に取り組もうと決めたからだ。


 今まではあんまり勉強を真面目に頑張ろうという気概はなかった。

 そんな私の考えを変えさせたのは古林くんだった。


 古林くんは頭がよくていつも成績優秀だ。

 彼女である私があまりに馬鹿だと釣り合いが取れない。

 古林くんほどじゃないにせよ、恥ずかしくない程度の成績を取りたかった。

 とは言うものの──


「あー、だめだ……難しすぎて頭に入ってこん……」


 課外授業が終わった教室で一人机に突っ伏す。

 こんなことじゃまた成績は赤点ギリギリだ。

 古林くんと同じ大学なんて夢のまた夢だろう。


 せっかく古林くんのご両親に応援してもらえたのに、このままでは到底相応しい女性にはなれそうもない。


「奈月が勉強なんて珍しいね」

「イレナ……」


 とっくに帰ったと思っていたイレナが教室に入ってくる。


「待っててくれたの?」

「まぁねー」

「ありがとう」

「奈月と話したいことがあったから」


 そのひと言で、私とイレナの周りの空気がピリッと緊迫した。

 イレナは真剣な眼をして微笑む。


「うん。私も、イレナと話したいことがあった」



 私たちは無言で歩いていた。

 通い慣れた道なのに知らないところを歩いているかのように、景色がよそよそしく感じられる。


 話があると言ったのに、お互いなにも言葉を発しない。


 間もなく駅に着くというところで声をかける。


「あのさイレナ」

「あのね奈月」


 二人の声が重なり、キョトンとして見つめあい、そして笑った。


「奈月からどうぞ」

「ううん。イレナから言って。どうせたぶん同じ話だと思うから」

「そうだね」


 イレナはにっこり笑って頷く。


「どちらが古林くんに相応しいか、勝負して決めよう」

「やっぱり同じだったかー」


 上手に笑えていたか、自信はなかった。

 イレナの笑顔を見る限り、きっと私もぎこちなく笑っていたに違いない。


「許嫁であるイレナを倒せば、私の方が古林くんの結婚相手として相応しいっておじいちゃんにも伝わると思うの」

「そうだね。私の強さを知ればおじいさんも許嫁にして間違いはなかったと思ってくれるね」


 静かに、だけど強く、私たちの視線は交差する。


 イレナは強い。

 この前古林くんと戦ったときの動きを見て確信していた。

 でもイレナを越えなければ、古林くんに相応しい女性になれない。

 なにがなんでも勝たなければならなかった。


「奈月、いまここで決着つけちゃう?」

「ここで戦っても意味ないでしょ。ちゃんとおじいちゃんに見てもらわないと」

「それもそっか」


 イレナはずいぶんとせっかちだ。

 思わず笑ってしまうと、イレナもつられて笑う。

 おじいちゃんの許可を得るため、私たちは古林流幽幻闘技の道場へと向かった。


「あーあ。それにしてもなんで奈月と同じ人を好きになっちゃったんだろう」

「ねー。ま、でも仕方ないよ。古林くんは強いし、優しいし、かわいいから」

「だよね。照れたとき顔赤くするのとか、強いくせにオドオドしてるとことかめっちゃかわいいよね」

「わかる! あとたまにチラッとえっちそうな目で胸とか脚とか見てくるのとかゾクゾクする」

「は? いや、それはないけど……ていうか奈月って見られて興奮するタイプ?」


 しまった。

 はしゃぎすぎてつい歪んだ性癖を暴露してしまった。


「それよりお昼食べてるとき口の周りにケチャップとかついてるのを見るとペロペロなめてあげたくなっちゃう」

「えっ!? それはない。ドン引き」


 イレナもなかなか性癖を拗らせているようだ。

 親友と同じ人が好きというのはすごくモヤモヤするし辛いけれど、古林くんのかわいさや素敵さを語り合えるのはちょっと嬉しい。


「あれ?」


 雑草が生い茂る人気のない公園にガラの悪そうな人たちがたむろしていた。


「どうしたの?」

「いや、あそこの集まりに奥村さんが」

「奥村さんって柔道部のマネージャーの?」


 権田先輩の絡みでイレナも奥村さんの存在を知っている。

 たしか権田先輩が素行の悪い人との交遊を断ち切ったはずなのに、またつるみはじめたのだろうか?


「みぃ、マジでまだ柔道部のマネージャーとかしてんのかよ」

「っせぇな。関係ねぇだろ」

「もしかしてあの権田とかいうゴリラみたいな奴に惚れてんの?」

「はあ? 絶対あり得ないし」


 どうやら仲間としてつるんでいるというよりは絡まれているようだ。


「俺らがあのゴリラをボコってやろうか?」

「お、いいね。やっちまおう」

「やめときなよ。あいつ、強いし」


 権田先輩をバカにされ、奥村さんはちょっとムッとしているように見えた。


「どうしよう、イレナ。警察に連絡しようか?」

「それじゃ意味ないよ。どうせ警察は事件じゃなきゃなんにもしてくれないから」

「でもどうすれば」

「こっち来て」


 イレナは植木に隠れ、私にジャージを渡してくる。

 学校のものではなく、ピンク色の市販のものだ。


「シャツの上からでいいから着替えて」


 よく分からないが、言われるままに着替える。


「はい、これ」

「なにこれ!?」

「プロレスのマスクだよ」


 イレナはマスクを被りながら、当たり前のようにそう言う。


「これで身元はバレない。さあ私たちであいつらをボコっ……懲らしめてやろう」

「はあ!?」


 戸惑う私をおいて、イレナが飛び出していく。


「そこのヤンキーたち、彼女の手を離しなさい!」

「はぁ? なんだてめぇ!」

「私は正義の女子戦士、ダークエンジェルよ」


 うわぁ……いきなり始まっちゃったし……

 しかもダークエンジェルってなに?


 もうためらってる暇はない。

 私も草やぶから飛び出してイレナの隣に立つ。



 ────────────────────



 いきなりダークエンジェルに変身したイレナさん

 風合瀬さんも変身するのでしょうか?


 次回、ダークエンジェル、ヤンキーをボコる!お楽しみに!

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