第27話 息の荒い仮病人

 ~ワンパン姫side~


 あんな女の子らしさの欠片もないお弁当食べさせるなんて、むしろマイナスにしかならない。

 イレナはあんなに可愛くて美味しそうなお弁当を作ってたのに……


 お母さんの手伝いもせず過ごしてきたことを今さらながらに後悔する。


 古林くんは美味しかったなんて言ってくれたけど、あんなの絶対嘘だ。

 古林くんは優しいから、私を傷つけないように気遣ってくれただけ……


 悶々としながら午後の授業を受ける。

 イレナと古林くんは隣同士の席だからたまになにやら会話をしている。

 遠くて聞こえないけれど意識を集中させて二人の会話を聞こうとしていた。


 古林くんがなにか変なことを言ったのか、イレナは口許を隠しながら笑い、古林くんの二の腕を軽く叩く。


 なによ。イレナに触られてニヤニヤして!

 キモ!

 デレデレしちゃってさ。


「あ、痛っ」


 気が付けば先生が私の隣に立っていて、教科書でポンッと私の頭を叩いていた。


「ボーッとしてないでちゃんと授業を聞きなさい」


 クラスのみんながドッと笑う。

 古林くんとイレナもこちらを見て笑っていた。

 恥ずかしさで身体中が熱くなった。



 放課後、イレナが私のもとに駆け寄ってくる。


「ねえ奈月。帰りに古林くんと三人で遊びに行かない?」


 ニコニコしながら腕に絡んでくる。


「なにそれ? 古林くんが誘ってきたの?」

「ううん。私が誘ったら古林くんがいいよって」

「ごめん。私は行かない」

「えー? なんでよ」


 イレナを振りほどき、教室を飛び出した。

 本当は誘ってもらって嬉しかったのに、私は本当に可愛くない。


 イレナも好きだし、古林くんも好き。

 だけど大好きな二人が仲良くしていると胸が痛い。


(古林くんのバカ。古林くんのバカ)


 何度も古林くんに八つ当たりしながら帰宅した。

 家に着くと鞄を投げ出してベッドにダイブする。

(今ごろイレナと古林くんは……)

 悶々としながらベッドをゴロゴロ転がった。


 ブブブッという音がして、鞄からスマホを取り出す。


『なんで帰っちゃうのよ。奈月が来ないなら行かないって古林くんも帰っちゃったよ!』


 怒りのスタンプと共にメッセージが送られてきた。


 行かなかったんだ、古林くん……


『ごめん。次はちゃんと行くから』


 土下座をするスタンプと共にそう返信する。


 イレナと二人きりで遊びに行かなかった。

 ただそれだけなのにすごく嬉しかった。


 写真ホルダーを開け、古林くんの写真を眺める。

 以前二人で動物園に行ったときに撮ったものだ。

 優しげに微笑む古林くんを見ているとこっちまで笑顔にさせられる。


『わざわざ僕のために作ってくれたんだろ? その気持ちが嬉しいんだよ』


 お弁当の感想を聞かせてくれた古林くんの姿が脳裏に甦り、トクントクントクンと心拍数が上がっていく。

 それと同時にお腹の奥の方がふわふわと熱を帯びてきた。


(えっ……ちょっとダメだって……)


 理性が拒んでいるのに、指はそれに従わない。

 スカートを少し捲り、太ももを指で擽った。


「んっ……」


 甘い電流が身体を駆け抜け、びゅくっと震える。


(もう絶対、古林くんをそんなことに使わないって決めてたのにっ……)


 写真の中の古林くんを見詰めながら、指はどんどん下腹部へと近づいていく。

 ぞわぞわっとなってピタッと太ももを閉じる。

 それでも指は止まらなかった。


 ──と、その瞬間。


「えっ、古林くん!?」


 スマホが急に震えて着信を伝える。

 メッセージではなく、電話だった。


 タイミングがタイミングだけに心臓が飛び出すくらいに驚いてしまった。


(どうしよう……)


 パニクりながら、そのままの格好で通話をオンにする。


「も、もしもし」

「あ、風合瀬さん? 古林です」

「どうしたの? イレナと遊びに行ったんじゃなかったっけ?」


 それは断ったと知っているのにわざと困らせることを言う。


「い、いや。あれは断ったよ」

「どうして? 二人で行けばよかったのに」

「それは、だって……」

「だって、なに? ちゃんと言って」


 電話をするなんて、私は変態かもしれない。



 ~古林くんside~



「それは、その……風合瀬さんがいなかったから」

「んんっ!」

「えっ!? どうしたの?」

「な、なななんでもない!」


 なんだか風合瀬さんの息が荒い。

 軽く走りながら電話をしているかのようだ。


「いま電話してて大丈夫?」

「うん。へーきだよ」

「もしかして具合悪い?」

「なんで?」

「息が荒いから」

「そ、そうなの。ちょっと熱っぽくて。だから遊ばずに帰ったんだ。ごめんね」

「ええー!? 大丈夫!?」


 学校では元気そうだったから、急に具合が悪くなったのかもしれない。


「うん。心配してくれてありがと」

「熱はあるの?」

「たぶん、あると思う」

「計ったの? 何℃だった?」

「体温計では計ってない。指先で結構熱いのが分かるから」

「指で計ってるの!?」


 額に手を当てて熱を測る姿が思い浮かんだ。

 風合瀬さんらしいけど、こういうときは笑えない。


「ちゃんと体温計で測った方がいいよ」

「ああっ……うん、そ、だね。んぅ……」


 はぁはぁという息遣いが大きくなっていく。

 これは結構ヤバイかもしれない。


「今から行くよ。ちょっと待ってて」

「い、いまはダメっ!」


 ものすごく強く否定されてしまった。

 そりゃそうだ。

 女の子の家に突然男子が押し掛けるなんて非常識だ。


「じゃあ病院に行かないと」

「大袈裟だよ」

「念のために診てもらった方がいいよ」

「そうかな? わかった」

「一人で行けそう?」

「う、うん。もうすぐイケると思う」

「もうすぐ?」


 忙しいのだろうか?


「ご、ごめんね、古林くん」

「へ? なんで謝るの?」

「ううっ……い、イクね、病院」

「無理しないで。付き添おうか?」

「だいじょ、ぶ」


 相当弱っているようで、なんだか心配になってしまう。


「もしもし、風合瀬さん?」

「もぉ、無理かも。イクね。病院、イクからっ、ああっ古林くぅんっ……ごめっ、なさいっ……」

「風合瀬さん、やっぱり僕も一緒に行くよ」

「や、だめ。無理っ。えっちなこと言わないで!」

「え、えっち!?」


 病院の付き添いがエッチだなんてはじめて言われた。

 熱にうなされておかしくなったのかもしれない。


「とにかく行くから。(家の)中に入れてくれなくていいから、一緒に(病院に)行こう!」


 電話を切って大急ぎで風合瀬さんの家へと向かった。

 電話を切る間際、風合瀬さんの甘えた声のような悲鳴が聞こえた気がした。


 ────────────────────



 妄想女子の放課後は忙しい。

 そんな忙しい最中に家へと向かってしまう古林くん。

 事情を察してあげて!


 usuiさん。おすすめレビューありがとうございます!

 アルゼンチン対クロアチア戦を観ている午前五時にレビュー頂いて驚きました!

 そんな早朝から本当にありがとうございます!


 そして本日驚くほど星レビューを頂いてビックリしました!

 皆さん、本当にありがとうございます!

 そんないい流れなのにこんなはしたない展開でごめんなさい。

 ブックマーク消さないで下さいね!

 ちゃんと次回は純愛しますんで!








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