第24話 最強のライバル

 ~ワンパン姫side~


 えっ?

 えっ?

 ええーっ?

 えええーっ?


 ちょっと待ってっ!


 イレナが実は武術の腕に覚えがあって、私と戦うために同じ高校に入った!?

 しかも私と古林くんが付き合いはじめてから牙が抜けたと憂いていて……


 で、ヤンキーを使ってそれを試して……


 しかも古林くんのフィアンセだった!?


 いやいやいや!

 ちょっと待ってって!

 頭が追い付かない!


 しかも婚約を破棄するためにイレナが古林くんと戦い始めるって……


 なにがどうなってるのよ!


 二人の決闘は合図もなく既に始まってしまった。

 互いに隙を伺うように距離を詰めたり離れたりを繰り返す。


 その動きを見ればイレナが本当は強いというのはすぐに分かった。

 これまで全くそんな素振りもなかったのに……


「あっ……」


 いや、あった。

 イレナはたまに気配もなく近付いてきて、背後から抱きついてきたりした。

 私は人の気配に敏感だし、背後をとられるなんてことはまずない。

 しかしイレナは何度も私を背後からハグしてきた。


 ボーッとしていたからだと思っていたけど、そうではなかった。

 あれは全てイレナの気配を消すステルス能力だったのだ。


 親友と彼氏の決闘……

 私はどちらを応援すればいいのだろうか?




 ~古林くんside~


 イレナさんがどんな動きをするのか全く分からないので、僕は様子を伺いながら相手の出方を待った。


「怖じ気づいたの?」


 イレナさんは馬鹿にしたように笑う。

 恐らく煽っているのだろう。


「そりゃそうだよ。イレナさん強そうだし」

「だったら私からいかせてもらうね」


 イレナさんは素早くジャブを打ちながら身体を左右に動かし、僕の回りをステップしながら回る。

 その動きはさながらボクサーだ。


 しかし次の瞬間、素早くローキックを放ってくる。

 意識を上半身とパンチに向けさせてからのフェイントだ。

 なんとかバックして避けると鋭くエルボーを打ってくる。

 次に膝、またパンチ、更にキック。


 それらをガードしたり捌いたり対処した。

 多分まだ本気で攻撃してきてはいないのだろうが、それらの一つひとつがあまりにも速い。

 これは風合瀬さんよりも強いかもしれない。


「逃げてばっかりじゃ勝てないわよ」

「逃げるので精一杯なんだって」

「嘘つき」


 既に何発かは避けきれず、当たっている。

 イレナさんの言う通り、攻撃をしなければ勝てない。


 相手の攻撃を捌いて隙をつくって攻撃する。それが古林流であるが、イレナさんはその隙を作らせてくれない。

 とはいえ攻撃してくるイレナさんもなかなか決定打を与えられず焦れているようだ。


「じゃあこれはどうかしら!」


 イレナさんは大きく脚を振り上げて半月を描く軌道で蹴りを放ってきた。

 これまでのコンパクトで素早い動きとは違う大技だ。

 しかし隙も予備動作も多すぎだ。

 上半身をそらして蹴りを避けると、イレナさんの軸足を払って転ばせる。


「きゃあっ!?」

「ごめんね」


 そのまま足首を掴み、関節技を決めにいく。


「ちょっ、やめてよ!」とイレナさんが寝転んだ状態で顔を蹴ってくる。さすが素早い反応で拘束を解かれてしまう。


「なんでよ!? もうっ! こうなったら」


 イレナさんはブラウスのボタンを二つ外し、前屈みの姿勢になる。

 レスリングのタックルを狙うような姿勢だ。

 イレナさんの家の武術は実に多種多様な動きがある。


「避けられるかしら?」


 イレナさんはニヤリと笑いながら突撃してくる。

 確かに速いけれど、でも避けきれない速度ではない。

 ひらりと横にかわし、逆に背後をとって腕と肩の間接を締め上げた。


「んああぁあー! 痛っ……」


 このまま締め上げたら怪我をする。

 勝負はあっただろう。

 僕は拘束を解いた。


「ごめんね。痛かったよね」


 謝りながら起き上がらせるとイレナさんは捕獲された狼のような眼をして僕を睨んできた。


「どういうことよ!」

「え?」

「なんでキックとかタックルをかわせるのよ!」

「いや、それは……むしろその二つは動きが無駄に大きかったからかわしやすかったんだけど……」


 思った通りの感想を述べるとイレナさんは顔を真っ赤にした。

 元々色白なので、紅潮すると本当に赤い顔になる。


「奈月から聞いてるんだからね! 古林くんはエッチだからパンツを見せたり、おっぱいを見せると隙が出来るって!」

「は?」


 驚いて風合瀬さんを見ると気まずそうな、表情をして目をそらす。


「なんていうことを教えるんだよ!」

「だって仕方ないでしょ! あのときはまさかイレナが暗殺武術の使い手で私や古林くんを狙ってくるなんて知らなかったんだから!」

「いや、そういう意味じゃなくて。普通人がむっつりスケベだなんて噂を広げないだろ! っていうかむっつりじゃないし!」


 恥ずかしさで消えてしまいたくなる。


「脚を思い切り上げてパンツ見せてあげても、ブラウスのボタンを外しておっぱいの谷間をサービスしてあげても、全然見ないじゃない! 話が違う!」

「いや、盗み見なかったことを叱られても……」

「なによ! そんなに奈月がいいわけ? 私のなんて見る価値もないってこと?」

「い、いや、まあ、それは……」


 イレナさんの理不尽すぎる怒りに弱ってしまい、助けを求めるように風合瀬さんを見る。

 しかし風合瀬さんも顔を赤くして顔をそらしていた。


「ひどい! 婚約者の私より、他の女の子の方が興味あるのね!」

「いや、結婚したくないんだよね、イレナさん」

「それとこれとは違うの!」


 イレナさんは怒りながら地団駄を踏む。


「絶対このままじゃ終わらないんだから! 負けないからね!」


 イレナさんは目をうるうるさせて駆け去っていった。


「私だって負けないし!」


 その背中に風合瀬さんが声をかける。


「いや、負けないって言ったのは僕にたいしてだと思うけど?」

「いいの! 古林くんは黙ってて!」


 なんだか僕の高校生活は更にあらぬ方向へと加速していってしまった気がする。



 ────────────────────



 なんとか勝利を収めた古林くん。

 しかし戦いはまだ始まったばかり。

 格闘狂の脳筋娘を倒してしまうとどうなるのか?

 その答えは既に古林くんが体験済みです!


 風合瀬さんは最強のライバルに勝つことが出来るのでしょうか?


 そして本作にはじめておすすめレビュー頂きました!

 マコンデ中佐さま、ありがとうございました!

 おすすめレビュー頂けるのって本当に人気作って感じがしてすごく光栄です!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る