第21話 不自然に手を繋ぐ
バッティングセンターを出てからもしばらく走り、駅に近づいてから止まる。
ずっと手を繋ぎっぱなしだったことに今さら気付く。
目が合うと風合瀬さんはサッと手を引っ込めた。
「ごめん。痛かった?」
「ううん。だいじょぶ……」
「怪我はない?」
「うん。守ってくれてありがと……」
風合瀬さんはちょっと照れくさそうにうつ向いた。
予想外の反応に驚く。
てっきり『あれくらいなら私一人で倒せた』とか言うと思っていたのに。
「ごめんね、古林くん。強いの隠しているのに、結構本気で戦わせちゃって」
「そんなこと気にしないでよ。そもそも見知らぬ人になら強いってバレても害はないし」
「やっぱり強いんだなぁって改めて感心しちゃった」
風合瀬さんはチラッチラッと上目遣いで僕を見る。
あの血気盛んな風合瀬さんとは思えない。
なんだかドキドキして、視線を合わせられなかった。
「い、いつもあんな風に絡まれてるの? 風合瀬さんも大変だね」
「ううん。さっきみたいに見知らぬ人に絡まれたのははじめて。びっくりしちゃった」
「へ? そうなんだ」
彼女はこくっと頷く。
「私に挑んでくるのはみんな付き合いたい人ばっかりで、あんな感じでただ絡まれたことはなかったから」
言われてみればそうだ。
いきなり決闘を申し込まれることはあっても、それは目的がしっかりしている。
今回みたいに絡まれるのには慣れてないのだろう。
「じゃあやっぱり僕のせいだね」
「どうして?」
「僕みたいに冴えない男が風合瀬さんみたいな美少女連れているから生意気だと思われたんじゃないかな」
笑いながらそう言うと、風合瀬さんの顔はみるみる険しくなっていった。
「古林くんは冴えない男なんかじゃないよ。真面目でしっかりしてるし、すごく優しいから。それにさっき私を守って戦ってくれている時とか、すごくかっこよかったし……」
「そ、そう? ありがとう……」
褒められ慣れてない僕は強烈に照れくさくなり、変な汗をかいてしまう。
「と、とりあえず帰ろっか」
このままでは心臓が持たない。
逃げるように駅は向かおうとした、そのとき──
「ッッ!?」
風合瀬さんが僕の手を握ってきた。
「まだちょっと怖いから、手を握ってて」
「う、うん。わかった」
確かに風合瀬さんの手は震えていた。
突然ヤンキーに絡まれて相当怖かったのだろう。
安心させるために強く握り返すと、風合瀬さんはビクッと一瞬目を大きく見開いた。
逆効果だったのかもしれない。
「ごめん。痛かった?」
「ううん。大丈夫」
風合瀬さんもギュッと握り返してくる。
一瞬力比べを挑んできたのかなと思ったけど、どうもそんな表情ではなかった。
~ワンパン姫side~
やばっ……
私の方から手を握っちゃったっ!
とっさにまだ怖いとか嘘ついたけど、強く握り返されたし、絶対ウソだってバレてるよね……
さっきの三人組ヤンキーなんて私一人で倒せることは古林くんだって気付いてるはず。
まだ怖いとかあり得ない嘘だ。
それにしてもさっきの古林くんはかっこよかった。
私を守るように背中で庇って、あっさりと倒しちゃうんだもん。
しかもあんな奴らにさえ怪我させないように気を遣って戦うなんて、古林くんは本当に優しい。
心臓が激しく暴れていて、繋いだ手から伝わってバレないかとヒヤヒヤする。
古林くんも私と同じようにドキドキしてるのかな?
チラッと顔を見上げると慌てて目を逸らされる。
でも嫌がっているというよりは照れているって感じ……
もしかして古林くんも私のこと好き、とか?
いやいやいや。
それはない。
いやもしかしたら、ある、のか?
繋いだ手が異様に熱くなってきた。
「さ、さっき私のこと、美少女とか言ってたよね? あり得ないから」
否定してもらいたくてそんなことを言ってみる。
「いや美少女だって。目が大きいし、小顔だし、顔のパーツの配置も整っているよ」
「そんな細かく分析してるの!?」
「ごめん。キモかった?」
「き、キモくなんてないけど……でも美少女ってイレナみたいな子を言うんじゃない?」
古林くんに褒められると頭がふぁーって熱くなる。
目も泳いじゃってるし、私が好きなのバレバレじゃん……
「イレナさんね。確かに彼女も綺麗だよね」
違うっ!
イレナより可愛いって言って欲しかったのに!
もう、最低!
ってまあ、イレナは東欧とのミックスだし、誰が見ても女神のような美しさだから仕方ないけど。
内心のガッカリを見抜かれないよう、笑顔で頷く。
「でしょ? 美少女っていうのはああいう子のこというの」
「でも僕は風合瀬さんの方が素敵だと思うよ」
「ッッ!? な、なに言ってんのよ! 眼科行った方がよくない?」
古林くんは顔を赤らめ、「そうかなぁ」と首を傾げる。
これじゃ本当にバカなカップルだ。
「そういう古林くんだってかわいいと思うよ」と言おうか迷っていると──
「あれ? 奈月ぃー!」
甲高い声が聞こえ、私たちはビクッと震えながら慌てて握っていた手をほどく。
「イ、イレナ? どうしたの?」
「ちょっと一人で買い物に。あれ?」
イレナは古林くんを見て、ニマーッと笑う。
「お邪魔だった?」
「ち、違うし!」
「僕たちはちょっとブラブラしてただけで」
「ちょっとラブラブしてた?」
「どういう聞き間違いしてるのよ、もう!」
絶対からかってる!
たまにイレナはこういう風に悪のりするからたちが悪い。
「なに慌てて否定してるの? クラスどころか学校中が付き合ってること知ってるんだから」
イレナの言う通りなんだけど、デートをしているところを見られるのはやはり照れくさい。
ましてや手を繋いでいらところなんて絶対に見られたくない。
「奈月は純粋な子だから変なこと教えちゃダメだからね、古林くん」
「へ、変なことなんてっ」
「じゃーねー!」
イレナは笑いながら立ち去っていく。
妙に盛り上がっていた空気は消え、今さらもう一度手を繋ぐのはさすがに無理だった。
「帰ろうか?」
「うん。そうだね」
あのままの流れだったらどうなったのだろう?
残念だけど、ちょっと安心している自分もいた。
────────────────────
あー、もう、古林くん!
そこはガツンといかなきゃ!
もどかしい奴だ!
俺に貸せ、もっとうまくやるから!
取り乱してすいません。
なんだかんだお似合いの二人になってきました。
でもそう簡単にうまくいくはずもなく。
頑張れ、二人とも!
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