第20話 ヒャハる雑魚の急襲

 昼休みに教室で伊坂くんとお昼を食べていると権田先輩がやってきた。


「よう古林。変な奴に絡まれてないか?」

「はぁ、まあ……」


『今まさに絡まれてます』とは言えず頷く。


「風合瀬と付き合いたいって奴は意外と多いんだな。何人か無謀にも俺に挑んできた。みんな返り討ちにしたけどな」

「それは大変でしたね。ありがとうございます」

「あいつら朝とか放課後とかこっちの都合無視でくるんだよ。考えてみれば風合瀬も大変だったんだな。なんかちょっと申し訳なくなってきた」


 対決を挑まれる立場になって風合瀬さんの苦労も分かったらしい。

 なによりである。


「じゃあもう風合瀬さんに勝負を挑まないんですね?」

「ああ。もう風合瀬とは戦わない」

「よかった」

「でも古林とは戦うからな」


 そうだった。

 最近挑まれなくなったからうっかり忘れていたけど、今は風合瀬さんじゃなくて僕に勝てばいいのだ。


「諦めたわけじゃなかったんですね」

「当然だ。必ずお前を倒して風合瀬と付き合う!」


 風合瀬と付き合うと断言されてしまい、ついムッとしてしまう。

 いつもなら軽く流せる程度の煽りなのに。


「じゃあ今からやりましょうか?」

「いや。悔しいがいまの俺ではお前に勝てないだろう。だがもっと訓練をし、お前を倒す」


 悔しそうな瞳で僕を見る。


「それまではお前が風合瀬の彼氏だと認めてやろう」

「別に先輩に認めてもらう必要はないんですけど……」

「ただしっ! 風合瀬を泣かせるようなことをしたら絶対に許さないからなッッ!」


 とてつもなく気合いを入れた顔でそう言われる。

 風合瀬さんのことを心配しているのはひしひしと伝わってきた。

 暑苦しくて脳筋で不器用な人だけど、悪い人ではない。

 そう感じた。


「泣かせるようなことはしませんから」

「分かってる。お前はそんな奴じゃないもんな」

「むしろ僕が泣かされる立場ですから」


 冗談を聞いたかのように権田先輩は笑いながら去っていく。

 あの人も風合瀬さんと付き合えば分かるはずだ。

 メスライオンを飼い慣らすことなんて出来やしないということを。


 その日の授業中、風合瀬さんはしょっちゅう居眠りをして先生に叱られていた。

 昼寝をするところまでライオンにそっくりだ。


(寝不足なのかな?)


 どうせ僕に負けたのが悔しくて、どうやったら勝てるのか頭の中でシミュレーションでもして寝られなかったのだろう。

 人生初の彼女が僕を付け狙う人だなんて。

 思い描いていた彼女のいるリア充生活とは程遠い。



 放課後は最近の恒例で風合瀬さんと一緒に帰った。


「今日は居眠りばかりしてたよね。昨日眠れなかったの?」


 他愛もない会話をしたつもりだったのに、風合瀬さんはビクッと震え、顔を真っ赤にしながら睨んでくる。


「ち、ちちち違うからね! すけべ!」

「へ!? なんのこと?」

「なんでもない!」


 風合瀬さんは時おりこんな風に怒り出す。

 まだまだ僕は彼女の性格を把握しきれていない。


「あー、すっきりしない。ねぇ古林くん、バッティングセンター行こう!」

「僕はあまり得意じゃないんだけどなぁ」

「だからいいんじゃない。ほら、行くよ!」


 昨日僕に負けた憂さ晴らしなのだろう。

 風合瀬さんは気持ちいい快音をあげてボールを打っていく。

 きれいな弧を描き、ホームランマーク付近に次々と打球を飛ばしていった。

 一方僕はアメリカの古いアニメみたいに、身体を回転させるような豪快な空振りを続けていた。


「あはは。古林くん、風が気持ちいいよ。もっと空振りして」

「相変わらず煽り上手だね」


 ヘトヘトになりながら打席を出ると、バッティングセンターの空気が少し異質なものになっていた。

 先程までいた他のお客さんは消えており、妙にピリついた空気が漂っている。


 店員の姿もなく、代わりにガラの悪そうな三人組がニヤニヤ笑いながらこちらに近付いてきた。


「ダセェくせにかわいい彼女連れてんじゃん」

「やっちまうか、コイツ」


 ガラの悪い奴らは知性の欠片もない笑い声をあげる。

 威嚇しているつもりなのだろうか?


 たいして強くはなさそうだが、三人いっぺんに相手にするとなるとそれなりに本気でやらなけらばいけないだろう。

 しかもここはバッティングセンター。

 鈍器には事欠かない。


「なにあんたら。キモいんだけど」

「ちょ、風合瀬さん」


 わざわざ煽らなくても……


「こんな奴ら私ひとりで──」

「やるなら相手になりますよ」


 風合瀬さんが暴走する前に僕が彼らの前に立つ。


「女の前だからってイキんなよ、この──」


 一番キャンキャン吠える奴のみぞおちに掌底を打ち込むと、くの字に体を曲げて膝から崩れ落ちた。


「てめぇ!」

「ぶっ殺すぞ!」


 大振りなパンチに大仰なキックをかわす。

 おじいちゃんに習ったようにこちらからは打たず、相手の攻撃をゆるゆるとかわしていく。

 勢いよく突撃してくるので時おり牽制で足を引っかけて転ばせたり、肩を押して体勢を崩す。


「はぁはぁ……てめぇ、ナメてんのかよ! 攻撃してこい!」


 体力の限界で足元もおぼつかないのに威勢よく吠えてくる。

 こんなひょろっとした奴にからかわれて怒っているのだろう。

 ちょっと可哀想な気もするけれど、向こうから絡んできたんだし、風合瀬さんにも危害を加えようとしていた。

 情けは捨てて懲らしめるか。


「ていっ!」


 手のひらを槍の先端だと思い、みぞおちを鋭く素早く、そして重く打つ。

 おじいちゃんの教えだ。


「かはっ……」

「うぐっ……」


 ギリギリ立っていたヤンキーもぐらりと揺れながら前のめりに倒れていった。


「さ、早く行こう!」


 警察なんて呼ばれたら大変だ。

 僕は風合瀬さんの手を握り、大急ぎでバッティングセンターをあとにした。



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 Webで小説を書いていると読者様のリアクションが直でわかるのでとてもありがたいです。

 昨日の更新以降とても多くの★を頂き、正直驚きました。

 読者様の反応は最大のアドバイス!

 今後の参考にさせていただきます!


 ヒャハるヤンキーにバッティングセンターで絡まれるなんてよくある話ですよね!(ない)


 でもしょせん古林くんの敵ではありませんでした。


 風合瀬さんを守り、さらに古林くんの株は上がったでしょうか?

 それとも獲物を横取りされたと怒るのか?

 物語はそろそろ新展開を迎えます!

 お楽しみ!



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