第9話 初デート!

 挑戦者は一日一人という風合瀬かそせさんのルールを守り、その日は誰からも挑戦は受けなかった。

 しかしクラスの男子をはじめ、みんなが虎視眈々と狙っているのをひしひしと感じていた。

 やはり権田先輩に勝ったのはまぐれだと思われているのだろう。


 ようやく放課後になり、さっさと下校する。

 校舎を出たところで風合瀬さんが待ち伏せていた。


「なんで本気で戦わないわけ?」

「別にいいだろ。勝ったんだし」


 立ち止まらずに進むと風合瀬さんが隣を歩いてきた。


「一応は私の彼氏なんだからかっこよく戦ってよね」

「嫌だよ。変に目立ちたくないし」

「もう十分目立ってるから」


 ぷりぷり怒りながら僕を睨む。

 確かに風合瀬さんは可愛い。

 目はくりっと大きいし、唇もぷっくりとしててツヤツヤしている。

 そして胸の膨らみも目を見張るものがあった。

 けれど刺々しい性格がそれらを台無しにしている。

 みんなが風合瀬さんと付き合いたいという気持ちがさっぱり理解できない。


「ねぇ古林くん、明日の予定は?」

「明日って土曜のこと? 別にないけど」

「じゃ、じゃあちょっと付き合ってよ」


 風合瀬さんは怒ったようにプイッとそっぽを向く。


「嫌だよ。なんで僕が休みの日まで風合瀬さんに付き合わなきゃいけないんだよ」

「はあ!? 彼氏でしょ。デートとか当たり前だし」

「デ、デデデート!?」


 想像もしてなかった単語に度肝を抜かれる。


「キョドりすぎ。付き合ってるなら普通でしょ」

「いや、でも……」

「ダメ?」


 断ろうと思ったが不安そうな顔で首を傾げて聞かれてドキッとする。

 不覚にも可愛いと思ってしまった。


「べ、べつにいいけど……」

「よし、じゃあ決まりね!」


 風合瀬さんはにぱっと笑い、拳をぎゅっと握る。


「でも僕なんかとデー……出掛けても楽しくないと思うよ」

「そう? なかなか興味深いよ、古林くん」

「そうかなぁ?」

「じゃ、また連絡するんで!」


 そう言うなり風合瀬さんは駅の方に向かって駆けていってしまった。

 まったく忙しい人だ。



 軽々しくデートの約束なんてしてしまったけど、もちろん僕にそんな経験はない。

 人生初デートである。

 風合瀬さんからは待ち合わせ場所だけ指定されていた。

 デート用の服なんて持ってないので取り敢えずチェックのシャツとチノパンという無難な格好を選んだ。


「ごめん、古林くん。お待たせ!」


 小走りでやって来た風合瀬さんはほんのりと化粧をしていて、学校で見るより少し大人びて見えた。


「ぼ、僕も今来たところだよ」


 ショート丈のスウェットにジーンズというカジュアルな格好が風合瀬さんらしくてよく似合っている。


「よし、じゃあ行こっか!」

「どこに行くの?」

「着いてからのお楽しみ」


 ずんずん進む風合瀬さんのあとを追って到着したのは屋内アミューズメント施設だった。


「へぇ。こういうとこはじめてきたよ」

「マジで?トランポリンとかボーリングとかあって楽しいよ!」


 そのチョイスが風合瀬さんらしくて、なんだか面白かった。

 風合瀬さんが最初に選んだのはトランポリンだった。


「どっちが高く飛べるか勝負ね!」

「普通に楽しめばいいんじゃないの?」

「ダメ。競うから楽しいんでしょ」


 さすが経験者というだけあって風合瀬さんは軽やかに飛んでいた。

 一方僕は力の入れ方や重心の取り方が分からず、数回ジャンプしたら転んでしまう。


「ほら、見て見て! こんなこと出来るし!」


 風合瀬さんは高く飛び、空中でくるんと一回転をしていた。

 軽やかで見事なんだけど、ショート丈のスウェットを着てるからお腹が見えたり、もっと際どいところが見えてしまいそうでヒヤヒヤしてしまう。

 胸元も奔放にぽよんぽよんと弾んで形を変えていた。


 結局トランポリンは風合瀬さんの圧勝ということでジュースを奢らされる。


 続いてサッカーボールを蹴って九つの的を撃ち抜くストラックアウト、バスケのスローインゲームをするが、すべて風合瀬さんに負けてしまった。


「ちょっとぉ、古林くん。わざと負けてるでしょ?」

「そんなことないよ。そもそも僕は古武術を使うっていうだけでスポーツ万能って訳じゃないんだから」


 僕に連勝して風合瀬さんは嬉しそうである。

 その姿が負けず嫌いの小学生男子のようで、思わず頬が緩む。

 デートしているという緊張感などとっくに消え、純粋にここ施設を楽しんでいることに気がついた。


 美人で人気者で、その上めちゃくちゃ強くて、正直自惚れてて気取った嫌な人かと思っていた。

 でも実際こうして遊んでみると、気取らず子どもっぽくて面白い人だと知れた。

 勝手なイメージをもって人と接するのはよくないと改めて感じた。


「よし、じゃあ次はビリヤードしようよ」

「お、なにやら自信ありな感じだね、古林くん。いいよ。相手になってあげる」


 ビリヤードなら少しやったことあるので勝てるかもしれない。

 ルールはポピュラーなナインボールにした。


 目論み通り風合瀬さんはビリヤードをしたことがなかった。

 しかしなんでも器用にこなす彼女はすぐにコツを掴み、ショットはなかなかまともになってきた。

 でも──


「あー、もう、悔しい! なんで思ったように当たったボールが動かないのよ!」

「そりゃ力任せに打ってもコントロールはできないよ。強く当てるんじゃなくて弱くこつんって当てた方がいいときだってあるし」

「えー? なんでよ。ちょこんって当たるよりガツンッて当たった方がいいに決まってるでしょ!」


 考え方が脳筋すぎる。

 根本的にビリヤードに向いていなかった。



 ────────────────────



 文句をいいつつも楽しむ古林くん。

 ようやく風合瀬さんの魅力も分かり始めてきたようですね!


 明日は19時からワールドカップ日本対コスタリカ!

 みんなサッカーに忙しいと思いますので更新は18時頃に行います!

 よろしくお願いいたします!

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