第7話 素っ気ない返事

 放課後を待たずして学校を飛び出したから、幸いその後は誰からも挑まれることはなかった。

 しかし明日はまた誰かに決闘を申し込まれるのだろう。


「はぁ……憂鬱だな」


 正直負けるとは思わないけど、暴力を振るうのは嫌いだ。

 なにかいい方法はないものかと悩んでいると、スマホが震えた。

 メッセージの送り主は風合瀬さんだった。

 珍しい名字で読みづらいからか、『かそせ』とひらがなの名前で登録しているらしい。


『真面目に戦って!』


 怒った熊のスタンプと共に短いメッセージが届く。


『勝ったからいいでしょ』


 少しイラッとしながら返信すると驚くほどの早さで返信がくる。


『あんな勝ち方、かっこ悪いでしょ』

『戦い方まで指示しないで

 それにそもそも僕の使う古林流幽幻闘技ゆうげんとうぎは相手からの攻撃を受け流したり利用して戦う護身術的なものなんだから』

『なにそのお経みたいな名前。中二病?』

『知らないよ。僕がつけたんじゃないんだから』


 気にしていることを言われて、ちょっと凹む。

 風合瀬さんはデリカシーに欠ける人のようだ。


『どう見てもまぐれ勝ちだと思われてるよ

 あれなら勝てそうだから決闘を申し込もうとか言ってる男子もけっこういたし』


 あー……やっぱりか……


『一応私の方でルールは説明しておいたから

 一日一人、武器を使うのは禁止、決闘は校内のみとし、人目につかないところで行うこと

 これを破ったら無効試合にするって』

『ありがとう。助かる』


 僕が言っても効果はないだろうが、風合瀬さん本人から言われたら効果は絶大だ。

 そんなルール無視で挑んでくる人もいるかもしれないけれど、勝ったところで風合瀬さんと付き合えないと分かれば無駄な喧嘩をする人はそうそういないはずだ。


『あと転んでいたけど、怪我とかしてないよね?念のため』

『もちろん。わざと転んだふりしただけだから

 心配してくれてありがとう』

『別に心配とかしてない』


 優しいところもあるのかと思いきや、やはりそんなことはなかった。

 きっとルールを決めたことを伝えたかっただけなのだろう。

 見た目は確かに可愛いけれど、中身はサバサバとしてツンと冷たい感じである。

 やっぱり彼女はちょっと苦手だ。


 さっさと会話を打ちきるめを送って終わりにしてしまおう。



 ~ワンパン姫side~



『心配とかしてない』

 と打ったあと、素っ気なさ過ぎるので書き直そうと思った。

 しかしその瞬間、ツルッとスマホが滑り、落とさないように慌ててキャッチしたら送信を押してしまっていた。


「うわ、やっちゃった! なんでこんな時にスマホが滑るのよ!」


 気付くと手のひらは汗でだくだくに湿っていた。

 慣れない男子とのメッセージのやり取りで緊張してしまっていてらしい。


「どうしよう……絶対嫌な子だと思われてるよね……」


 すぐ既読がついてしまったから、今さら消しても意味がない。

 自分の迂闊さを呪ったが、そもそもそのメッセージを書いてしまったのも事実である。

 普通の彼女なら『怪我してないか心配だよぉ』とかウルウルの涙目のかわいいスタンプ付きで送るものだろう。


 いや、まあ、普通の彼女じゃないし。

 負けたから付き合ってるだけだし。


 そう開き直っても胸のモヤモヤは消えなかった。


 枕に顔を埋めて脚をバタバタさせていると、ティンコーンとメッセージ着信音が鳴る。

 私は急いでスマホを手繰り寄せる。


『それじゃまた明日、学校で』


 短いメッセージを何度も読み返す。

 怒っているようでもあり、また明日会いたいという好意的なメッセージにも思える。


 すぐに返信を打とうとしたが、あんまりしつこいと引かれると思い、なんとか留まった。




 なかなか寝付けないまま朝を迎える。

 学校につくとすぐに親友のイレナに相談した。


「また明日、学校で? 古林くんに言われたの?」

「そう。どう思う?」


 ハラハラしながら訊ねるとイレナはニコッと満開のバラのようなキラキラした笑顔を見せた。


「そりゃもう奈月にメロメロってことでしょ! 短い言葉に早く会いたいって気持ちが溢れてるね」

「そ、そうかな?」


 ぶっちゃけあの文面からはそんな気配はなかったけれど、イレナが言うならきっとそうなのだろう。

 イレナは私なんかとは違い、普通の男子からモテモテなのだから。


「なんだかんだ言って彼氏が出来て嬉しそうだね、奈月」

「はぁ? そんなわけないし。決闘で負けたから付き合ってるだけだから」

「そう? その割には古林くんの話してる時はいつも恋する乙女の顔になってるけど?」

「そんな顔してないしっ!」

「はいはい。分かりましたよ。奈月は仕方なく付き合ってるんだもんねー?」

「なにその言い方」

「あ、ほら。、噂をすればカレ」


 イレナが指差す方向を見ると古林くんがいた。

 相変わらず眠そうでぽーっとした顔だ。


「って、それを言うなら噂をすれば影でしょ!」

「ソウナノ? イレナ、東欧とのミックスだから日本語ワカラナーイ」

「あんた、生まれも育ちも日本でしょ!」


 騒ぐ私たちに気付いた古林くんがペコッとお辞儀をして通り過ぎていった。




 ────────────────────



 徐々に古林くんにハマっていく風合瀬さん。

 否定しつつもはじめての彼氏を喜んでいるようですね!

 とはいえリベンジを果たすことは忘れてません。

 古林くんも気が抜けません!









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