第5話 彼氏宣言!
~ワンパン姫side~
マジでムカつく!
ムカつきすぎて心臓がバクバクいってるし!
女の子みたいな柔らかい笑みを浮かべて『彼女でしょ?』とか言い訳をする古林くんの顔を思い出して、また胸が高鳴った。
二回も負けるなんて……
しかもあんなにひょろっとした頼りなさそうな古林くんに……
「おい、お前」
駅に向かって走ってると急に呼び止められる。
よその学校の見たこともないガラの悪そうな男子だった。
「なに?」
「お前、
「そうだけど?」
「マジで可愛い! ボコしたら付き合ってくれるわけ?」
知性の欠片もなさそうな茶髪ツーブロックがケタケタ笑う。
「やめといた方がいいよ? 私、いますっごく機嫌悪いから」
「ツンデレじゃん! マジでタイプだわ!」
バカ男は足元も脇も顔面もがら空きで突撃してくる。
右手を大きく振り上げて殴ろうとしているが、あんな構えで私に勝てると思っているのだろうか?
「ていっ!」
「ふぐうっ!?」
みぞおちに一撃喰らわせると膝から崩れ落ちる。
遂によその学校の人まで来るようになっちゃうとはな……
これからは一日一回とか校内限定とか制限をつけよう。
いくらなんでも鬱陶しすぎる。
「おーい、風合瀬さーん!」
「げ、古林くん……!?」
なぜか古林くんが走って追いかけてきた。
面倒くさいので走って逃げる。
「ちょっと待ってって」
「急いでるの!」
しつこく追い掛けてきて、手首を捕まれてしまう。
変な術でも使ったのか、触れられた手首がビリッて痺れて胸がドキンと弾んだ。
「な、なに!? 変な技使わないで!」
「変な技? 使ってないって」
全速力で走った私は息が上がっている。
しかし古林くんは息ひとつ切らしていない。
「はい、これ。忘れ物」
「あっ……私のスマホ!」
引ったくるようにそれを受け取った。
「な、中見てないよね?」
「見るわけないよ。そもそもロックかけてるんでしょ」
「まぁそうだけど」
スマホを鞄にしまい、頭を下げる。
「……届けてくれてありがと。それじゃ」
さっさと帰ろうと踵を返す。
しかし背後から古林くんの言葉が引き留めてきた。
「さっき喧嘩してなかった?」
「見てたの?」
「一瞬チラッと。ていうかワンパンで終わってたけど」
「あれは喧嘩じゃなくて、その、なんていうか……」
付き合ってくれという告白の決闘なんだけど、なぜだか気恥ずかしくて口に出せなかった。
「もしかして喧嘩して勝ったら風合瀬さんと付き合えるとかいう、アレをしてたの?」
「う、うん、まぁ……断ってもしつこいから」
「そんなのダメだよ! もうやめた方がいい!」
いつも穏やかに喋る古林くんとは思えない、きつい口調で叱られた。
「しょうがないでしょ! なんかそういう噂が広まって次々と勝負を挑まれるんだから」
「それでも断ればいい。たまたまこれまで運が良かっただけで、怪我でもしたら大変だよ!」
ここまでもそういう注意をしてくれる友だちはいた。
そのたびにのらりくらりとかわしていた。
「別に古林くんには関係ないでしょ。これは私の問題なんだから」
「関係あるよ! だって僕は彼氏だろ?」
「それはっ、まぁそうだけど……」
「もう彼氏が出来たなら終わりだ。それでもどうしても風合瀬さんと付き合いたいっていう人がいたら僕が戦う」
「それはダメだよ!」
「なんで? 彼女に戦わすくらいなら自分で戦うよ。彼氏なら彼女を守って当然じゃない?」
当たり前のことのようにそう言って、じっと私を見詰めてくる。
なんだか恥ずかしくて目をそらしてしまった。
「なにかっこつけてんの? バカみたい」
「バカで結構。これからは勝負を挑まれたら僕が彼氏だって説明しておいて」
「相手が女の私だからみんな普通に挑んでくるの。彼氏と対決とかいったらバットとか刃物持ってくるバカが来るかもしれないでしょ」
「それを言うなら風合瀬さん相手に武器を持ってくる奴だって現れるかもしれない」
これまでそういう人はいなかったけれど、こうしてよその学校の男子まで来るなら確かにそんな人が出てくる可能性はある。
「私のまいた種だし私が対応するの。迷惑とかかけたくないから……」
正直、ちょっと嬉しかった。
普通の女の子みたいに男子に守ってもらえる扱いをされるのって、いったいいつ以来なんだろう?
古林くんは「はぁ」とため息をつき、そして意を決したように顔を上げる。
「みなさーん! 僕は風合瀬さんの彼氏になりましたー! 二年二組の古林です!」
「ちょっ!? 古林くん、なに言ってるの!」
慌てて口を塞ごうとしたけどひらりと身をかわされてしまう。
「風合瀬さんは僕の彼女なんでもう決闘を申し込まないでくださーい! どうしてもというなら彼氏である僕のところへー! でもなるべく来ないでくださーい!」
「や、やめて、やめてよ!」
周りの生徒たちはざわめきながら私たちを遠巻きで眺めていた。
いきなりの展開すぎて逆に静まり返っている。
「よし、逃げよう!」
「え、あ、ちょっと待ってよ!」
古林くんは私の手を握り、走り出す。
私の胸は今日一番でドクドクと震えていた。
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風合瀬さんを守りたい一心の古林くんと、久々に女子扱いをウケてとぅんくの風合瀬さん。
でもこれから古林くんは決闘を挑まれまくって大変そうですね!
負けるな、古林くん!
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