第4話 腕相撲対決!
~古林くんside~
「ねぇ伊坂くん。ワンパン姫って知ってる?」
「そりゃ知ってるよ。
「知ってるんだ?」
「誰でも一撃で倒すからそう呼ばれてるんだよね。風合瀬さんを倒したら彼氏になれるって話も聞いたことある。まあそれは都市伝説なんだろうけど」
都市伝説じゃなく事実なんだけど、それは伏せておく。
親友には教えてもいいといわれたけれど、彼女が出来たというのはなんか恥ずかしいので言えなかった。
それにしてもワンパン姫の話は伊坂くんでも知ってるのなら、結構有名な話なんだろう。
「まあ作り話だと思うよりあんなに可愛くてスタイルもいい風合瀬さんが戦うわけないって。しかもみんなワンパンで沈めているなんて」
「だ、だよねー……はは……」
教室の中でもひときわ大きな集団で談笑する風合瀬さんを遠巻きに眺める。
なにやら冗談をいってからかわれたのか、風合瀬さんは男子のリーダー格の
でも全然痛くないらしくて飯島くんはヘラヘラと笑っていた。
さすがに会話のツッコミの時は軽く叩いているようだ。
「マジで俺、力は強いから。腕相撲とか最強だし!」
飯島くんは半袖を捲り力こぶを見せる。
すごく太いというわけではないが、細マッチョ的な筋肉はある。
「ガリガリじゃねーかよ!」と男子の誰かがツッコミ、さらに笑いが起きていた。
「マジで俺の実力見せてやるから!」
そう言って立ち上がった飯島くんと思わず目があってしまった。
「よし、古林と腕相撲対決だ!」
「え? 僕と?」
「ふざけんなよ、飯島! 古林とか見るからに貧弱でうちのクラスで最弱っぽいだろ!」
「やるならもっと強そうな奴とやれよ!」
煽るみんなを無視して飯島くんがこちらにやって来る。
おそらくなよっとして弱そうな僕に対決を挑むということでひと笑い欲しかったのだろう。
そんな下らないことのために使われることにちょっとムッとなる。
「いいだろ、古林」
「まぁ、いいけど」
本気でやってやろうかと思って勝負を受けた。
しかしこんなことで本当は強いということがバレてしまうのは馬鹿らしいと思い直す。
中学の時、素行の悪い奴に絡まれてつい本気を出したら、翌日からみんなにドン引きされたという苦い経験があった。
しかも素行の悪い奴らは仲間を連れてきてしつこく仕返しをしてこようとして大変だった。
全員倒したけど、基本的に人と戦うのは好きじゃない。
「本気で来いよ? 俺も本気だから」
「うん。わかった」
手を合わせて握っただけで飯島くんが弱いのは分かった。
「レディー、ゴー!」
合図と共に飯島くんが力をこめてくる。
(え、嘘? 本気でやってるの、これ?)
あまりの非力さに驚く。
これじゃわざと負けるのも演技っぽくなってしまわないか不安になるレベルだ。
「ぬぉおおー!」
「なんだよ、飯島! 古林はピクリとも動いてないぞ!」
「ッセーな!」
こうなったらゆっくりと力を抜いていくしかない。
僕は苦しむ振りをして徐々に腕を傾けていく。
「本気でやらないと、絶対許さないから」
風合瀬さんにギロッと睨まれる。
ヤバっ……わざと負けようとしてるのが風合瀬さんにバレてる……
「うっせー! これから本気出すよ!古林ごとき楽勝だから!」
飯島くんは自分への言葉と思ったのか、声を荒らげる。
(あとで怒られても嫌だし少しだけ真面目にやるか)
少し力をこめるとあっという間に形勢逆転となり、僕が押し返す。
「ぬぁー! くそっ! うりゃああー!」
飯島くんは奇声を上げるが、声だけで力は全然入っていない。
というかもはや肘が浮いていて反則をしている。
更には机の下で僕の足を踏んできた。
これには流石にイラッとして、そのまま一気に彼の手の甲を机に叩きつけてやった。
「痛ぇえ!」
「うわ、飯島、古林に負けてやんの!」
「ははは! 雑魚、乙!」
「ウケるー!」
僕が勝ったことより飯島くんが負けたことに盛り上がってくれて助かった。
しかし風合瀬さんは鋭い視線を僕に向け、口許だけでにやりと笑っていた。
……まるでラスボスのような威厳だ。少なくとも彼女の顔じゃない。
僕が意外と腕相撲強いんじゃないかという人も少しはいたが、概ねは飯島くんが弱いということで騒ぎは収まった。
そんなわけで無事に放課後を迎えたのだが──
「腕相撲しようよ、古林くん」
誰もいなくなった教室で
放課後、話があるから残っててと言われ、怪しいとは思っていたが、やっぱりの展開だ。
「なんで風合瀬さんと腕相撲しなきゃいけないわけ?」
「ほら、恥ずかしがらないで。カップルなら手を繋ぐとか普通だし」
「腕相撲のことを手を繋ぐって呼ぶ人はじめて見たよ」
どう抗議しても考えを改めてくれることはないだろう。
付き合いは浅いけれどそれくらいは想像がついた。
手を合わせるとギュッと握ってきてドキッとした。
握ってくる力が強く、闘志に漲っていた。
これは飯島くんより遥かに強いのは間違いない。
しかしそんなことより柔らかくて温かい風合瀬さんの手にドキッとしてしまった。
「どうしたの? 怖じ気づいたとか?」
「あ、いや、まぁ……」
「言っとくけど手を抜いたら」
「絶対許さないんだろ。分かってるよ」
彼女は体勢を低くして、上目遣いでニヤリと笑いながら睨んでくる。
獰猛な野生のメスライオンのような鋭さだ。
「レディー……ゴー!」
掛け声ともに一気にすごい力が僕の手首に襲い掛かってきた。瞬発力も優れているのだろう。
それにしてもこの細い体のどこにそんな力があるのだろう?
「いけぇええ!」
風合瀬さんは顔を真っ赤にして全身の力を右腕に乗せてくる。
これは油断したら負けてしまう。
「んぁああ!」
「くそっ!」
風合瀬さんの手首をぐいっと巻き込み、一気に全力をかけた。
みるみる風合瀬さんの腕は傾いていく。
「やっ、ダメっ! ダメダメっ! あー! やだっ! 負けたくないよぉお!」
抵抗する彼女には悪いけど、わざと負けて怒られたくはない。
僕はそのまま押し潰すように風合瀬さんの腕を倒す。
しかし叩きつけるのは申し訳ないので、最後は少し力を抜いて柔らかく手の甲を机に押し付けた。
「ごめん。痛くなかった?」
「うるさい! 敗者に同情とかよけい傷つくことしないで! 最後だって叩きつければいいのに、わざと力を抜いて!」
風合瀬さんは涙目で僕を睨む。
犬歯を見せるように食い縛っていて、本気で悔しがっているのが伝わってきた。
「敗者って……彼女なんでしょ? 叩きつけるわけないだろ」
苦し紛れでそう言うと、風合瀬さんはポカンとした顔をし、徐々に顔を赤く染めていった。
「つ、都合のいいときだけ彼氏設定使わないでよね!」
風合瀬さんは鞄を手に取り、すごい勢いで教室を出ていってしまった。
しかし机の上にスマホを忘れてしまっている。
「あ、ちょっと風合瀬さん!」
忘れ物を手に取り、慌てて風合瀬さんを追いかけた。
────────────────────
飯島くんよりも対抗心むき出しの風合瀬さん。
はじめて手を繋いで(?)二人の仲も少し近づきました、のか?
うまく強いことを隠せた古林くん。
風合瀬さんの彼氏になるのも大変ですね!
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