第213話 閑話 グレイス王国にて・2

「魔導師長!」


カノープスの姿が現れたと同時にその場に居た全ての魔導師達が"助かった!" と心底思ったのは言うまでもないだろう。アミュレットを再度造ることは前に造った物の残りがあったので可能だが同じような物を渡しても再び同等の問題が起きる可能性の方が高い。ならば根本的な原因を取り除かなければならないのだが、自分達のような一介の魔導師達には国王陛下達に進言出来るような権限も当然あるわけでもなく、八方塞がりの状況に陥っていた訳だ。


だからこそ、カノープスの姿をその目で見た魔導師達は喜んだのである。


「休暇中のところ、呼び出して申し訳ありません」

「いや、問題が問題だからそれは仕方がないと思う事にするよ。そもそも俺達魔導師団の責任じゃないしな」


カノープスの代わりに休暇中の魔導師団を取り仕切っていた副長が謝罪をしてくるのをやんわりと止めた。流石のカノープスも自分達の団員に責任が一切ないのは理解しているから休暇中に呼び出されたとは言え、彼らに対しての怒りは一切ない。寧ろ彼らも被害者だろう。


あのクソ聖女達の。


「......正直この国の貴族連中がどうなろうと俺の知ったところではないんだけどなぁ.....今回の件に関しても甘い処罰しかしなかったからな自業自得としか思わないしな」


それで自分達に迷惑を掛けられたのではたまったもんじゃない。


「.....魔導師長.....事実ですが流石に口に出して言うのは憚られますよ」

「ハハハッ。ちゃんと防音魔法を掛けてるから外には聞こえないから大丈夫だよ」

「.....はぁ。それでどう対処されるんですか?」

「そうだなぁ……。被害にあった高位貴族の子息はもう聖女から離してあるんだろう?新しいアミュレットは渡したのか?」

「はい。気休めですが応急処置として以前と同じアミュレットを渡し、今現在は魅了魔法は解けているようですね。昨日も直接話しましたが受け答えもしっかりしてましたし彼はもう大丈夫のようです。そして.....エルフの国に密入国しようとした聖女は城の北側にある塔に容れられてます。勿論魔封じの首輪を着けて、同姓には彼女の魅了魔法が効きませんが念の為に魅了魔法を防ぐアミュレットを着けた侍女と女性騎士をつけてあります」

「そうか。北の塔ねぇ……」


北の塔とは罪を犯した王族や公爵や侯爵家が問題を犯した際に容れられる高位貴族専用の牢屋だ。仮にも聖女と認めた人物を下級貴族や平民が入るような牢屋に容れる訳にはいかないと対面を考えた上での処遇なんだろう。


「まだ正式な処分は決まってないんだよな?」

「はい。どうやら国王陛下と宰相と高位貴族の家の間で処遇について意見が割れているようで。私としてはまた処分を軽くしてしまうと同様の問題を起こす可能性が高いので厳罰をお願いしたいところですが.....処罰の相手が....」

「聖女だから皆どう対処していいのか判断に迷ってるってところだな」


カノープスは溜め息をひとつつく。


「高位貴族の息子がどうなろうが俺には関係ないから軽い処罰だったとしても問題はないかもしれないが、今回は相手が悪い」

「.....ですよねぇ.....何故よりにもよってエルフの国に対して問題を起こしたのか....」

「まぁエルフの国に対して問題を起こしておいて軽い処罰なんて下した瞬間に今の王族はこの国から消えるだろうから、流石にそんな馬鹿なことは陛下もやらないだろうし宰相閣下が実力行使してでも止めるだろう」

「だと良いんですけど」

「.....取り敢えずそうなるように宰相閣下に進言してくるよ」


その為に態々休暇中の中、この国に戻ってきたのだから。


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