第186話 翻訳の仕事・3
アスケラさんとファイさんは元々は騎士希望だったそうだが頭も良く学園での古代エルフ語の成績が良かった為にこの部署へと転属させられてしまったのだとか。
「この仕事も嫌いじゃないんだけどさ、毎日毎日書庫に籠って事務仕事だと体が鈍ってしまうし、女の子と出会う機会もないでしょ~?」
ファイさんが言う女の子とどうこうは別として確かに騎士志望だった人が文官に転属なのは少し同情してしまう。ようは元々希望していた仕事を出来ない訳だしね....。
「ならもう一度転属願いを出せば良いんじゃないですか?そもそも希望した部署とは違う部署に配置された訳ですし」
「ん~…....それがそうも行かなくてさぁ」
ファイさんが盛大に溜め息を付くのを不思議に思った私はウェズンさんを見る。
「転属願いは一年に一度出せるんだけどファイは毎回転属願いを聞き入れられた事がないんだよ」
「え!?」
転属願いも破棄されてんの!?何で!?
「.....ようは僕達以上に翻訳を出来る人が居ないんだよ。今でも三人でやっても進まない現状で更に人員を減らせないだろう?増やせる人材が居ない限りファイの転属希望が受理される事はないだろうね」
ウェズンさんが仕方がないと言わんばかりの同情的な視線をファイさんに向ける。
そうか~確かに人材不足ならいくら転属希望出しても受理されないかぁ。
「基本的にエルフは文官よりも武人の方が多いし希望者も多い。だから騎士に希望を出してもその能力によっては文官の仕事に回される奴がそれなりに居るんだ」
「そうそう。何たって小さい頃から狩りや魔法の訓練したりするからね....それこそ男女関係なくね。だからこの国の騎士団の半数近くは女性で男女関係ないからね!」
おお!女性騎士!! さぞかし格好良いんだろうなぁ……
「まぁそう言う訳で毎年飽きずに転属願いは出してるけど希望を叶えて貰えないって訳」
自らそう言うファイさんは苦笑しながらもまだまだ転属希望を諦めてはいなさそうだ。
しかし.....文官の成り手が少ないって....エルフって頭が良いイメージだったんだけど意外と脳筋なのかも知れないなぁ.....
ここに来て私のエルフのイメージがグッと変わりそうだった。
「そう言えば翻訳の仕事は三人でやってるんですか?どれぐらいの量があるのかは知りませんけど.......少な過ぎません?」
「ハッキリ言えば少ないね。でも翻訳出来る人物が居ないから仕方がないんだよ。だからこそリンに声を掛けたわけなんだけど....」
あ、そうか。しかし.....
「なんで翻訳出来る人が居ないんですか?さっきの話だと学校で一応習うんですよね?古代エルフ語も」
「勿論必須科目になってるよ。でも学園で習うのはあくまでも古代エルフ語の上澄み部分。つまり、本当に基礎知識みたいな物なんだよ」
んん?基礎知識習ったなら読めるのでは?
「リン、人間の中にもエルフ語の簡単な会話なら話す事は出来るけど書けない奴は居るだろう?逆にエルフにも人間の言語はわかるけれど書けない奴も居る。つまり、それと一緒だな。簡単な言語なら話せるし書けるが古代エルフ語は複雑過ぎて長文を読めて書ける奴が少ないんだ」
え~っと.....つまり日本で言うと英語はペラペラ話せるけど英文は書けないって奴かな。ああ、確かにそれだと翻訳の仕事は無理だよね。納得。
「じゃあ今後も人員が増えない可能性が高いって事ですね」
「.....そうだろうなぁ……」
「ついでに師匠もここで働いてみるのは?古代エルフ語は出来るんですよね?」
「勿論出来るが....暫く書類仕事はしたくない」
本気で嫌そうな師匠に、よっぽどギルドマスターの書類仕事が嫌だったんだろうなぁと思った。
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