第184話 翻訳の仕事

午前中の訓練が終わり、昼食を挟んで次にやって来たのは何と王宮。王宮にある図書館がウェズンさんの仕事場なんだそう。


師匠と一緒に城へと向かい案内をしてくれた騎士の人に連れられて図書館へと向かう。中に入れば師匠の屋敷にある書庫の数倍以上の広さのある部屋で蔵書の数もかなり多そうに見える。


書庫の中を進みながらキョロキョロと左右の棚の本に目を向ければ人の国の本やらエルフの国の本等、様々な本が納められていた。


.....この図書館の本を集めたエルフの人達は本当に本を読むのが好きだったんだろうなぁ.....いや、好きじゃなくても収集するって意味なら自然と増えて行くか.....


見た感じ年代は様々な物があるみたいだし....当時の記録を残して置くって意味で集めてたのかもしれないしね。師匠の屋敷の書庫の本にも紙が劣化しないように保存魔法が掛けられてたし、知識としての重要文化財的な意味合いなのかも。


「いらっしゃい、兄上、リン」


いつの間にかウェズンさんの居る場所まで辿り着いたのか部屋から出てきて私達の方へと歩いてきた。


「.....図書館の中に仕事部屋があるんですね」

「ああ。その方が効率的だろうってね。僕達よりもずっと前の担当者が陛下に掛け合って後からこの部屋が出来たんだよ。確かに本を別の部屋に運んで翻訳して本をまあ返しに来る、って結構時間も手間も掛かってたみたいだから僕達も助かってるんだよ」


.....確かに。


「同じ図書館の中ならこの棚に置いておけば司書が後で元の棚に返却しておいてくれるしね」


ウェズンさんがそう言って既に何冊か置かれている棚を示す。


「.....古代エルフ語の本ですね。これは翻訳がおわった物ですか?」

「うん。今朝ようやく終わってね.....この本を書いた人は独特な言い回しをするエルフだったみたいで翻訳するのが大変だったよ」


苦笑しながらそう言うウェズンさんを見て私はパラパラと本を見てみると、確かに所々に回りくどい言い回しや比喩を盛り込んだような書き方の独特さがあった。


「あ~…...確かに翻訳しにくそうな文章ですね」


これはさぞかし困った事だろう。私の場合はほぼ書いた人の意図込みで自動翻訳で頭の中に浮かぶ為困ることは全くない。けれどウェズンさん達はいわば文章にある単語を繋げて文章に翻訳していく為に微妙なニュアンス等が不自然になる事も多々あるのだろう。それが翻訳が中々進まない利用にもなってるんだろうな。


「そうなんだよ!だからようやく一冊終わってホッとしたよ.....まぁでもこの方の本はまだまだあるからこれからなんだけどね」


まだあるのか。うーん。


「ならこの人の本は私が翻訳しましょうか?私ならこの人の文章の癖とかはあまり関係がないですし」


寧ろ私がした方が絶対に早く終わるだろうしねぇ


「本当!?....実は最初は仕事に慣れて貰おうと簡単な物も準備してあるんだけど、此方を優先してやって貰えたら凄く助かるよ」

「はい、私なら大丈夫です」


寧ろ簡単な仕事であのお給金を貰うのは少し居心地が悪い。仕事をするからキッチリと自分の能力に見合った仕事をする。お金を貰うからにはそれは私の中では必要最低限な決まりごとだ。


「じゃあ取り敢えず他のメンバーを紹介するから部屋の中へどうぞ。兄上はどうされますか?」

「俺も一緒に行こう。初日だしな」

「ハハハッ。兄上、すっかりリンの保護者になってますね」


ウェズンさんを先頭に作業部屋へと入ると同僚らしきメンバー2人が興味津々に此方を伺っていた。



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