第172話 初代御当主様の日記

禁書エリアに一番近い本棚にあるのは初代フラムスティードの御当主様が集めたとされる蔵書類で見た感じ一番数も多そうだ。


「にしても、これだけの数を集めるなんてどれだけ本が好きだったんだろう。まさか集めただけで読んでないって事はないよね?」


収集家の中には集める事で満足してしまう人もいるって言うしその可能性も無きにしもあらずかな?取り敢えず師匠はこの書庫の本を全部読んだって事はないだろう事はわかる。


「師匠はどちらかと言えば身体を動かす事の方が好きそうだもんね」


一番近くにある本棚中から一冊の本を取り出す。周囲にあるどの本よりも新しく、背表紙に金色の蔦のような模様が刻印されていてタイトルらしき物は何も書かれていない。


「.....タイトルがない?本じゃないのかな?それに一番古い本が置かれている筈の本棚に真新しい本があるなんて誰かが間違えて置いたのかな?」


取り出して表紙を見てもタイトルらしき物はない。パラパラと捲って中身を見れば、どうやらこれは初代当主様が書かれた日記のようだった。


「え?日記?人の日記なんて見てもいいのかな?いやでも何代も前の御当主様の物なら既に歴史書と言っても良いぐらいだし....」


そもそも書庫に保管してあるぐらいなのだから誰かが読む前提で置かれているのだろう。


「よし、読もう」


本格的に読むために、私は本棚の側にあるテーブル席へと腰を下ろす。


.....完全に図書館だよね.....


苦笑しながら私はその初代御当主様の日記を読み始めた。


日記には驚くべき事が書かれあった。何と初代御当主様の時にも私のように異世界からこの世界に来た人が居たのだ。どの国の人かはこの日記からはわからないけど、その人は御当主様に勧められてこの屋敷に住んでいる時に同じように日記を書いていたそうだ。


「....日記を....まさか、この書庫のどこかにその日記もあるかもしれない?」


ばっと顔を上げ思わず書庫の中を見渡してしまう。


いや、年代別に置かれているのだからあるとしたら初代御当主様の書棚の何れかの筈。


取り敢えず次に読む本は決まったので私は読み終えた日記を元の場所へと戻すと私のようにこの世界に来た誰かの書いた日記を探して再び書庫の中を歩きだした。



日記は直ぐに見つかった。初代御当主様の日記が置かれていた場所から程遠くない場所に保管されてあった。それは偶然なのか、必然なのか。


この世界に来たのはアメリカ人女性のシャーロットと言う名前の人で歳は二十代だったとか。女神様のお陰で言葉や生活には困らなかった事や、この世界に来れて良かったとも書かれていた。事故で死にかけて居たのを別の場所だとしてもこうして生きていけるのは楽しいのだとシャーロットは記していた。


どうやら女神様は何らかの原因で死にかけている人をこの世界に呼ぶのがお好きらしい。まぁきっと何らかの理由や原因があるのかもしれないが....。


「.....でもまぁ同じ様な人が幸せだったと知れたのは嬉しい事だよね」


ただひっかかるのは呼び出された年代。


シャーロットさんの日記を読んでいると私とそう年代が違うような感じには見えない。けれど彼女がこの世界に呼び出されたのは初代御当主様の時代で......。



もしかして呼び出される時間軸って決まってないとか?


いやまさかね?そんな事をしたら過去に呼び出された異世界人の行動によっては未来が変わる可能性だって出てくる。もしかしたら私が今いるこの時代でさえ____。



「.....うん、考えるの止めた。考え出したらキリがないしね」


例えそうだとしても私に何が出来る訳でもないし、そうなった時はその時に考えれば良いだけだ。そうしよう!



それから私は他にも同じように異世界からこの世界に来た人の痕跡が何かしらないか探してみたが結局見つける事は出来なかった。



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