第173話 晩餐

書庫の中の初代御当主様の蔵書エリアで過去に私と同じようにこの世界に転生したらしいシャーロットさんの日記を見つけたのはエルフの国に来て今のところ一番の成果かもしれない。私には女神様は様から何も言われなかったけどこうして私と同じ世界からこの世界に記憶を持って生まれ変わった人が居たと言うのは何となく嬉しい気分にさせてくれる。


この異世界に自分一人ではなかった。


そう感じるからかもしれない。それにもしかしたら今現在まだ生きてこの世界のどこかに異世界からの転生者がいるかもしれないと知れたのは凄い事だろう。


この世界の成人までに冒険者ランクをもう少し上げたら私と同じ異世界人を探す旅に世界中を巡るのも良いかも知れないなぁ。


.....何だか凄く壮大なこれからの人生設計が出来たかもしれない.....いや、人生設計は大袈裟か?


「さて、じゃあ次はこれを.....」



それから装丁から何冊か選んだエルフの国のかなり古い本を数冊読みふけっていると、トントンと肩を叩く感触と自分の名を呼ぶ声に我に返り顔を上げるとそこにはアンナさんが立っていた。


「アンナさん?あれ?もうそんな時間??」


アンナさんが呼びに来たと言う事は夕食の時間になったからだろう。周囲を見渡せば暗くなり自動的に灯された灯りが書庫の中を照らしていた。


「....随分と集中してたようですから気が付かなかったのも仕方ないですわ。それよりも皆様お揃いですのでダイニングへお急ぎ下さい。ご案内しますね」

「あ、はい!すみません」


ニッコリと微笑んで私に手を貸してくれるアンナさんに着いてダイニングへ向かうと師匠以外のご家族全員が本当に既に座って待っていた。


....え、私もしかして王族の皆さんを待たしたの?大丈夫?不敬罪になったりしない?


「あの.....遅れて申し訳ありません」


取り敢えずここは素直に謝罪をしておいた方が無難だろう。私は慌てて頭を下げる。


「いや、私達がいつも早く来ているだけで遅れては居ないよ」

「そうよ!さぁお腹が空いたでしょう?シリウスは今日は同席しないから、さぁ食べましょう!」


師匠のお父さんとお母さんが遅れた私に気を使わせる事なく席を勧めてくれるのに感謝しつつ、アンナさんに案内され自分の席へと座るとすぐに給仕の掛の人が料理を運んでくれた。


今日一日の過ごし方を皆がそれぞれ話すのを聞きながら美味しい料理に舌鼓をうつ。


うん、美味しい~!ミルトンの街を始め、この世界の料理は基本的に私達の世界の料理に近いものがある。きっと過去にこの世界に来た私達の居た世界の人が広めたんだろう。勿論品数の差は圧倒的にこの世界の方が少ないんだけど。もう少し揚げ物系とか調理法が伝わってれば料理のバリエーションが広がってただろうに勿体無い。


「.....リンは今日は書庫に籠っていたそうだね」

「あ、はい。師匠が御友人との飲み会に参加するのでアンナさんが書庫を勧めてくれたんです。まさかあんなにも大きな書庫とは思ってなかったんですが.....」


御当主様.....アダラさんに話しかけられ素直に答える。隠す事でもないし、どうせ私の行動は全て把握した上での会話だろう。


「そうだろうなぁ。私も子供の時に初めて書庫に連れて行かれた時には驚いたからね。我が家のフラムスティード家の者は読む読まないに関わらず何故か本を収集するのが大好きでね....ああ、私は勿論読んでいるよ?」


わかります。集める事で満足しちゃうんですよね?その気持ちはすごーく良くわかります!!


「貴方は本の虫ですものね。リンちゃんは何の本を読んでいたの?書庫はジャンル毎に分けてる訳ではないから探しにくかったでしょう?」


師匠のお母さんのミルザムさんがチラリとアダラさんに視線を向けた後、興味津々で此方を見た。


「えっと....今日は初代御当主様の蔵書から選んだ本を読んでました」

「え?」


私がそう答えた途端、その場の空気が一瞬止まったような気がしたのは気のせいではないだろう。




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