第131話 スタンピード・3

その報告が王都のギルドマスターに伝達されたのはその日の昼過ぎ頃だった。


魔獣の群れの現状を確認に行っていた騎士団の部隊の人達が戻って来たのだ。騎士からの報告によれば、魔獣の王都への進行は変わらず、あと1時間もすれば先頭を走る魔獣の影が城壁からも見えるだろうとの事だった。そこから先は今まで以上のスピードで作業を進めていくと同時に王都に住んでいる住民へサイレンを鳴らし念の為に家の中から出ないように避難を勧める。城壁で守られているとはいえ、何があるかわからないからだ。もし万が一空を飛ぶ魔獣がいたら城壁の上から街を狙うことだって出来るのだから。


「じゃあ城壁から魔獣の姿を確認したら俺がまず中範囲殲滅魔術をぶっ放すからそれで多少は相手の数も減るだろう....その後はシリウスも頼んだぞ」


宮廷魔導師長カノープスがさらっと何気なく話すが中範囲殲滅魔術を使えるものは多くない。一回使うと魔力がゴソッと減るので魔力量がそれなりに多くなければ率先して使おうとは思わないだろう。使えたとしても。


「勿論。しかしここまで本格的なスタンピードは随分と久し振りだな」

「まぁな.....まぁそれに関しては何やらキナ臭い話があるからこれが終わったら時間をくれ」

「りょーかい」


.....あの.....私が居るのにそんな話してて大丈夫なんですかねー??


ギルドマスターの側で大人しく立ってる私にカノープスさんも気がついてる筈なのに機密情報みたいなの話すって、もしかしてわざとかな?私も仲間に引き込んでやろうって奴かな?


「リン、魔獣が見えたらカノープスに支援魔法を全開で掛けてやってくれるか?」

「私がですか?カノープスさん、自分で出来るんじゃないんですか?」

「いや、俺は攻撃特化で支援魔法は苦手。出来ない訳じゃないけど支援魔法に特化してる奴より弱いんだな、これが」


カノープスさんはそう言って肩を竦める。


「お前は魔法をぶっ放す方が好きだもんな」

「当然」


呆れた声のギルドマスターに対して自信満々に言いきるカノープスさんに溜め息をつく。


「まぁ別に良いですけど。ギルドマスターにも掛けるんですよね?じゃあ支援系全部掛けしますね!防御結界はどうしますか?」

「可能ならば」

「わかりました。多分大丈夫です」

「へぇ....想像以上に優秀なんだな、リンは。やっぱり僕の所に弟子入りしないか?」


カノープスが私を見下ろしながらしみじみと告げるが私にはその気がないのでしっかりと断っておく。


「いえ、間に合ってますから」

「おいカノープス、リンが嫌がる事はするなよ?」


この件についてはギルドマスターが私の味方になってくれてるので有難い。本当に目立って王家とか権力者に目をつけられるのは勘弁して欲しい。


「カノープス様!魔獣の先頭が見えました!!」


そこに魔導師団のひとり、副団長の声が城壁に響き一瞬で緊張感がその場に広がった。これから魔獣との長い戦闘が始まる。


城壁の向こう、地平線に見え始めた黒く動くモノ。砂煙を撒き散らしながら此方に向かって来る大量の魔獣の姿が現れ、その数の多さに慣れている筈の冒険者でさえ怯みそうになる。


そんな中、カノープスが城壁に脚を掛け両手を広げた。リンは慌てて支援魔法を全力で掛ける。


「さぁ、始めようか__ 」


ひとり愉しそうな表情を浮かべ、両手に己の魔力を凝縮していく。


灼熱息吹フレアブレス


中範囲殲滅魔術を無詠唱で魔獣に向けてうち放った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る