第84話 閑話 聖獣ユニコーン・黎明(レイメイ)
それはそれは退屈な毎日だった。
この世界が生まれて、国ができて、その時には既に自分はここに存在した。
綺麗な景色の中、動物達や仲間の聖獣達と仲良く暮らす変わらない毎日もそれなりに楽しめた。
人間にとっては驚異となる魔獣も神の眷属となる私達聖獣には単なる獣と何ら変わらない。驚異にもならない。
何百年、何千年の時が過ぎても変化のない毎日。
ある時この辺りを治めていると言う人間の男が私に願いをしに山に入ってきた。
魔獣と闘いここまで来たのか、彼方此方に怪我をしていたがまだまだ元気がありそうだった。
そいつは人間の世界でこの辺りを国から任されていると言うレグルス辺境伯と名乗った。
自国の王の息子が病に倒れ、どうしても"ドラゴンの涙花 " が必要なのだと私に訴えてきた。
ドラゴンの涙花は聖花だ。
薬効成分が高く、ひとつ違えれば毒にもなる。
だから女神から聖獣が守るようにと言われていて、人間には簡単には取れない聖域である場所にしか咲かないのだ。
単身で私に向かって堂々と話すこの男を私は面白いと思った。
今まで生きてきて初めて生まれた感情だった。
だから契約をした。
レグルス辺境伯がこの地を守る限り、ドラゴンの涙花はこの地に咲き、病を治す為だけになら花を授けよう、と。
男は花を持ち帰り、この国の王子の病は治った。
それから数百年あまり。
数年間音沙汰の無かった人間が洞窟内へ侵入してきた。
不思議な魔力を持つ少女だった。それは懐かしくもあり、新しくもある。
少女は名を"リン"と名乗った。
レグルス辺境伯から花の採取を頼まれたと。
こんな少女に魔獣の出るこの山に採取に行かせるとは今の辺境伯は才がないのかと思ったが、逆に才があるからこの少女に頼んだのだろうと確信した。
話をすればする程、この少女は面白い。
久しくこんな感情を持ったことは無かった。
この少女と行動を共にすれば、この退屈に思う毎日が変わったモノになるだろうか?
いや、きっとなるだろう。
私の中にある女神の魔力が高揚しているのを感じた。
『我の名は"
そうして私はリンと契約を交わした。これで私がこの聖域から離れても私と聖域との魔力は繋がり、ドラゴンの涙花が枯れる事はない。
これからの毎日が楽しみだ。
そんな感情を私に与え、"生"に再び目的を与えたリンを私は愛しく思う。
地上に降りることの叶わない女神に代わり、リンがこの世界を生きる限り、私は彼女を守ると女神に誓おう。
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