第069話 青の衝動(6)
──翌日。
フォーフルール邸の書斎。
その壁には、昨日ファルンがカジノ従業員をなぎ倒した様子が、まざまざと映し出されている。
「……まあ。兄上ったら、ノリノリではありませんか。ウフフフッ♥」
兄が主演のアクション映画に見入るフィルル。
呆れ顔を浮かべるも、命じたのが自分ゆえになにも言えずにいる、父・ヴァーツ。
そして終始バツが悪そうな、普段着のファルン。
「部屋の隅にあった撮影機が、一部始終を撮っていてね……。個人的には灰にしたかったんだけど、やつらの犯罪の証拠になるから……と、踏みとどまったよ」
「フフッ……。兄上の女装、見事なものですわ。動きこそ雄々しいですが、無声映画ですからほぼほぼ女性ですわね」
「おかげで
「でしたらわたくしが、声を被せてあげましょうか? 実はわたくし、活動弁士というものをやってみたかったんです」
「えっ?」
壁に映し出される、ファルンの武闘劇。
そのわきに立ったフィルルが、映像をちらちら見ながら声を上げ始める──。
「オーホッホッホッホッ! あなたたちの悪事はすべて、この下弦の糸目がお見通しですわっ!
『てっ……てめえが巷で噂の、ほほ笑み令嬢かっ! よっしゃ、おまえを倒して俺たちの悪名を上げてやるぜっ! ゲヘヘヘッ!』
「あなたがたのような下郎に消されるほど、わたくしのほほ笑みはもろくはありませんのっ! えいっ! やっ! はあっ! とおーっ!」
『ぐあーっ! ぎゃーっ! つっ……
「……悪の企みあるところ、必ずや、ほほ笑み令嬢の高笑い! ああ、ほほ笑み令嬢はどこのだれ? あしたはきみたちの街で高笑い! オーホッホッホッホッ!」
──パチパチパチパチッ!
声の高低を使い分けて、ヒロイン、悪人、ナレーションを演じきったフィルル。
自分で拍手を起こし、自給自足でご満悦。
先日まで、婚約を決めたのなんだのと騒いでいたフィルルが見せる子どもっぽい姿に、ヴァーツは困惑顔。
反応に困り、葉巻ケースを手にする。
「……父上、わたしにも一本」
わきから手を伸ばしたファルンが、一本をすばやく失敬。
慣れない葉巻に火を点け、恨めしそうに映像の中の女装ファルンへと煙を吐く。
「ふーっ…………げほっ、ごほっ、ごほんっ!」
「あらあら兄上、煙に巻けませんでしたわね。ウフフフフッ♥」
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