番外章 クラリスの暇日

年末年始に休暇を貰ったクラリスは、実家へ戻るが……?

第063話 クラリスの暇日

 ──年の瀬。

 年末年始の休暇を得たクラリスは、半年ぶりに生家の扉を開いた。


「ただいまー!」


 玄関で出迎える母、弟、妹。

 その視線は久しぶりのクラリスよりも、その身を包んでいる羽毛の白いコートへと向けられた。


「お帰りさない、クラリス。いいコート着てるわねー」


「もお、お母さんったら~。久しぶりの娘の顔より、そっちに目がいくー?」


「当然よぉ。そんないいコート、わが家に来るの初めてだもの。お嬢様からいただいたの?」


「うん。お仕事頑張ったご褒美」


「さすがズィルマ一の豪族。気前いいわね~」


(このコートは、盗賊一味のアジト潜入につきあわされたり、ドグさんから極秘資料を借りるのに三日連続でデートさせられたりの対価だから、気前いいとは言えないんだけどね……。あはは……)


 苦笑を浮かべて居間へと上がり、キャリーケースを隅へ下ろすクラリス。

 折りたたんでいたパーティードレスを取り出し、壁へと掛ける。

 ライトピンクの豪華なドレスの登場に、妹がはしゃいだ。


「きれーい! これも貰ったの!?」


「うん。お嬢様のお下がり。裾合わせしてもらったの」


「いいなー。ねえねえ、着てみてもいいっ!?」


「そのつもりで持ってきたの。でも、あとでね」


「はーいっ!」


(このドレス、駆逐艦強奪事件主犯が、義手の剣で貫いたやつなのよね……。剣が刺さったとこ、きれいに繕ってあるけど、やっぱりげんは悪いかな……)


 キャリーケースから私物を取り出すクラリスの背後で、その中身を気にかけてうろうろと左右に歩く弟。


「ねーちゃん、お土産なんかねーの?」


「あー……ごめん。お屋敷からまっすぐ来たから、どこにも寄ってないの。お詫びに友達のファンクラブに、このドレス姿見せてあげよっか?」


「ネーちゃんのファンクラブとか、いつの話だよ~? とっくに解散したぜ?」


「えっ、ホント?」


「眼鏡屋の伏せ目ネーちゃんのファンクラブに変わったんだよ。でもあのネーちゃん、ニーちゃんだったろ? そこでバラバラさ」


「そ、そうなんだ……。それはちょっと、残念……かな?」


「ネーちゃん、なんか変わったな。『ドレス姿見せてやる!』なんて言うキャラじゃなかったろ?」


(た……確かにいまの、わたしっぽくなかった……。もしかするとわたし、お嬢様に毒されて……きてるっ!?)


 クラリスの耳の奥で、フィルルの「オーホッホッホッ!」という高笑いが響いた。


(うううぅ……。このお休み中に、しっかり毒抜きしなきゃ!)


 来年には、フィルルのせんだんだん試験が控えている。

 その本試験では、従者を二人まで同行させていい決まりがある。

 新たな年でもクラリスがフィルルに振り回されるのは、言うまでもない────。

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