第054話 十六落命奇譚(11)

 ──ヒュヒュヒュヒュンッ!


 風を斬り裂く音を響かせながら、大鎌が縦回転でフィルルに迫る。


(……受ける? いえ、敵が武器を無限に増やせるならば、剣の刃こぼれや金属疲労が増すだけ。ここは……回避っ!)


 フィルルは双剣を鞘へ収めつつ、左方への低い跳躍で大鎌を回避。

 大鎌が鈍い金属音を立て、黒い粉塵を上げながら、固い地面に突き刺さった。

 その柄をすかさず両手で握り締めるフィルル。


「フッ……! わざわざ敵に武器を送るとは、おバカですわねっ!」


 大鎌を地面から抜き、投げ返す──。

 そのイメージで鎌を抜こうとしたフィルルの体が、ガクンと地に引っ張られた。


「……って! 抜けないっ! この鎌……地面と同化してますわっ!」


 大理石の表面のような文様が揺らめく、硬い地面。

 そこに刺さった鎌は、その先端が地面と同じ文様を帯びており、完全に一体化。

 フィルルの剛腕で引き抜こうとしても、微動だにしない。


「フン……武器くれてやるわけねーだろ? 妙な期待してんじゃねーよ、このおバカ糸目ッ! キャハハハッ!」


 ライカが両目を閉じて笑いながら二投目。

 横回転する大鎌が、カーブを描いてフィルルの左方から迫る──。


「……武器として使えないなら、せめて回避にっ!」


 フィルルはいま握っている大鎌の柄を、運動具の鉄棒に見立てて、逆上がりで体を回転させ、倒立。

 それによって、水平に飛んできた大鎌を回避。

 その大鎌は、既に地面と同化していた大鎌と交差し、鈍い金属音を響かせながら十字状に融合する。

 その様を、倒立の姿勢から上下逆さまに見るフィルル。


「これも同化……。さながら、幹も枝葉もやいばでできた低木……と言ったところですわね」


「夢の世界ってのは、おもしろいだろォ? さあ、いまからそこに、死の庭園デスガーデンを造ってやんよ! 思う存分、お花摘みを楽しみなッ!」


 いよいよ連続で降り注ぐ大鎌。

 垂直に回転してくる鎌は地に刺さるそばから同化し、水平に回転してくる鎌が、それに同化。

 フィルルはときに、鎌の柄を利用して回避。

 ときに鞘ごと剣を振って、弾き落とす。

 七本の大鎌が地面と同化したところで、フィルルは嫌味たっぷりに上空へのライカへと問うた。


「……どうせ最後の一本は、投げてくださらないんでしょう?」


「ッたりまえじゃん。増やすのコピーに必要だからねェ。細胞分裂と同じさ、ハッハー!」


 ──シャラララララララッ!


「さっきのアタシの言葉の意味、もうわかったろ? こう言ったんだよッ! お花摘みを楽しみションベン漏らしな……ってね!」


 先ほどと同じ所作で、ライカの左手の大鎌が、再び八本へと増殖。

 その一本を、水平の回転で投擲とうてき

 フィルルはとっさにダッシュし、大鎌の横移動に並行して駆ける。

 そして、カーブを描いてフィルルへと軌道を変えようとする一瞬の減速を狙い、高々と跳躍して柄を掴んだ。


「あいにくと……オネショはとっくに卒業してますの! せぇいっ!」


「……なにッ!?」


 大鎌の回転を殺すことなく、自分ごとくるくると独楽こまのように回転し、ライカへと投げ返すフィルル。

 予期せぬ出来事に回避が遅れたライカ。

 その左頬を、大鎌の刃がわずかにかする。

 ライカの頬に一筋の傷が刻まれ、そこに赤黒い血がうっすらと滲んだ。


「チイィ……! 人間の分際で……アタシの顔に傷をおおおぉおッ!」


「フフッ……病魔に一太刀。いよいよ病巣摘出開始……ですわっ!」

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