幕間 竜の想い

 ――放課後。

 朱色の太陽が徐々に徐々にと地平線の彼方へ消えていき、教室に射す微かな陽光が優しくその二人を包み込む。

「ハア~……びっくりした。まさか転校生が同志だったとはな~……」

 溌剌とした顔で今日あった出来事を振り返っていたのは、右腕に巻き付けた包帯とハーフツインが特徴的な中二病の少女――紅音だった。

「フフフ、良かったですね紅音」

「うん! まだ心臓がバクバクいってる……。これがまた明日も続くって思うと、なんだか凄く楽しみ!」

 心の底から嬉しそうにする紅音を見て、コマコマという愛称で呼ばれているその少女も一緒に笑顔を浮かべる。

(私と居る時だけはちょっとだけ素を出してくれるんですよね~。まあ、そこが可愛いんですが)

 少女がクスクスと笑う中、紅音は自身の席の隣を見て、感慨深そうにその机を指でなぞる。

「黒木君……か。あんな面白そうな人がやってくるなんて……えへへ――」


 ――それは、遡る事およそ9時間前。

 朝のホームルームでの出来事だった。

『黒木猫丸だ。先に警告しておくが、死にたくない者は俺に近付くな。以上』

(!!!!)

 体中に電気が迸ったような衝撃だった。

 開口一番、こちらの眼を覚ます自己紹介。周囲のざわめきや視線に動じない姿勢・胆力。

 そして何よりも、その者の瞳には闇が潜んでいるように見えた。見詰めれば一瞬にしてこちらを飲み込まんとする、深い闇が。

 この瞬間、竜姫紅音は直感する。

(間違いない……この男――私と同じ世界の人間だ!!)

 そこから先はほとんど反射だった。

『我が名は竜姫紅音! 待っていたぞ! 私と同じ、闇を生きる者よ!』

 この自己紹介も。この接触も。この感情も。

(どうしよう……、まさかこんな所で巡り合えるなんて!)

 全ては自分の本能が示すままに――


「――コマコマ。私、決めた」

「……? 何をです、紅音?」

 もうすぐ今日が終わる。そして明日になれば、また彼と逢える。

 今度はもっと話し掛けてみよう。積極的にいってみよう。

 そんな熱い想いを胸に抱き。

 大切な親友と、ここには居ない彼と、そして明日の自分に向かって、

「私、黒木君と――ブラックキャットと友達になりたい!!」

 高らかに、そう宣言した。

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