第37話 水間くんの後悔

 ラインハルトがやってきたことの真相。前世でこの話をしたとしても、きっとほとんどの人は信じないと思う。

 だって、どう考えてもまともじゃない。


「いくら戦いを終わらせたくても、自分が世界全部の敵になることで世界をまとめようなんて無茶苦茶よ。古代兵器だってそう。危険だから壊そうってのはわかるけど、もっと他にやり方はなかったの?」


 ラインハルトの計画は、見事成功した。私も仲間たちも、それに世界全ても、何も知らずに彼の思った通りに動いてしまった。

 ううん。例えラインハルトの真意を知っていたとしても、私達は同じことをしたかもしれない。理由はどうあれ、彼が攻撃を仕掛けてくる以上、こっちも戦わないわけにはいかない。古代兵器をそのままにしておくわけにはいかない。


 そして、ラインハルトという共通の敵がいたからこそ、バルミシア王国と部族連合が早急に手を取り合うことができたというのは事実だ。ラインハルトを倒した後も、少なくとも前みたいな争いの日々からは遠ざかることができたと思う。


 けどそれでも、私は彼のやったことを認めようとは思わなかった。

 だってどんな思惑があったとしても、彼のやったことが戦争であるのに変わりはない。


「自分のしたことを正当化しようとは思わない。そのせいで傷ついた人がいる。失われた命がある。お前もその中の一人だった。すまなかったな」


 すまなかったな。それは、前世でラインハルトが最後に言った言葉だった。

 その時は、それがどういう意味かなんてわからなかったし、この世界に生まれ変わってから今まで、ほとんど気にとめたこともなかった。


 だけど、水間くんがあの時と同じような顔で、悲しそうな申し訳なさそうな顔で言うのを見ると、落ち着かない気持ちになってくる。


「後悔してるの?」

「どうだろうな。あの時は、ああするしかないと思っていた。けどな──」


 水間くんはそこで一度言葉を切ると、何を思ったのか、その場に出ていた『ウィザードナイトストーリー』のゲームソフトを手に取った。


「このゲーム。やったことはないけど、少しは知ってる。確か主人公であるお前が、って言うかゲームの中のエミリアが、たくさんある選択肢を選んでいくことでストーリーが変わるんだろ?」

「そうだけど……」


 水間くんの言う通り、このゲームでは至るところで選択肢が出てきて、エミリアはそれを選んでいくことになる。その結果迎えるエンディングは、私達の前世とほとんどそのままのバッドエンドから、昨夜クリアしたラインハルトと恋愛するハッピーエンドまで様々だ。

 だけど、いったいそれがどうしたっていうんだろう?


「元々、何度か考えることがあったんだ。もしかしたら、もっといい方法があったんじゃないか。犠牲を払わないですむ道があったんじゃないかってな。このゲームで言うところの、ハッピーエンドになるための選択肢ってやつだ。もしかしたら、エミリアだけでなくラインハルトだって、実はそんな選択肢を選ぶ道があったのかもしれない。けど俺は、その選択肢を見つけることができなかった。その結果が、バッドエンドだ」


 水間くんは気づいているんだろうか。そんな風に過去を思い出しもしもの可能性を考えることが、まさに後悔そのものだってことに。


 思惑と結果を見れば、ラインハルトは自らの目的を果たしたって言える。

 なのにそれを振り返る水間くんは少しも誇る様子はなく、むしろどこか苦しそうに見えた。


 彼のこんな姿、前世を含めたって見るのは初めてだ。


 私はどうだろう。ラインハルトの抱えていた真実を知って、その生まれ変わりである水間くんにそれを突きつけた今、どんな思いを抱けばいいだろう。


 実は、その辺のとろこは少しも考えずにここに来た。

 彼のしたことに今一度怒りをぶつけるか、あるいは全部を許すか。その答えは、水間くんの本音を聞いた、未来の自分に任せようと思っていた。

 そして今が、その答えを出す時だ。


「水間くん。私は、あなたのやり方で傷ついた人をたくさん知ってる。だから何があっても、やっぱりあんなのは間違ってると思う」

「ああ。そうだろうな」


 水間くんも、こう言われるのは覚悟していたんだろう。言い訳も反論も一切することなく、私の言葉を受け止める。

 だけど、私の話はこれだけじゃ終わらない。


「けどね。いつまでもあなたへの怒りを引きずっていていいとも思えない。だってここにいるのは、ラインハルトじゃなく、水間遥人くんなんだから」

「なに?」


 ここで水間くんは、初めて怪訝な顔をする。怒りをぶつけられるのは覚悟していても、こんなことを言われるとは思ってなかったのかもしれない。

 それならきっと、これから私の言うことは、もっと予想外なんだろうな。


「私は、いい加減いつまでも付き纏ってる前世にケジメをつけたいの。悪いと思ってるならさ、それに協力してよ」

「協力って、いったい何をしようって言うんだ?」


 いよいよわけがわからないって感じで戸惑う水間くん。私だって、ほんの少し前まではこんなことしようとは思わなかった。

 行き当たりばったりの思いつき。だけど、これが私のやり方だ。


「私と勝負して。前世で相打ちになった戦いに、きっちり決着をつけるの。それで、前世からのモヤモヤにも、全部決着をつけるから」


 未だ戸惑う水間くんに向かって、私はハッキリと宣言した。

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