前世にケジメを
第35話 水間くんの意外な一面
翌日。朝起きると、なんだか体が重かった。
無理もない。次元の狭間での戦いに加えて、あの後ある理由から思い切り夜更かししてたんだ。疲れと寝不足で、ごっそり体力を奪われている。
こんな時はゆっくり休むのが一番。と言いたいところだけど、そんな中私は、一人水間くんの家に向かっていた。
昨日あんな感じで別れたから会ってくれるか少し心配だったけど、彼のスマホに今日会えないかってメッセージを送ったら、意外にもすんなり了解の返事が来た。
ただし用事があって家から出ることができないから、会いたいなら自分の家に来るようにとのこと。
別に会えるならどこでも構わないけど、考えてみれば男子の家に行くなんて初めてかも。
昨日と前世で行ったあの城は一応ラインハルトの家って言えるかもしれないけど、さすがにそれはノーカンだろう。
そんなことを考えながら、スマホに送られてきた情報を頼りに、水間くんの家を目指す。
お昼すぎには行くって伝えてあるから、そろそろ付ななきゃまずい。
「確か、このあたりのはずよね」
前世では世界を支配しかけた魔王。今世だって、一部の女子から熱狂的な人気を誇るモテ男子。
そんな彼の住んでる家は、いったいどんなところだろう。
そう思っていたけれど、今いるのはごく普通の住宅地。そしてたどり着いた水間くんの家も、やっぱりごく普通の一軒家って感じのところだった。
とりあえず、インターホンを鳴らそうか。
けどその時、不意に家の庭から一人の小さな女の子が飛び出してきた。
「お姉ちゃん、誰? お客さん?」
「えっ? ええと……」
見たところ4~5歳くらいのその女の子は、物怖じすることなく、興味深げに私を見る。好奇心旺盛な眼差しが、妙に可愛らしい。
するとそこで、更に庭から別の誰かがやって来た。
「こら。勝手に外に出ようとしちゃダメだろ──って、貝塚。もう来てたのか」
「う、うん。もしかして、今忙しかった?」
やって来たのは、水間くんだ。そのとたん、女の子はクルリと私に背を向け、水間くんの足に飛びついた。
「お外になんて出てないもん。ねえ、この人お兄ちゃんのお友達?」
「うーん。まあ、そんなものかな」
水間くんが、女の子の頭をクシャリと撫でる。この女の子、水間くんのことをお兄ちゃんって言ったわよね。ってことは、水間くんの妹?
「水間くん、妹なんていたんだ」
「ああ。
「は〜い。水間莉奈です。4歳です」
挨拶をしながら、ペコリと頭を下げる莉奈ちゃん。
水間くんに妹がいたなんて、なんだか意外だ。思えば、家族構成なんて聞いたこともなかったな。
「うちは両親が共働きで、今日は両方とも仕事が入ってるからな。俺が面倒見なきゃならないんだ」
「家から出られない用事って、そういうことだったのね。でもそれじゃあ、私が来て迷惑にならない?」
直接会って話しをしたくてここまで来たけど、こうなるとちょっぴり躊躇ってしまう。
「それなら大丈夫だ。もう少ししたら莉奈はお昼寝の時間だからな。けど、それまで少しだけ待っててくれるか」
「うん。いいよ」
水間くんの口からお昼寝なんて言葉が出てくるのが、ギャップがあってなんだかおかしい。
だけどそんなものはまだ序の口だった。莉奈ちゃんは水間くんにくっつきながら、おねだりするように言う。
「お兄ちゃん。莉奈がお昼寝するまで、一緒に魔法少女ごっこしよう。私が魔法少女で、お兄ちゃんが敵ね」
「よしよし、わかった」
莉奈ちゃんの言う魔法少女ってのは、私でも知ってる、小さな女の子向けのアニメのキャラだ。
えっ。水間くん、妹と一緒に魔法少女ごっこなんてやるの?
驚く私をよそに、目の前で兄妹による魔法少女ごっこが始まった。
「敵だぞー。がおー」
「えい、魔法少女らりあっと! 魔法少女じゃーまんすーぷれっくす!」
「うわー、やられたー」
4歳児の攻撃に、成す術なくやられる水間くん。
今度は、魔法少女コブラツイストに、魔法少女バックブリーカーをくらっている。
えっと、水間くん? あなた、前世では魔王を名乗って恐怖で世界を支配しようとしていたんだよね。
あの世界の人達がこれを見たら、いったい何て言うだろう。
それからしばらくの間、水間くんは莉奈ちゃんの遊びに付き合ってあげてたけど、やがて莉奈ちゃんのお昼寝の時間がやってくる。
水間くんは莉奈ちゃんを連れて家の中に入ると、奥に敷いてあった布団に寝かしつけた。
私も一緒に家の中に入って、その一部始終を見ていた。
「なんだか、水間くんの意外な一面を見た気がするわ」
莉奈ちゃんが寝ている部屋から出て、水間くんと二人でお茶の間に移ったところで、正直な感想をもらす。前世で見てきたラインハルトと、学校での水間くんに続く、新たな一面だ。
「そうか? けど、これはこれでけっこう楽しいもんだぞ」
まあ、きっとそれは本心から言ってるんだろうな。でなきゃ、莉奈ちゃんの遊びにあんなにも付きあったりはしないだろう。
それに、そんな水間くんの姿には驚きはしたけど、少し納得するものもあった。
「ラインハルトだった頃も、正体隠して街に出た時、子供の面倒見たことあったんだよね」
そう言った瞬間、水間くんの動きがピタリと止まる。
そりゃそうか。だって今のは、本当なら私が知ってるはずのない話なんだから。
「なぜそれを知っている?」
静かに聞いてくる水間くん。だけど、内心じゃけっこう動揺していると思う。
私はそれに答える前に、持ってきた鞄からあるものを取り出した。
それは、1本のゲームソフト。それを見て、私が何をしたか、水間くんもすぐに理解したみたいだ。
「これ、何かわかるよね?」
「『ウィザードナイトストーリー』。俺たちの前世を元に話を書いた、あのゲームか」
「そう。昨日水間くんと別れた後、急いで小百合に借りに行って、ラインハルトルートをプレイしたわ」
本来、隠し攻略対象であるラインハルトだけど、これまでやりこんでいた小百合のデータのおかげで、いきなり彼のルートからスタートすることができた。
隠しルートからやるってのはゲームとしてどうなのかって思うけど、そこは大目に見てほしい。
とはいえラインハルトルートのシナリオはかなりのボリュームだったから、クリアし終えたのは真夜中。おかげですっかり寝不足だ。
あと、エミリアと攻略対象達の恋愛イベントがたくさんあって、なんとも言えない恥ずかしさが満載だった。けど、とりあえずそれは今は置いておこう。詳しく思い出すと、恥ずかしさでどうにかなっちゃいそうだから。
とにかく、そうしてプレイしたおかげで、知ることができた。
ラインハルトがどうして部族連合を裏切り、世界全てに対して宣戦布告したか。
その本当の理由を。
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