第34話 ラインハルトの真意
「あの、それってどういうことですか?」
そう尋ねた時、ガタリと音を立て隣の部屋の戸が開き、水間くんが現れた。
「水間くん!? 寝てたんじゃなかったの?」
「今の今まで寝てたよ。目が覚めたから起きただけだ」
大丈夫かな? スフィアは、少し休めばすぐに回復するって言ってたけど、それにしたってもう少し休んでおいた方がいいんじゃない?
けど当の本人は、もうすっかり大丈夫って感じだ。
「心配かけて悪かったな」
「べ、別に心配なんて……」
咄嗟に否定しようとしたけど、まあ、心配はしてたわね。スフィアから大したことないって聞くまでずっとソワソワしてたし、今こうして無事な姿を見て、すごくホッとしてる。
「まあ、ちょっとだけ、心配したかな」
「ああ。ありがとな」
お礼を言われて、なんだか胸がザワザワする。なんとなくこうなる気がしたから、なかなか素直に心配したって言いにくかったのよね。
それから水間くんは、石才さんに向かって頭を下げる。
「急に押しかけたばかりか手当てまでしてもらって、ありがとうございます」
「いいのよ。さっき恵美さんにも言ったけど、生まれ変わったあなた達と会うことができて、凄く嬉しかったんだから」
それから水間くんは、スフィアにもお礼を言う。
「また俺の戦いに付き合わせて悪かったな。おかげで助かった」
「いえ。あなたにお仕えした者として、当然のことをしたまでです。ですが、その……大変申し上げにくいのですが、これからも以前のようにお仕えするのは難しいかもしれません」
言い淀みながら、チラリと石才さんを見るスフィア。それを見て、水間くんは察したように言う。
「ここで今まで通り暮らしていきたいんだろ。俺も、これ以上お前の自由を奪う気は無い。好きに生きたらいいさ」
自分に仕えてくれていた部下と区切りをつけることに、色々思うことがあるのかもしれない。今の水間くんはほんの少しだけ寂しそうで、だけどそれ以上に、どこか嬉しそうに見えた。
「ありがとうございます。あなたにお仕えできて、幸せでした」
スフィアも、お礼を言いながらも少し名残惜しそう。
ラインハルトにこんなにも尽くしていた部下がいたなんて、前世ではまるで知らなかった。水間くんと一緒にいると、ほんの少し前まで持ってたラインハルトのイメージが、次々に変わっていく気がする。
それから私達は、二人揃って家に帰る。
石才さんがタクシーを呼んでくれて、その代金は彼女もち。そんなことまでしてもらわなくてなもって断ろうとしたけど、私達の人生をネタにしたおかげでゲームを作ることができたんだからこれくらいさせてと言われて、結局その言葉に甘えることにした。
「あなた達と出会えて本当によかったわ。またいつでも遊びに来てね」
そんな石才さんの言葉に送られ、タクシーはまず私の家の前へとたどり着く。
私がタクシーを下りると、なぜか続いて水間くんも降りてきた。
「面倒だった人造魔物との戦いも、これでようやく決着がついたな」
「うん。そうだね」
なるほど。確かにこの話をするなら、タクシーの中ではできないね。
まあまあ長くて大変だった日々も、これで終わり。ってことは、もう水間くんとこうして一緒にいることも無くなるのかな?
別に、それならそれで仕方ないかもしれない。けどそうなる前に、どうしても聞いておきたいことがあった。
「ねえ、水間くん。前世で私と最後に戦った時、私に謝ったよね。あれ、どうして?」
「なに──?」
その瞬間、それまで穏やかだった水間くんの表情が、一気に強ばる。
だけど、私の聞きたいことはまだ終わりじゃない。
「それに、さっき石才さんが言ってたんだ。私に、ラインハルトの真意を知ってほしかったって。それってどういうことなの?」
水間くんの顔が、ますます強ばっていくのがわかる。
どっちも聞くタイミングを逃していて、だけど妙に気になっていた。このまま水間くんと話す機会が無くなってしまったら、ずっと聞けないままかもしれない。そう思うと、今ここで尋ねずにはいられなかった。
思えば、前世で持っていたラインハルトの印象と今の水間くんとでは、単なる生まれ変わりじゃ説明のつかない、大きな違和感があった。
世界全てを敵に回した極悪非道の魔王が彼みたいになるとは、どうしても思えない。そんなズレの答えがそこにある。そんな気がしてならなかった。
だけど、水間くんはフッとため息をついて肩をすくめる。
「なんのことだ。気のせいか勘違いでもしてるんじゃないのか?」
「で、でも……」
あっさり否定され、食い下がろうとするけど、水間くんは話は終わったとばかりに背を向けタクシーに戻っていく。
そしてすぐにタクシーは走り出し、その場には私一人が残る。
「気のせいか勘違い、か」
なんだか納得いかなかったけど、あれ以上聞こうとは思わなかった。なんとなく、聞いても答えてくれないような気がしたから。
けどだからといって、抱えたモヤモヤをこのままにしておく気はなかった。
水間くんには悪いけど、彼が話してくれなくても、真相を探る方法なら他にもある。
一つは、石才さんに聞いてみること。だけど水間くんが何も話してくれないと知ったら、石才さんだって話すのを躊躇うかもしれない。
それを考えると、もう一つの手の方がいいかな。
ポケットからスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。メッセージを送る相手は、小百合だ。
【突然ごめん。小百合の持ってる『ウィザードナイトストーリー』。ちょっとだけ借りてもいい?】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます