激闘 元剣の聖女&元魔王
第29話 駆け抜けろ
次元の狭間なんて、いったいどんな場所だろう。もちろんそんなもの見たことないから、スフィアの話を聞いても、なんとなくイメージしづらかった。
だけど実際にやってきたその場所は、いかにもそれっぽいところだった。
空と呼べるような場所は、青や紫といった色ががマーブル状の中途半端な状態で混ざりあっていて、なんだか気持ち悪い。だだっ広くてどこまでも広がっている空間に、ボロボロになったお城だけがポツンと浮かんでいた。
その城の門の前に、私達は立っている。
この城こそが、今回の目的地。かつて私とラインハルトが命をかけて戦った、最終決戦の場所だ。
「まさか、こんな形でまたここに来ることになるなんてね」
「まったくだ。そもそもこの城も、人造魔物を生み出すクリスタルも、本当ならお前の仕掛けた魔法具の爆発で全部壊れるはずだったんだよな」
水間くんも、この光景を複雑そうな表情で眺めている。彼やスフィアにとってはかつて住んでいた場所なんだし、それがこんな無惨な姿になっているのを見ると、私以上に思うところがあるのかもしれない。
けれど、物思いにふけってる場合じゃない。さっさとクリスタルを見つけて、人造魔物を何とかするんだ。
「クリスタルって、どこにあるかわかる?」
「ああ。以前と場所が変わっていなければな。だが、こに行くまでの通路は少し複雑になっている。この中に人造魔物がいるなら戦いになるだろうが、大丈夫か?」
「……多分」
ハッキリ大丈夫と言わなかったのは、さっきスフィアに魔力を送った際の消耗が、想像以上に激しかったからだ。魔力を送ると、その分体力だって削がれる。まだ城に乗り込む前だってのに、既に息が上がっていた。
わざわざそんなことを聞くってことは、水間くんも似たようなものなんだろう。
「まあ、こっちの調子がどうであっても、向こうは待ってはくれないようだがな。俺達がやってきたこと、既に気づかれたみたいだ」
水間くんがそう言いながら指差すと、城の中から狼のような形をした人造魔物が数体、こっちに向かってやって来るのが見えた。私達の世界にも何度かやってきたやつらだ。
「申し訳ありません。クリスタルのある部屋に直接転移できればよかったのですが、そこまでの調整は無理でした」
スフィアがそう言って頭を、と言うか体全体を下げるけど、それは仕方ない。こっちだって、元々戦う覚悟でここまで来たんだ。
「平気だって。元、剣の聖女を舐めないでよね」
もっとも今はその剣がないから、今回も魔法主体で戦うことになりそうだけど。
私の聖剣も水間くんの魔剣も、多分この城のどこかに転がっているんだろうけど、以前の戦いで折れてしまっているから、見つけても使いものにならないだろう。
残念だけど、ないものねだりをしても仕方ない。今の私たちにできる戦いをするだけだ。
「闇よ、貫け!」
「光よ、包め!」
私と水間くんが同時に放った魔法が、向かってきていた人造魔物の一団を吹き飛ばす。疲れていても、得意な戦い方ができなくても、このくらいはどうってことない。
「ここでじっとしていたら、他の奴らもやって来て面倒なことになりそうだ。一気に進むぞ」
「わかった。私はクリスタルがどこにあるかわからないから、先頭を頼める?」
「ああ、任せろ」
先頭に水間くん、続いてスフィア、最後に私という順で、城の中に入っていく。その途中、スフィアが私達の間をコロコロ転がりながら言う。
「お二人には申し訳ありませんが、ワタクシの警護もお願いしますね。ワタクシがやられたら、全員元の世界には帰れなくなってしまいます」
「もちろんよ。いざとなれば、私の後ろに隠れてね」
私だって帰れなくなるのはごめんだし、石才さんにも全員無事に帰ると約束したんだ。
三人で城の中を駆けていくと、目の前にまた、狼に似た姿をした人造魔物が現れる。さらに後ろからも、鳥の形をしたのと、熊みたいにがっちりとした体格のやつが追ってきているのが見えた。
「さっき倒したばかりだってのに、いったいどれだけいるのよ。前にここに来た時だって、こんなにはいなかったじゃない」
「あの時は、城に侵入したのがお前一人だとわかっていたから温存しておいたんだ。そいつらも全部含めてここにいるなら、面倒な数になりそうだな」
「面倒って、それを作ったのはあなたじゃない」
こんなやり取りをしながらも、私達は魔法を放ち、前にいる人造魔物を吹き飛ばす。通路を進む度、新たな人造魔物が現れるけど、やることは一緒だ。
と言っても、何も全部倒す必要はない。
私達の目的は、あくまでクリスタルを手に入れること。なら片付ける相手は最小限に抑えて、さっさと先へと進んでいった方がいい。
当然、打ち漏らした奴らは後から追いかけてくるけど、それを撃退するのが一番後ろを走る私の役目だ。
通路を走りながら、時折後ろに向かって魔法を放つ。例え倒し切ることはできなくても、それだけで相手は警戒し、足を止める。その間に、こっちはさらに先に進む。その甲斐あって、追ってきた人造魔物との距離は、だんだんと開いてきていた。
ここまでは作戦通り。使う力は最小限に抑えながら、いかに素早く目的地にたどり着けるか。それが、この戦いの一番重要なポイントになっていた。
問題は、その目的地だ。さっきから走り続けているけど、城の通路は複雑に入り組んでいて、今自分がどっちに向かっているかもわからなくなる。
「ねえ。クリスタルのある部屋って、本当にこっちでいいの? さっきから右に行ったり左に行ったりしてるんだけど!」
「簡単に侵入させないように、わざと複雑に作ってあるんだ。こっちで間違いないから、このまま着いてきてくれ!」
少し不安になって尋ねると、即座に答えが帰って来た。こういう時、建物の構造をしっかりわかってる人がいるってのはありがたい。
それにしても、またこの城で戦うことになったってだけでも驚きだけど、まさかラインハルトの生まれ変わりと共闘することになるなんて、前世の私に言っても絶対信じないだろうな。それに信じたら信じたで、何をバカなって言われるかも。
何しろ、かつての宿敵であり、世界を恐怖に陥れた魔王だ。もちろん、それを忘れたわけじゃない。
けどなぜだろう。なんとなくだけど、今の彼は、こうして一緒に戦っても大丈夫だと思えるんだ。
「貝塚。まだバテてはいないよな」
「当たり前よ」
スフィアへの魔力供給とこれまでの戦いで、実はけっこう疲れは溜まってきている。けれど、まだまだ戦えないわけじゃない。
すると水間くん。ほんの少しだけ走るスピードを緩めて、話を続けた。
「そうか、よかった。実はクリスタルのある場所はまではもうすぐなんだが、そこには少しばかり厄介な奴らがいる」
「厄介?」
尋ねるけど、答えを聞くより先に、狭かった通路が急に開けて大きな広間に出る。
そこには水間くんの言っていた通り、中央に大きなクリスタルが置かれていた。
あれが、人造魔物を生み出す古代兵器。私達がここに来た目的だ。
だけどそれを目の前にしても、喜ぶのはまだ早い。
水間くんの言った、厄介な奴ら。それと思わしきものが、クリスタルのすぐ側にいたからだ。
「ねえ、何あれ? あれも人造魔物なの?」
そこにいたのは、人造魔物の特徴である、生物と結晶が混ざりあったような怪物だった。だけど、こんなタイプは初めて見る。
人造魔物の姿は、狼や鳥や熊よのうな動物に似ている奴らが多かったけど、そいつの体型は、私達人間とほとんど同じだった。それが、武器と鎧で武装している。見た目だけなら、武装した騎士とそう変わりない。
今まで見てきた人造魔物と比べると、明らかに異質だった。
しかも、そんなのが四体も並んでいた。
「クリスタルを守るために作った、特製の人造魔物だ。戦闘力は他の奴らとは段違いになっている。油断するんじゃないぞ」
「そうみたいね」
水間くんには悪いけど、完全にいらない忠告だ。わざわざそんな事を言われなくても、武器を構えた奴らの佇まいと発する魔力だけで、今まで戦ってきた人造魔物とは違うんだと嫌でもわかった。
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