第27話 人造魔物が出る理由
スフィアはこれで予測の真偽を確かめるって言ってたけど、何かわかったかな?
そう思ってスフィアを見るけど、いくら人間くさいとは言っても、金属出できたその顔から細かな表情を読み取るのは難しい。だけど私達の様子をじっと見た後、静かにこう言った。
「なるほど。やはりワタクシの見立てに間違いはなかったようです。人造魔物が現れた原因、だいたいのところはわかりました」
「本当!?」
今のでいったい何がわかったんだろう、私だって何か特別なことは起きてないか注意はしたんだけど、全く見当もつかない。
「まず説明しますと、この世界にきてからというもの、ワタクシの周りには常に、転移魔法を使った時のような空間の歪みが発生していました。そして、お二人の周りでもそれは観測されています」
「空間の歪み? 確かに人造魔物が現れる時に発生してるのはわかるが、常にあるなんて思えないぞ」
説明を初めてすぐ、水間くんが疑問を挟む。私も、自分の周りに空間の歪みがあるなんて、言われてみてもわからない。
「恐らく、次元の穴を通って世界を超えてきた後遺症のようなものでしょう。歪みと言っても、普通は観測できない程度の極微弱なものです。ワタクシも認識はしていましたが、特に不都合もないので今まで放っておきました。そう、今までは」
改めて、気を張り巡らせながら時空の歪みを探るけど、やっぱり全然わからない。スフィアの言う通り、本当にほんの僅かなものなんだろう。
問題は、それがどんな事態を引き起こすかた。今までは特に不都合がなかったって言ったけど、つまりそれって、今は違うってこと?
「お二人と出会ってから、ワタクシの周りの歪みの量が、僅かながら上昇しました。それに先程お二人が手を繋いだ際も、歪みの上昇が見られました。つまり次元を超えてこの世界にやって来た者同士が近づいたり接触したりすると、時空の歪みが増すのでしょう。もちろんそれも、普段だと些細なもの。しかし歪みとは絶えず変化するものであり、それを上昇させる要因が多ければ多いほど、その最大値も、引き起こされる事象の大きさも変わってくるのです」
「えっと……つまり、どういうこと?」
なんだか一気に言葉が難しくなってきて、何がいいたいかよくわからなくなってくる。
思えば前世でも、難しい作戦や複雑な魔法の理屈は、理解するのに苦労したっけ。
すると私の混乱ぶりを察してくれたスフィアが、言葉を選ぶように説明を続ける。
「要は、お二人やワタクシのように次元を超えてこの世界にやってきた者同士が近くにいると、次元の歪みが増して、別の世界へ繋がる穴が空く可能性が出てくるのです。そして次元の狭間にいた人造魔物が、それを通ってやってくる」
「つまり……?」
「本人の意志とは関係なく転移魔法と同じようなことが起こり、人造魔物を呼び寄せている。こう言えばおわかりになりますか?」
「な、なんとか」
思いっきり簡単な説明に切り替えてくれた。なるほど、今の言い方なら、私にも理解出来た。
「なるほどな。初めて人造魔物が現れる直前に、俺達は手を繋いでいた。それが、次元を歪める大きな引き金になったってわけか」
水間くんも納得したように言う。これで、人造魔物発生の理由はわかった。
けれど、それを喜ぶ気にはなれなかった。それどころか、なんだか嫌な予感がしてくる。
「ねえ。それじゃ、私達が今こうして同じ場所にいるのってまずくない? さっきの話だと、なんだかそれだけで人造魔物が現れやすくなる気がするんだけど」
「ええ。その可能性は大いにあります。恵美様と遥人様に加えてワタクシもいますので、普段お二人でいる時よりも出現率は高いものと推測されます」
やっぱり!
思わず立ち上がって、部屋の隅まで後ずさる。こんなので意味があるかはわからないけど、今の話を聞いた後でスフィアや水間くんの側にいるのは抵抗があった。
スフィアの発言に衝撃を受けたのは、私だけじゃない。
「あの。もしここに人造魔物が出たら、私のこと守ってもらえる」
心配そうに言う石才さん。
もちろんです。と言うか、お家をそんな危険地帯にしてしまってすみません。
水間くんも、私みたいに慌てたりはしないけど、私とは別方向の部屋の隅へと身を追いやっている。やっぱり、相当警戒してるみたいだ。
「さて、人造魔物が現れる原因がわかったのはいいが、問題はこれからどうするかだな」
眉間にシワを寄せながら、困ったように言う。いくら原因がわかっても、対処法を考えないとなんの意味もない。
けど、いったいどうすればいいの?
「俺達が近くにいるのが引き金になるなら、急いでここから離れて、スフィアとは二度と会わない。俺と貝塚は学校が一緒だから、どちらかが転校する。思い浮かぶ対策といえば、まずはこんなところか」
近くにいるのがダメなら、物理的に引き離す。単純だけど、それなりに効果がありそうな対策ではある。ただし、それにすぐ賛成できるかとなると難しい。
「人造魔物が出るから転校したいなんて言ったら、親に心配かけるよね」
「だろうな。心配の矛先が人造魔物になるか、そんなことを言い出した我が子になるかは知らないがな」
水間くんも提案はしたものの、できればやりたくないんだろう。かなり難しい顔をしている。
かといって他に有効な手なんてすぐには思い浮かばす、部屋全体がどんよりとした空気に覆われていく。
それに耐えきれなくなったのか、石才さんが深いため息をついた。
「エミリアとラインハルト。それにスフィアが揃って、こんなにも悩むなんて。いっそ、その次元の狭間に人造魔物を退治しに行けたらいいのに」
それは、私もそう思う。
元々受け身でいるのは性にあわないし、前世でも敵と戦う時は、敵の陣地や要塞に向かって、自分から打って出ることが多かった。
けどいくらなんでも、相手がいるのが次元の狭間じゃ、攻め込みようがない。
だけどその時、それを聞いた水間くんが、ハッとしたように言った。
「いや。その手があったか」
「えっ?」
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