第26話 スフィアの考え
「人造魔物がこの世界に現れたとは、いったいどういうことなのですか?」
そう聞いてくるスフィアは、その事を全く知らない様子だった。ってことは、当然そうなった原因だって知ってるはずがない。
私は少し残念な気持ちになるけど、それでも水間くんは話を続けた。
「どういうことかは俺にも全くわからない。だから、全部聞いた上でお前の考えを聞かせてくれないか。こういう時、お前の知恵は頼りになる」
「かしこまりました。久しぶりにラインハルト様のお役に立てるのです。張り切って参りましょう」
そうだ。例え直接の手がかりを掴めなかったとしても、それで打つ手が全部なくなったわけじゃない。
私もしっかりしないと。
「だがスフィア。そのラインハルトという呼び方はやめてくれないか。今の俺は、水間遥人。あと、こっちは貝塚恵美だ」
「遥人様、恵美様ですね。かしこまりました。それでは、何があったかお聞かせください」
こうして私達は、何があったか話しはじめる。初めて人造魔物が現れた、山登りの日の出来事。それ以降、度々私達の近くに現れるようになったこと。それを人知れず撃退していったこと。そして、なんとかしたいけど、全く原因がわからず困っていること。
スフィアはもちろん石才さんも聞き入っていたけど、まさかこんなことになってるなんて思ってもみなかったんだろう。時々、驚いたように息を飲んでは、目を丸くしていた。
私達が全てを話した後、真っ先に口を開いたのも彼女だった。
「じゃあこうしている間にも、どこかに人造魔物が現れるかもしれないってこと?」
「現れる頻度としては数日に一回くらいですけど、まあそうなりますね」
「突如日常に現れるモンスターなんて、まさにファンタジーの世界の話しね。だけど、いくらなんでもそんなのは現れてほしくないわ」
いくら向こう世界に興味津々でも、さすがに人造魔物と会いたいとは思わないらしい。そりゃそうか。
一方スフィアは、話を聞き終えてからしばらくの間、考えこむように唸っていた。
「ワタクシの記憶ですと、あの世界での最後の戦いの戦いの際、全ての人造魔物はあの城の中とその周辺に配置していました。そしてそのほとんどは、ワタクシやお二人の魂と同じく、次元の穴に吸い込まれたことでしょう。恐らく、奴らを生み出すクリスタルも一緒でしょう」
ということは私達の周りに出現した人造魔物も、そうして次元の穴に吸い込まれた奴らってことになる。
人造魔物を生み出すクリスタルはラインハルトとの戦いで壊したものと思ってたけど、人造魔物が現れていることとスフィアの話から考えると、まだ健在なんだろう。
ただ、それだけだと説明のつかないこともある。
「それじゃ、今になって急に私達の周りに人造魔物が現れ出したのはどうして? スフィアがこの世界にやって来たのは、今から十五年前。私達が生まれたのも十五年前。なら人造魔物だって、そのくらいの時期にやってこなきゃおかしいんじゃないの?」
「現れるまでの十五年間、どこで何をしていたかも気になるな。スフィア、実際にその次元の穴がどういうものか知ってるのはお前だけだ。意見があったら聞かせてほしい」
私と水間くんがそれぞれ疑問を口にして、スフィアを見る。もちろんスフィアだって何でもわかるわけじゃないだろうけど、この中では、唯一世界を超えたの時のことを覚えているんだから、一番頼りになりそうだ。
そして嬉しいことに、スフィアはすぐにその疑問に答えてくれた。
「そうですね。まず人造魔物が十五年間どこにいたのかですが、恐らく次元の狭間のような空間にいたものと推測されます」
「次元の狭間? そんなものがあるのか?」
「ええ。というのも、ワタクシ自身がそれを見ているのです。かつての世界で次元の穴に吸い込まれてしまいましたが、実はそれからすぐにこの世界に出てきたわけではありません。一度、何も無い奇妙な空間に放り出されたのです。それと同時に、ワタクシがやって来た次元の穴は閉じてしまったのですが、その空間にあった次元の穴はもう一つありました。不安はあれど、こんな何も無いところにいるよりはと思い、その次元の穴に飛び込んでみたのですが、そうしてやって来たのがこの世界でした」
「つまり、ここに来る前の僅かな時間いた場所というのが次元の狭間というやつか。人造魔物は過酷な環境でも耐えられる奴も多いし、水や食料も必要としない。そんなところでも生き抜いていておかしくないかもな」
これで、疑問の一つに答えが出た。こっちの世界でほとんど見かけない以上、多分今でも人造魔物のほとんどは、その次元の狭間ってところにいるんだろう。
問題は、そこからどうやってこっちの世界にやって来ているかだ。
「こっちの世界に来た時に通った次元の穴はどうなったの?」
「そちらも、ワタクシが通ってすぐに閉じてしまいました」
なら、それを通ってやって来るのは無理か。
するとスフィア。またもうーんと唸ると、私と水間くんに向かってこう言った。
「遥人様、恵美様。お二人とも、手を繋いではくれませんか?」
「えっ? なんで!?」
私と水間くんが手を繋ぐ? 急にそんなことを言われても、意味がわからない。
ちなみに石才さんはそれを聞いて乙女ゲーム脳を刺激されたのか、小さく「まぁ」と声をあげ、両手で口を覆っていた。
「話を聞くと、初めて人造魔物が現れた少し前にも、お二人は手を握られたのですよね。異常の原因を究明するためには、その前後に起きたことを調べて比較検証するのが一番です。それにワタクシ、原因については、既に一つ予測を立てています。その真偽を確かめるためにも、是非お願い致します」
「そ、そうなの?」
確かに、初めて人造魔物が現れた山登りの時、私は崖の下から上がって来ようとする水間くんを引き上げるため、その手を掴んだっけ。
と言うか、スフィア。何が原因か予測がついたって、本当なの?
「原因の予測については、実際に確認がとれてから話したいので、まずは手を繋ぐ再現をやっていただけますか?」
「う、うん」
「ああ、わかった」
それが原因究明の手がかりになるかもしれないなら、もちろんやらないわけはない。
水間くんにも異論はないようで、こっちに向かって手を突き出して来るから、私も同じく手を伸ばす。するとそれを包み込むように、私より大きく暖かい水間くんの手が覆いかぶさってきた。
(うぅ……)
水間くんと手を繋ぐ。あの時だってやったことだけど、改めてそう言われて実行するとなると、なんだか変に緊張する。
だけど別に、男子と手を繋ぐからと言って変な意味はないし、気にしない、気にしない。
そう自分に言い聞かせるけど、そんな私達を見て、石才さんが小さくはしゃぐ。
「きゃっ。繋いだ! 手、繋いだ!」
前のめりになってガン見してくる石才さん。
いや、乙女ゲームの恋愛イベント的な目で見ているのかもしれないけど、そんな甘さはこれっぽっちもありませんから。
心の中でそんなツッコミをしつつ、私達しばらくの間、その体勢のままじっとしていた。
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