第24話 石才さん、乙女ゲーマーの血が騒ぐ
『ウィザードナイトストーリー』ができるまで。小百合がいたら、きっと大喜びして聞き入るだろうな。もちろん、それを知りたいのは私も同じだ。
「スフィアと出会ってから、こことは違う世界ってどんな所か、ずいぶんと聞いたわ。魔法があったり、王様がいたり、私にとっては夢のような話で、だけどそんな世界があるんだって思うと、すっごくワクワクした」
そう語る石才さんの目は、とてもキラキラして見えた。まだ子供だった彼女が、実際に別の世界からやって来たスフィアからそんな話を聞かされたんだから、きっと凄い衝撃だったんだと思う。
「ラインハルトだけでなく、エミリアの話もずいぶんと聞いたわよ」
「えっ。私の話もですか?」
スフィアはラインハルトに仕えていて、敵であった私とはこれが初対面だ。そりゃ、名前くらいは知っていてもおかしくないけど、話をするにしてもほんの少しくらいだろうと思っていた。だけど、どうやらそうではないらしい。
「剣の聖女エミリアさんやその仲間達は、バルミシア王国の英雄として、何度も情報を集めていましたからね。戦力の分析はもちろん、それぞれどのような方か、私生活を含めてしっかり調べさせてもらいました」
そういえば、水間くんもそんなこと言ってたっけ。相変わらずプライバシーが心配になるけど、今そこで揉めるのはよしておこう。
それよりもっと気になることがあったから、石才さんに聞いてみる。
「ちなみに、私達のことはどんな風に聴いていたんですか? やっぱり、悪役とか?」
スフィアやラインハルトにとって私達は敵だったわけだから、場合によってはとんでもなく悪いやつになってるかもしれない。
だけど石才さんは、それを聞いて笑って首を横に振った。
「そんなことないわよ。むしろ、それぞれしっかりした信念や優しさを持っていて、敵であっても嫌ってるって感じはしなかったわ」
「そうなんですか?」
敵である立場の相手からそんな風に語られたというのは、なんだかかなり意外だ。
「優香には、あの世界であったことをできるだけ公平に知ってほしいと思っていましたから。あなた方の情報を主観ぬきで語ったら、結果としてそういう形になったのです」
「そ、そうなんだ」
それは、私としては大いにありがたい。知らないところで悪者にされているよりは、そんな風に思われている方がずっといい。
だけど面と向かってそう言われると、なんだか妙な恥ずかしさがあるもあった。
ふと、水間くんを見る。かつての仲間が敵である私のことをこんな風に話したとなると、どう思うだろう。
だけど彼は特に気にした様子はなく、表情も動かないままだ。こういう時の水間くんは、何を考えてるか本当に読めない。
そう思っていと、再び石才さんが話し始める。
「こうしてスフィアからあなた達の世界の話を聞いた私は、これを誰かに伝えたいって思うようになったの。ここでない別の世界があって、そこ生まれ、出会い、生き抜いた人達がいるんだって、たくさんの人に知ってほしかった。その気持ちは大人になっても変わらなかったけど、問題は、どうやってそれを伝えるか。そこで私は思ったの。そうだ、エミリアを主役にした乙女ゲームを作ろうって!」
「はいっ!?!?」
なんだろう。今、一気に話が飛躍したような気がする。
私達の世界の話を誰かに伝えたいってとこまではわかるんだけと、そこからがちょっと……いや、かなりわからない。
「あの、どうして乙女ゲームに、それも私を主役にしようって思ったんですか?」
私や仲間達の話をたくさん聞いていたってのもあるだろうけど、そういう理屈なら、ラインハルトが主役になったっておかしくない。と言うか、スフィアがラインハルトに仕えていたのを考えると、普通はそうなると思う。そして何より、どうしてそこで乙女ゲームが出てきたのか。
すると石才さんは、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、目を爛々と輝かせた。
「だってエミリアと言ったら、元は一庶民で、それが聖剣に選ばれたのがきっかけで戦うことになったんでしょ。しかも、一緒に戦う仲間はイケメンばっかり。そうでしょ?」
「えぇ、まあ……」
急に勢いよく捲し立てる石才さんに圧倒されながら、なんとか頷く。
確かに私は元は庶民だし、仲間はまあ、男の人がほとんどだったのは確かで、みんなそれぞれカッコよくはあったかなと思う。
「でしょ! それって、まんま乙女ゲームの主人公と攻略対象に当てはめられると思わない? それに気づいてからというもの、私は来る日も来る日もエミリアとイケメン達とのイチャコラを妄想し続けたのよ!」
その時のことを思い出しているんだろう。グッと拳を握り天に掲げる石才さんは、今までで最もいきいきとしていた。
その様子を見て、私はある人物を思い出す。
水間くんもまた、石才さんの姿を見て思うことがあるようで、スフィアに質問していた。
「なあ、スフィア。 石才さんって、元々乙女ゲーム好がきだったりするのか?」
「はい。優香は昔から、それはそれは乙女ゲームが大好きでした。時には寝食を忘れて没頭するので、何度も注意致しました」
「やはりそうか。そんな気はしたよ」
うん。私もそんな気はした。石才さんのこの様子、小百合が乙女ゲームを語っている時とそっくりだ。乙女ゲーマーって、みんなこうなの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます