明かされる謎
第22話 会わせたい人
イベント会場を後にした私達は、石才さんの運転する車に乗って、彼女の自宅へと向かう。
石才さん。本当はこれから会社に戻ってやることがあったみたいなんだけど、気分が悪いからと言って、それを全てキャンセルしていた。
今更ながら、けっこうな迷惑をかけてしまってる。
「ごめんなさい。お仕事あるのに、無理を言ってしまって……」
「気にしないで。あれからやるはずだったことは、別に私がいなくても何とかなるものだから。それより、今はあなた達の方が大事よ」
はじめはパニックになっていた石才さんだけど、今はだいぶ冷静になっているのか、すっかり落ち着いているように見えた。
「詳しい話は家に着いた後でしようと思うけど、その前にあなた達の名前を聞いていい? 生まれ変わっても、エミリアとラインハルトのままってわけじゃないんでしょ」
そういえば、私達のどちらも、まだ本名を名乗っていなかった。
「そうでしたね。私、貝塚恵美って言います」
「俺は、水間遥人。できれば、ラインハルトでなくこっちで呼んでもらえた方がいいです」
改めて自己紹介した後、気になっていたことについて聞いてみる。
「あの。さっき言ってた、会わせたい人って誰なんですか?」
私達の事情を知った上でそんなことを言うとなると、『ウィザードナイトストーリー』の制作に関係している誰かなのかなって思うけど、それが誰なのかまるで想像もつかない。
「その話も、向こうに着いてからにしましょう。と言うか、本人と直接会った方が早いと思うから」
うーん、いったい誰なんだろう。あれこれ考えてみるけど、やっぱり全然わからない。
そうしているうちに、車は目的地にたどり着く。
石才さんのお家。それは、ちょっと高級そうなマンションだった。
地下にある駐車場で車から降り、それからマンション内にあるエレベーターで上へと登っていく。
石才さんが、止まった階にある一室の扉の鍵を開け、いよいよお宅訪問だ。
「さあ。二人とも上がって」
「お、お邪魔します」
元々、自分達から訪ねていったとはいえ、今日初めて会った人の自宅に伺うとなると緊張する。これから話す内容を思うとなおさらだ。
私と水間くんが玄関で靴を揃えていると、石才さんは奥にある部屋に向かって声をかける。
「ただいまー。ねえ、ちょっと出てきてくれない?」
石才さん以外にも、誰か住んでいるのかな? もしかして、それが会わせたい人?
奥の部屋の電気は消えていて、すぐには人の気配を感じない。
けどその時、相変わらず人の気配は感じさせないまま、その部屋から何かがやってくるのが見えた。
誰かでなく、何かだ。
それを見て、私は思わず、間の抜けた声をあげた。
「へっ?」
奥の部屋から出てきたそれは、一言で表すなら、青くて丸い何かだった。
もう少し詳しく説明するなら、金属のような質感をした球体で、その表面には目と口をイメージしたような模様が備わっている。それが、コロコロと床を転がりながら、こっちへ近づいてきている。
何これ?
困惑する私の前で、その丸いのは突如喋り出した。
「お帰りなさい、優香。おや、お客様ですか?」
「うわっ!」
なんだか機械で加工されたような声だったけど、今確かに喋ったよね。
「おや、驚かせてしまいましたか。と言うか、優香。人がいるならいると、最初に言ってください。ワタクシ、隠れるどころか出迎えてしまったではありませんか」
「ごめんごめん。けどこの人達は、あなたに会わせたくて呼んだの。だから、隠れる必要はないわよ」
会わせたい人って、その丸いののこと?
どうやら優香さんの口ぶりでは、この子は普段人に見られないよう隠れているらしい。けど、いったい何者?
最近はペットロボットみたいなのも販売されてるけど、これもそうなのかな? それとも、私達に会わせたいってことは、まさか人造魔物的なやつ?
水間くんは、これを見てどう思っているだろう。
そう思いながら彼を見ると、ポカン口を開けながら、大きく目を見開いていて、私以上に驚いているようだった。水間くんがこんな顔をするなんて珍しい。
だけどそこから、表情が大きく変わった。
「スフィア。お前、スフィアか!?」
えっ? 水間くん、この丸いやつのこと知ってるの?
声をあげる彼は相変わらず心底驚いているようだったけど、どういうわけか、どこか嬉しそうにも見えた。
一方、スフィアと呼ばれた丸いのも、水間くんを見て声をあげる。
「ややっ。これはラインハルト様!? いや、そんなはずはありません。ワタクシの中にあるラインハルト様のデータと比較すると、細部に違いが……しかし、それでもよく似ている。それにこちらの方、剣の聖女エミリアさんでは?」
「それについては色々あるんだが、お前こそどうしてこの世界にいるんだ。てっきりもう死んだものと思ってたぞ」
このスフィアっての、私のことも知ってるの? いったいどうして?
水間くんとは以前からの知り合いで、何か通じているものがあるみたい。石才さんを見ると、彼女も事情を知ってるのか、なんだか嬉しくそうに笑ってる。
だけど私には、何が何やらサッパリわからない。この場で一人だけ、完全に蚊帳の外になっている。
「ねえ、いったいどうなってるの? 誰か私に説明してよ!」
とうとう耐えられなくなって、思わず叫び出す。
それでようやく、水間くんも話すのを止め、こっちを向いた。
「このスフィアって子、いったい何なの? 」
とりあえず、この中で一番尋ねやすい水間くんに詰め寄ってみる。少し前まで私と同じく何もわかっていなかったのに、一人だけ先に進んだみたいでなんだかズルいって気持ちもある。
水間くんは何と説明したらいいか迷っているのか、少しだけうーんと唸ってから、こう切り出してきた。
「そうだな。まず最初に言っておくと、こいつは俺達の前世である『ウィザードナイトストーリー』の世界で作られた、完全自立型のオートマトン。こっちの言葉で言うなら、自分で考え自分で動く、全自動のロボットみたいなものだ」
「ロボット?」
さっき私もこの子を見てペットロボットを連想したけど、金属の体に機械的な声と、ロボットっぽい要素はたくさんある。けどそれを聞いて、ああそうなんだとすぐに納得することはできなかった。
「ロボットって、あの世界でそんなもの作ることできるの? そりゃ、魔法は発達してたけど、いくらなんでもこんなの作るなんて無理よ」
私の仲間にも凄い魔術師はいたし、他にも何人か会ったことはある。だけどそれらの魔法や知識でロボットみたいなのを作れるかってなると、さすがに難しいと思う。
こっちの世界にあるような科学で作ろうとするなら、それこそ無理だ。
「ああ。確かにあの世界でロボットを作れと言われても不可能だ。少なくとも、俺たちのいた時代ではな」
ほらやっぱり。そう思ったけど、俺たちのいた時代っていう、なんとも変な言い回しが気になった。
それって、別の時代なら作れるってこと?
そこまで考えて思い出す。かつて私達がいた世界には、はるか昔、今よりずっと優れた技術を持った文明が栄えていたということを。
「それってまさか、古代兵器が作られたっていう時代のこと?」
「ああそうだ。俺がラインハルトだった頃、遺跡から三つの古代兵器を発掘したのは知っているな。だがその時発掘したのは、兵器だけじゃない。このスフィアも一緒。と言うか、こいつが一番重要だったと言っていい」
あの恐ろしい古代兵器よりも、このスフィアってやつの方が重要?
一気に警戒心が高まるけど、スフィアはその丸い体を僅かに傾けながら、胸を張るようなポーズをしただけだった。
もっとも、ボールに顔が書いてあるような見た目だから、どこか胸だかわからなかったけど。
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