第20話 ごめんね小百合
元々、トークショーで私達にとって都合のいい情報が聞ける確率は低いのはわかってた。
とはいえ、シナリオライターである石才優香さんが有力な情報源になりそうなのは変わりない。
そう思った私と水間くんは、場合によっては石才さんに直接会いに行くことを考えてここまで来ていた。
問題は、どうやって会いに行くかだ。
恐らく石才さんは、トークショーが終わった後はイベントスタッフ用の通路へと引っ込んで行くだろう。当然そこは、一般人は立ち入り禁止。会わせてくださいなんて言っても、無理だろうな。
そうなると、取るべき手段は一つしかない。誰にもバレないように、そこに忍び込む。
下手をすれば問題になるかもしれないけど、そこはもう腹を括ろう。
そう決意している間に、トークショーも終了。このまますぐに石才さんのところに向かいたいけど、それには一つ問題があった。
小百合だ。
「楽しかった〜。声優さん達の生アフレコに、制作裏話。来てよかった!」
私達と違って純粋にイベントを楽しんだ小百合はホクホク顔だ。
「それじゃ、次はどこ行こうか。二人とも、こういうイベントは初めてでしょ。色々案内するよ」
「ええと、どうしようか……」
意気込む小百合には悪いけど、私達が行きたいところは別にある。だけどそれを話すわけにはいかないし、こんなことに小百合を巻き込むのはもっとダメ。どうしよう。
すると、困っている私よりも先に、水間くんが応えた。
「なあ、柘植。悪いけど、これからは俺と貝塚の二人で行動させてくれないか?」
「えぇーっ! なんで!?」
水間くん、そんなストレートな。小百合もこれには驚いたみたいで、不満そうに声をあげる。そりゃそうだよね。
いよいよどうしようか迷ったけど、水間くんはそこから更にこう続けた。
「頼む。今は貝塚と二人でいたいんだ」
少し頭を下げて、お願いするようなポーズをとる。でも、そんなんで納得してくれるかな。
だけどそれを見た小百合は、一瞬ハッとした表情になる。それから、なぜか次第に顔をニマニマと顔をほろこばせていく。
何? いったいどうしたの?
困惑する私をよそに、二人の会話は続く。
「えっ? えっ? 恵美と二人きりでいたいって、もしかしてそういうこと?」
「そこは、まあ……察してくれると嬉しいんだが、ダメか?」
「ダメじゃないダメじゃない! 私こそごめんね、二人のこと気づいてあげられなくて。考えてみれば、わざわざ休日に一緒に遊ぶって時点で想像できたよね」
想像できたって、何を!? もしかして小百合、何か重大な勘違いしていない? て言うか水間くん、わざと勘違いするような言い方してない!?
「それじゃ、おじゃま虫はさっさといなくなるから。後は二人でごゆっくり」
「ちょっと、小百合。待って──」
このまま誤解されるなんて、冗談じゃない。ホホホと笑いながら退散しようとする小百合を引き止めようとするけど、そんな私を水間くんが制した。
「何してる。急がないと、あの石才って人に会えなくなるかもしれないぞ」
「そ、そりゃそうだけど、なんであんな誤解を招くような言い方するのよ!」
睨みながら抗議するけど、水間くんは涼しい顔で言う。
「俺は何一つ間違ったことは言ってないぞ。ただ別行動したいって頼んだだけだ。それを柘植がどう捉えたかまでは知らないがな」
「くっ──あなたやっぱり魔王よ!」
あんたは誤解されてもどうってことないかもしれないけど、こっちは大いに困るの!
何だか、今世で水間くんと出会って以来、最大級の殺意を抱いたような気がする。
だけど悔しいことに、これで私達だけで行動できるようになったのも事実だ。それに水間くんの言う通り、石才さんに会いに行くなら、急いだ方がいい。
「ああ、もう! 後で覚えておきなさいよ!」
怒りを振り払うように叫びながら、スタッフ用の通路に向かって歩いていく。
もちろんそこは、普通の人は入れないようになっていて、入口近くに警備員がいる。だけど私も水間くんも、ある意味普通の人じゃない。二人とも、魔法が使えるからね。
私の場合、前世の仲間である元暗殺者から、姿を消す魔法を教わっている。本来魔法はあんまり得意じゃないから、そこまで長い時間姿を消すことはできないけど、警備員の目を盗むくらいならできる。水間くんも同様だ。
揃ってスタッフ用通路に入っていって、あとは石才さんを探すだけ。と言っても、どこにいるのかわからないから、なかなかに大変そうだ。
私も水間くんも、辺りを見回しながらそれっぽいところを探す。
姿を消す魔法も効果が消え、何人かとすれ違ったけど、幸いなことに声をかけられることはなかった。堂々としていたから、勝手に入ったとは思われなかったみたい。
そうしているうちに、たくさんの部屋が並んでいるところを見つけ、足を止める。どうやら今は、ステージ出演者が待機するための楽屋としてわれているみたいだ。
それぞれの部屋の前には、使用者の名前の書かれた紙が貼ってあったけど、その中で、ついに目当ての名前を見つけた。
「水間くん。これ、石才優香さんって書いてある。石才さん、この中にいるみたい」
「よし。なら、入ってみるか」
言うが早いか、すぐにドアに手をかける水間くん。だけと、どこか緊張しているようにも見えた。
無理もない。石才さんに会えるってのはもちろんだけど、今更ながら、私達のやってることは不法侵入だ。もしも騒がれ通報でもされたら、大変なことになりかねない。
「すみません。怪しい者ではないのですが、お話してもいいでしょうか」
できるだけ怖がらせないよう、ドアが開くと同時に、できるだけやんわりとした口調で言う。
だけど返ってきたのは、どこかビクリとしたような声だった。
「な……なに、あなた達?」
思った通り、中にいたのは石才さんだった。しかもこの部屋は彼女一人にあてがわれていたようで、話をするには好都合。
とはいえその石才さんが、なんだか怯えたように後ずさっている。
「あの、ですから私達は、決して怪しいものでは……」
なんとか落ちついてもらおうと、再度声をかける。
だけど、その時気づいた。今の私達の格好は、マスクにメガネに帽子という、顔をガッチリガードした状態だ。
はっきり言って、怪しさバツグンだった。
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