突撃! ゲームの開発者
第16話 ちょくちょく現れるようになった人造魔物
昼休み。本来ならのんびり過ごしているはずのこの時間。だけど私は、残念ながらそんなリラックスムードとは程遠かった。
学校の屋上に立ち、そこからさらに上を見上げると、そこには体が水晶のような結晶でできた鳥が飛んでいた。
前世で何度も戦ったことのある、人造魔物のうちの一体だ。
私を敵と認識したみたいで、声をあげながらこっちに向かって飛んでくるけど、それを私の魔法が撃ち落とす。
「光よ、包め!」
たった一撃で、あっさり粉砕。だけどそこに勝利の高揚感なんてものはまるでなく、ただ疲れたようにため息をつく。
「はぁ〜。また人造魔物。これでいったい何度目よ」
屋上は本来立ち入り禁止なんだけど、何を言っても魔法を使っても、人に聞かれたり見られたりする心配がなのはいいことだ。
もう、昼休みはここで過ごすことにしよう。
ここに続くドアにも鍵がかかっているんだけど、魔法を使える私にとっては、近くの教室の窓からここまで飛んでくることくらいならできる。
ただ、そっちを人に見られないかが、最大の心配事だったんだけどね。疲れた一番の原因は、戦闘でなくそれだ。
「はぁ〜」
もう一度疲れを吐き出すように息をつくと、ふと後ろに誰かの気配を感じた。と言っても、立ち入り禁止の屋上に来れる人なんて限られているだろう。
振り返ると、そこには思った通りの人、水間くんがいた。
「悪い、遅れた。人造魔物はどうなった?」
「それなら、もうやっつけたから。一体だけだったし、大したことなかったわよ」
今あったことを、簡潔に話す。
彼がラインハルトの生まれ変わりだってことがわかってから、もう二週間が過ぎた。つまり、こっちの世界で私達の前に初めて人造魔物が現れてからも、二週間が過ぎていた。
それからというもの私達の近くには、どういうわけか、たまに今みたいな人造魔物が現れるようになったのよね。
突然魔力の波動を感じたと思ってその場所に向かってみると、そこには人造魔物がいる。
もちろん放っておくわけにはいかないから、その度にこうしてやっつけるようになっていた。
幸いなことに、現れてもその数は、せいぜい一体か二体くらい。しかも魔力の波動を放っているから、現れたこともどこにいるのかも、察するのは簡単だ。
私だけでなく水間くんもまた、魔力の波動を感じたらすぐに退治しに行こうとしてはいるんだけど、彼の場合、今回みたいに間に合わないことがけっこうあるの。
「ケガはないか?」
「さっきも言ったでしょ。今回現れたのは一体だけだったし、あんなのにやられたりはしないわよ。それより、周りの目を目を盗んで移動する方が大変だったわ」
「周りの目を盗む、か。悪い。俺も、もっと早くにくそうしなきゃいけなかったんだけどな」
「話しかけてくる人が多いと、切り上げるのも難しいからね」
どういうわけか、水間くんの周りには自然と人が集まってくる。特に、彼のファンの女の子達。以前小百合が絡まれたみたいな面倒なことはないけど、その人気は相変わらず健在だ。
それを注意して、学校内で水間くん話す時はこういう人目がない所でやるのがほとんどだ。
人造魔物は毎回なんの前触れもなく現れるけど、そんなファンの女の子達を振り切ってすぐに駆けつけるってのは、いくらなんでも難しそう。
私も小百合と話している途中で人造魔物の気配を感じとったんだけど、あれこれ理由をつけてその場を離れるのは大変だった。
「実際、倒すのよりも周りにバレない方が大変よね」
「ああ。俺達はもちろん、人造魔物の存在も、世間にバレたら厄介なことになりそうだからな。最近、変な生き物を見たって噂をしてる奴が何人かいたが、多分人造魔物のことだろうな」
「そうなの!? それじゃ、いよいよバレるのも時間の問題かも」
「ああ。だからこそ、そうならないようできるだけ早く駆けつけるべきなんだがな……」
水間くんは、そこで言葉を詰まらせる。どうやら、今回この場に来ることが出来なかったことを悔やんでるみたいだ。
だけどそれはもう過ぎたこと。それに、どうやって駆けつけるか以上に、もっと根本的な解決を考えた方がいいんだけど、そっちはそっちでうまくいきそうにない。
「あいつらが出てきた原因、やっぱりわからない?」
「ああ。俺達の周りにしか現れてないとなると、やっぱり俺達自身と無関係じゃないだろうな。だがそれ以上のことは何もわからないし、予想もできない」
だろうね。人造魔物が出てくる原因については今まで何度も話し合ったけど、いつも、わからない、見当もつかないで終わり。
今回も、何の進展もないまま終わりそうだ。
それにしても、転生したこの世界で人造魔物が現れ、その対策をラインハルトの生まれ変わりと一緒に考えているなんて、改めて思うと本当にわけのわからない状況だ。
エミリアだった頃の私にこれを言っても、絶対信じないだろう。
もちろん今でも、元ラインハルトである水間くんと協力することに、モヤモヤした気持ちが全く無いわけじゃない。
けどそれでも、この状況で相談できる相手がいるってのは、それだけで少しホッとする。思えばこっちの世界に生まれ変わって以来、前世の話をできる人なんていなかった。
かつての私達が、リアルに生きていたあの世界。たまに、今頃どうなっているだろうなって思うことはあるけど、行ってみことも確認することもできない。思い出の中だけの存在と言っていい。
だからこそ、同じ世界の記憶を持っている人がいるってのは、なんとなく安心するんだ。
もちろん、さっきも言った通り、今でも水間くんに対してモヤモヤした気持ちが全く無いわけじゃないからね。
そんなことを思っていると、もうすぐ昼休みが終わりそうなことに気づく。
結局、昼休みのほとんどは、人造魔物の退治と対策を考えるので終わってしまった。
「人知れず人間に危害を加える奴らを倒していくなんて。これじゃ乙女ゲームじゃなくて、どこかのヒーローみたい」
この無駄に忙しい状態を、ついそんな風に冗談めかして言ってみる。
すると水間くんは、それを聞いてう〜んと唸った。
「乙女ゲームか。俺達の前世がそれだってのは、今も納得できていないんだけどな」
「私だって、最初それを知った時は驚いたわよ。けど実際にそうなんだし、受け入れるしかないんじゃない?」
前に小百合から聞いたところでは、乙女ゲームの世界に生まれ変わるって話もたくさんあるらしい。なら、その逆があっても不思議はない……かもしれない。
どの道考えてもわからないなら受け入れよう。そう思っていたんだけど、水間くんはまだ納得いかないようだった。
もう一度唸った後、また私に尋ねてくる。
「なあ。ゲームってことは、当然、ストーリーや設定を考えた奴がいるんだよな?」
「まあ、そうよね。けど、どうしてそんなこと聞くの?」
「そういうのを考えた奴なら、俺達の知らないようなあの世界の秘密についても知ってるんじゃないか。もしかしたら、そこから今起こってる出来事の謎を解く手がかりが見つかるんじゃないかって思ったんだ」
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