第15話 一件落着、ならず……
水間くんと一緒に戦うってのには、色々思うところはある。だけど駆けていく足には自然と力が入るし、いつでも魔法が使えるよう、体が勝手に準備を整えている。
戦いに挑む時のこの感覚も、ずいぶんと久しぶりだ。この世界に転生してから十五年。当然、こんな風に戦うことなんて一度もなかったからね。
水間くんはどうなんだろう。
走りながら聞いてみる。
「あなた、こっちの世界に来てから、本格的に戦ったことってある?」
「あるわけないだろ。ついでに言うと、向こうで使ってた魔剣もないからな。慣れない戦いをすることになりそうだ」
なるほど。私の聖剣もラインハルトの魔剣も、使用者の身体能力を上げる加護を持っていて、それがお互いの強さの一端を担っていたけど、これじゃ当然それは期待できない。
それに、単純に剣が使えないってのも痛い。私もラインハルトも戦う時は剣が主体で、魔法はその補助として使うことがほとんどだった。けど剣がない以上、戦い方そのものも大きく変えることになる。
「不安要素は他にもある。一度生まれ変わったことで肉体は完全にリセットされていて、前世みたいに頑丈じゃない。お前もそうだろ。心配なら、下がっているのも手だぞ」
「そんなことするわけないでしょ。学校のみんなのためにも、私達でなんとかしなきゃ」
水間くんの言うことももっともだし、正直不安が全くないわけじゃない。
けどだからって、それを理由に逃げようとは思わなかった。
私の返事を聞いたところで、水間くんが前を見据える。
「そうか。まあどのみち、今から逃げるのは無理みたいだな」
私達の向かう先に、さっき見たのと同じ、結晶でできた狼みたいな人造魔物がたむろしているのが見えた。幸い、まだ人間を見つけて襲ったりはしていないみたい。
だけど、それもこれまでだ。向こうも私達に気づいたのか、とたんに唸り声をあげ、こっちに向かって駆け出してきた。
数は、確認していた通り七体。そのうち、先陣を切った一体に向かって、私と水間くんは揃って魔法を放つ。
「闇よ、貫け!」
「光よ、包め!」
突き出した手の平から、それぞれ火と光の玉が放たれる。それが直撃した人造魔物は、吹っ飛ばされたあとピクリとも動かなくなった。
「いける!」
だけどこの一撃がうまくいったことで、一気に心が軽くなる。
相手は戦うために作り出された存在。だけどこっちは、元いた世界では英雄だの魔王だの言われていた戦士二人だ。
前世と比べるとずいぶん弱くなってるし、どれだけ戦えるか不安もあったけど、これなら十分に戦えそうだ。
残る人造魔物は、これで六体。仲間をやられても怯む様子は全くないけど、私達としてはそっちの方がいい。むしろ本当に怖いのは、逃げ出して倒し損ねることだ。
けど、どうやらその心配はないみたい。
「こいつらは敵を見つけると、自分がどんなに傷ついても死ぬまで攻撃を続けるようになっている。逃げる心配はないぞ」
「なによその悪趣味な設定は」
そういえば、前世で戦った時もそうだったわね。色々思うところはあるけど、逃げられることがないっていうのは、今は助かった。
それなら、あとは普通に倒せばいいだけだ。
人造魔物も本格的な攻撃態勢に入ったのか、身を屈めてグルグルと唸り声をあげているけど、そんなのちっとも怖くない。
「残り六体だから、一人三体倒せばいいわね」
「分け方なら、四と二でもかまわないぞ」
「じゃあ、私が四!」
いけない。こんなことやってる場合じゃないのに、つい張り合っちゃう。
いや、今のは水間くんが悪い。どうしていちいち癇に障るようなことを言うのよ。
とにかく、目の前の人造魔物を倒さなきゃ。再び手をかざして魔力を貯め、それを一気に解き放つ。隣にいる水間くんも同様だ。
相手もそれを察して避けようとするけど、こっちの攻撃はまだ終わらない。避けた先にも、次々と魔法を打ち込んでいく。
それからはもう圧勝だった。こっちの攻撃から逃れた何体かが飛びかかって来ようとしたけど、それをかわして再度攻撃。そうして行くうちに、人造魔物は一体また一体と数を減らしていき、ついには残り一体となる。
そして、その一体ももうおしまいだ。私の放った光の魔法が、その体を包んだ。
「よし、これで最後!」
こうして、人造魔物の討伐は終了。
ちなみに倒した敵の数は、私と水間くんそれぞれ三体ずつだった。
けど、これで一件落着とはいかない。
とりあえず学校のみんなが襲われる心配はなくなっけど、あまりにも謎が多すぎる。
「結局、いったいこいつらはなんだったんだろうな」
私が思っていたのと同じことを、水間くんも口にする。
「だいたいこいつら人造魔物は、生み出したクリスタルが壊れたら消滅するんだ。あのクリスタルは、前世の戦いで城ごと吹き飛んだはずだろ」
「そうよね。ってことは、実はまだ壊れてなかったってこと?」
「わからん。だいたい、もしそうだとしても、この世界に現れた理由には説明がつかない」
結局、何もかもわからない。手がかりだってほとんどゼロだし、いくら考えても答えにたどり着けるとは思えなかった。
けどその時、今の私達には、ある意味人造魔物よりも優先させるべきことがあったのを思い出す。
「そういえば、いい加減みんなのところに戻った方がいいかも。きっと、心配してると思う」
みんなからしたら、私達は揃って崖から落ちてしまって、それっきりだ。まさか魔法を使って助かったなんて考えもしないだろうから、相当心配しているに違いない。
「確かにな。あれから時間も経ってるし、そろそろ騒ぎになってるかもな」
「うわっ……」
人造魔物も問題だったけど、そっちもなかなかの問題だ。
「人造魔物のことは、考えてもわかりそうにないし、一旦は置いておくしかなさそうだな」
「モヤモヤするけど、それしかなさそうね」
こうして私達は揃ってみんなのところに戻って行ったんだけど、思った通り、先生から凄く怒られた。
小百合からも、本当に心配したんだと言われたけど、私達だってみんなが人造魔物に襲われてないか、すっごく心配したんだよ。
二人ともケガがなかったことについても聞かれたけど、崖の下にあった木がクッションになったと言って誤魔化した。
それからは、私達の起こしたトラブルのせいで予定より早く下山することになり、色々あった山登りはこれにて終了。
だけど、この世界にいるはずのない人造魔物がいたということ。それに、水間くんがラインハルトの生まれ変わりだったことは、山を下りても家に帰っても、私の心の中に引っかかり続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます