第14話 まさかの共闘?

 水間くんは、それからまた考え込むように人造魔物をじっと見つめていたけど、そこでさらに顔を顰めた。


 なに? これ以上、まだ何かあるって言うの?


「なあ。転移魔法を使った時は確かに衝撃が起こるが、それでもさっきみたいに大きなものは滅多にないよな」

「そうね。使う度にいちいちあんな地震みたいなのが起きてたらたまらないもの。あれくらいの規模があるとしたら、戦場で大部隊を一気に移動させた時とかかしら?」


 やり方によっては、いきなり大勢の兵士を敵の目の前に送り込むことができるんだから、使い方しだいでは戦いの行方を大きく左右することにもなる。

 私が頷いたところで、水間くんはさらに続けた。


「もうひとつ。このタイプの人造魔物は、大抵は集団行動をとるように設定してある」

「ええ。私達が戦った時も、十体くらいで固まってることが多かったわ」


 人造魔物とはさんざん戦ったから、その特徴は私も知っている。

 そこまで聞いて、水間くんが嫌な顔をしている理由が何となくわかった。


「ちょっと待って。ってことは、近くにこんなのがまだいるかもしれないってこと?」


 衝撃の規模と、この人造魔物の習性。それを考えると、こいつが一体だけでやって来たというのは考えにくかった。


「魔力の波動を探るぞ。人造魔物なら、簡単に察知できるはずだ」

「わかってる!」


 主に魔法を使った時なんかに出る、魔力の波動。

 実はこの人造魔物は、その特殊な誕生経緯からか、一部の個体を除けば常に魔力の波動を放ち続けている。


 そして魔法を学んだ者なら、その魔力の波動察知することができるんだ。

 さっきこいつが近くにいた時は気づけなかったけど、集中すれば遠くにいる奴らだって見つけられるはず。


「いた! 一、二、三……まだいるわね。多分、これと同じやつが全部で七体、この近くで固まってる。ここにいる一体だけが、群れからはぐれてたみたい」


 もっと大規模なものを覚悟していたけど、それと比べるとずいぶんと少ない。けど、だからといって安心はできなかった。


「近くには、学校のみんなもいるわよね」

「ああ。更に言うと、こいつらは近くにいる人間をある程度自動で襲うようになってる」

「大変じゃない!」


 まさか学校のみんなも、そんな危機が迫っているとは思ってもみないだろう。

 人造魔物は、兵士と戦うことを想定して作られた生物兵器。そんなのに襲われたらどうなるか、考えただけでゾッとする。

 早くなんとかしないと、大変なことになる。


「そうだ。元ラインハルトなら、人造魔物を操ることだってできるでしょ。何とかしてよ」


 確かラインハルトは、直接人造魔物のそばに寄らなくても、遠くからその行動を制御していたはずだ。近くにいる七体全てに大人しくしてろって命令を下せば、一気に解決できる。

 だけど、水間くんは首を横に振った。


「無理だ。あいつらを操るには、生み出すのに使っていたクリスタルが必要だ。それがないのは、さっきも言った通りだ」

「なにそれ!」


 クリスタルを含め、ラインハルトの持っていた古代兵器はここにはない。と言うか、私達との最終決戦で爆発に巻き込まれ、全て破壊されたはずだ。

 もちろんそれはいいことなんだけど、今この状況だけを考えると、ほんの少しでいいから復活してほしかった。

 とはいえ、そんなこと言っても仕方ない。


「あいつらが人間と接触する前に、俺達で倒すしかなさそうだな」

「そうね。『俺達』、か……」


 それはつまり水間くんと……ラインハルトの生まれ変わりと一緒に戦うってことになるのよね。

 もちろん、今大事なのは学校のみんなを守ることだし、反対するつもりもない。ただ、ラインハルトがかつての宿敵であることに変わりはないし、これから倒そうとしている人造魔物を作ったのも彼だと思うと、頷くまでにほんの少しの間があった。


 水間くんも、そんな私の中の引っかかりに気づいたんだろう。


「戦ってる間、俺のことを信用できなくなったら、背中から討て」

「なっ!?」

「さすがにこの状況じゃ、疑われるのも無理ないからな。納得してもらうためには、これくらい言うさ」


 なんてことを言うんだろう。もしかすると、こう言うことで水間くんなりに誠意を見せたつもりなのかもしれない。

 だけど、それを聞いた私は、ワナワナと震えた。水間くんとのやり取りの中でも、今が一番怒ってる。


「バカにしないでよ! 背中から討てですって? 私がそう言われて、はいそうですかってやると思う? 本当にあなたが信用できなくなったら、徹底的に問い詰めて、正面から倒してやるわよ!」


 込み上げてくる怒りを一気にぶつける。私がそんな卑怯なまねをすると思ったの? 例え敵でも、そんなの絶対にごめんだ。


 すると水間くん、とたんにホッとしたように息をつく。


「そうか。なら、一緒に戦うってことでいいんだな?」

「えっ……ま、まあ、そうなるわね。今はあなたをどうするかより、みんなを守ることの方が大事だから」

「よし。なら、一時休戦だ」


 なんだろう。反対するつもりはないけれど、なんだかうまく乗せられてしまった気がする。もしかして、こうなることを読んでいて、わざわざあんな突拍子ないこと言ったの?


 だけど、今はそれを考える時間すら惜しかった。


「そうと決まれば、早速行くぞ。ぐずぐずしてると、それだけ誰かを危険に晒すことになるかもしれない」

「わ、わかってるわよ!」


 探知した人造魔物のいるところに向かって走り出した水間くんの後を、慌ててついて行く。って言うか、そういう指示するような言い方やめてよね!


 ああ。やっぱり私、ラインハルトとは根本的に合わないのかも。

 だいたい、彼がこんな風に率先して人助けしようとしてるのだって未だにギャップが凄いし、こんなんで一緒に戦うなんてできるのかな?

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