第13話 人造魔物現る

 水間くんから放たれた闇の魔法は、私のすぐ側を掠め、その後ろへと飛んでいく。


「なっ!? 何するの……よ……」


 いきなりのことに、わけがわからず声を挙げ、だけどそれからすぐに絶句する。

 彼の魔法の飛んでいった先。そこに、信じられないものを見たからだ。


「なにこれ? なんでこんなのがここにいるのよ?」


 奇しくも、さっき水間くんが言ってたのとほとんど同じ言葉を繰り返す。


 そこにいたのは、例えるなら、全身が水晶のような結晶でできた狼だった。

 その無機質な感じから彫刻のようにも見えるけど、それは違う。水間くんの魔法が直撃し、瀕死の重症を負ってはいるものの、その手足は微かにピクピクと動いていた。つまりこれは、れっきとした生物だ。


 もちろんこんな生物なんて普通はいないだろうけど、私は以前、これと全く同じものを見たことがある。


「これって、人造魔物よね。あなたが、古代兵器を使って生み出したやつ」

「ああ。そうみたいだな」


 やっぱり。ラインハルトが蘇らせた古代兵器のひとつに、こういう魔物を無限に生み出すクリスタルがある。

 無尽蔵に兵士を作り出せて、しかも意のままに操ることができるっていう、とんでもない代物だ。それによって作られた魔物が、今ここにいる。


「ちょっと、どういうこと? どうしてあんなのまでこの世界にいるのよ! あなた、古代兵器はもうないって言ってたわよね! まさか、それは全部嘘で、あの魔物を使って私を襲おうとしていたんじゃ……」


 思いっきり水間くんを疑うことになるけど、この人造魔物を作ったのはラインハルトだ。彼の仕業じゃないかって、どうしても思ってしまう。

 だけど、この状況に取り乱しているのは私だけじゃなかった。


「俺だってわからねーよ! これに関しては、一切何もしちゃいない。だいたい襲うつもりなら、さっきみたいに助けたりしないだろ」

「そりゃ……まあ、そうだけど……」


 水間くんがさっき放った魔法は、わたしを守るためにやったもの。私だって、言われたらそのくらいのことはわかった。


 それに、あの魔物を見かけた時、水間くんは明らかに動揺していた。

 魔物が水間くんの差し金だったとしたら、そんな反応になるのはおかしい。

 なら、水間くんは本当に無関係なの?


「でも、あなたが使ってた古代兵器で作られたものってのは間違いないわよね」

「ああ。そうだな。人造魔物は用途に合わせていくつかの種類を作ったが、こいつは間違いないくその中の一つだ」


 水間くんも、それに関しては言い返せないみたい。難しい顔をしたまましゃがみ込んで、もうすっかり動かなくなった人造魔物の様子を見る。


「貝塚。お前は、今までこの世界で、こんな人造魔物を見たことがあるか?」

「あるわけないでしょ」

「だよな。オレも初めて見る」


 この世界と前世を繋ぐものといえば、私の中にある記憶と魔法の力、乙女ゲームの『ウィザードナイトストーリー』、それに水間くんだ。こんな人造魔物なんて見たことない。


「私達と同じように、こっちの世界に転生してきたってこと?」


 エミリアとラインハルトがこの世界に生まれ変わったんだから、他にもそんなのがいておかしくないかもしれない。

 けど目の前の人造魔物もそうだって言うには、どうにも妙なことがある。


「転生って言っても、肉体はこっちの世界で生まれたものだろ。この世界で、こんな体を持ったやつが生まれると思うか?」

「そうよね……」


 改めて、人造魔物の姿を見る。全身が水晶のような結晶でできたその体は、とても自然に生まれたものには見えない。いくら転生したからって、体の作りそのものがこんな風に変わるとは思えなかった。


「どっちかって言うと、異世界転生じゃなく、異世界転移ってやつみたい」


 どちらも小百合が好きな異世界もののゲームやラノベでよくある設定だけど、異世界転生は魂だけ世界を移動し、新しい命として生まれ変わる。それに対して異世界転移は、元の世界にいた人が、そのまま別の世界にやってくる。

 この人造魔物も、まさにそんな感じだ。


 すると、それを聞いた水間くんが思い出したように言う。


「転移か。そういえば、俺達が崖から落ちた時、地面や空気が揺れただろ。あれって、大規模な転移魔法を使った時に出る衝撃に似てなかったか?」

「そういえば……」


 転移魔法ってのは、人や物体を一瞬で別の場所に移動させる魔法で、テレポートやワープって言ったらわかりやすいかもしれない。


 これには空間を歪めるっていう、魔法の中でもかなり高度な技術が使われてるんだけど、その影響で、転移魔法を使った際には、歪んだ空間を元に戻そうとする力が働いて、周りに衝撃が発生するんだ。

 水間くんの言う通り、さっき私達が体感した揺れは、そんな転移魔法を使った時の衝撃に似ている気がした。


「じゃあ、あの時転移魔法が使われたってこと? しかも、ただ距離を移動するんじゃやくて、世界を超えてきたって言うの?」

「かもしれないって話だ。世界を移動する魔法なんて聞いたこともないし、仮にあったとしても、誰が何の目的でこっちに呼び寄せたかなんて、さっぱりわからない。もしかすると、全く別の原因かもしれない。本当のところどうなのかなんて、見当もつかない」


 水間くんもわからないことだらけのようで、困ったように顔を顰めている。

 彼がラインハルトだった頃を含めて、こんな顔をしてるところなんて初めて見た。

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