第12話 裏切った理由

 前世で私が住んでいたバルミシア王国と、それに攻撃を仕掛けてきた部族連合との戦争の最中。元々一つの部族の王だったラインハルトは、その権限を使い、古代の遺跡を自ら調査した。

 その最深部で見つけたのが、後に古代兵器と呼ばれる、三つの魔法具だったそうだ。


「城を丸ごと浮かせることで難攻不落の移動要塞にする、浮遊装置。一発撃てば山をも吹き飛ばす魔力砲台。意のままに操れる人造魔物を無限に生み出すことのできるクリスタル。この三つがあったからこそ、俺は一人で世界と戦うことができた。けど、今はそれもない。そんな状態で大それたことしようって思うほど、自惚れちゃいないさ」


 確かに、ラインハルトが古代兵器なしで戦いを仕掛けていたとしても、そこまで大きな驚異にはならなかったと思う。

 言い換えれば、古代兵器さえあれば、例え一人でも世界と戦えるってことなんだけどね。


 改めてとんでもない代物だったと思うけど、やっぱり私は、ラインハルトだってそれに負けないくらいとんでもない奴だったと思う。


 だって、例えどれだけ強い力があったとしても、それをどう使うかはその人しだい。個人で世界と戦おうとするなんて、とても正気とは思えない。

 そんな風に考えていたのは、私だけじゃない。当時あの世界にいた人達から見ても、彼の行動は異常だった。


「もうひとつ聞くわ。あなたはどうして、味方であるはずの部族連合を裏切ったの? 世界を支配したいなら、わざわざ味方だった人達まで切り捨てる必要ないじゃない」


 元々古代兵器は、彼のいた部族を含め、連合に参加していた全ての部族が共同で管理するはずだった。

 それをラインハルトが強奪し、自分だけのものにして、世界全てに対して攻撃を仕掛けてきた。


 けどわざわざそんなことしなくても、それまでの功績で、彼は事実上部族連合のトップに近い位置にいたんた。

 そのまま部族連合を指揮してバルミシア王国を倒せば、事実上、その双方のトップに立つことも可能だったわけだ。


 なのに、どうしてわざわざ裏切るなんてバカなことをしたのか。

 そんな疑問に、彼はニヤリと口角を上げ、答える。


「古代兵器を共同管理ってのが気に入らなかった。そんなことをしたら、俺以外の誰かが使うことだってできる。俺と同じように、強奪しようと考える奴も出てくるかもしれない。そうなる前に先手を打ったんだよ」

「なによその勝手な理由は!」


 いったいどれだけ人を信用していなかったんだろう。そのあまりの物言いに、せっかく押さえていた怒りが、また爆発しそうになる。


「そんなことした結果が、バルミシア王国も部族連合も敵に回して討伐されたんだから本当にバカよね」

「そうだな。おかげで俺は死に、古代兵器も全て消滅。ほんと、バカなことをしたよ」


 少しでも怒りを発散させるため皮肉めいたことを言うと、意外にも水間くんは、素直にそれに頷いた。


「お前も、それに巻き込まれて命を落とした。悪かったな」

「なによ、今さら……」


 まさかそんな言葉が返ってくるとは思わなかったから、正直戸惑う。もちろん、だからと言って許すってなるほど単純なものじゃないけど、正面切って謝られると、それ以上は責めづらくなる。


「そういうわけだから、この世界でわざわざ大それたことをしようなんて気はない。どうだ? これで少しは信用してくれたか?」

「うっ……」


 水間くんの言い分はこれで終わったみたいで、私の答えを待っている。だけど、どうしよう。

 もちろん今の話だって、口じゃ何とでも言える。けど古代兵器がない以上、少なくとも前世ほどの暴挙は起こせないってのは事実だ。


 信じるべきかどうか。答えを出さなきゃいけないのに、どうすればいいかわからない。そんな中、沈黙を破ったのは、私でなく水間くんだった。


「おい、ちょっと待て! なんでそいつがここにいる!?」


 愕然とした様子で、いきなりそんなことを言ってくる。

 けど、言ってる意味がわからない。いったいどうしたって言うの?


 彼の視線は、私でなくそのさらに後ろに向かっていた。

 私の後ろに何かあるの? そう思って振り返ろうとした時だった。


 突如、水間くんの体から、魔力の波動を感じた。そして次の瞬間、彼の手から、こっちに向かって闇の魔法が放たれた。

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