第6話 親友をバカにされて黙ってられるか!
帰る途中、三人の女の子から突然呼び止められ、呼び出しをくらった私達。いや、正確に言うと呼び出しをくらったのは小百合だけなんだけど、私も着いていくことにする。だって、どう見てもいい予感がしなかったから。
それは小百合も同じようで、彼女達の後ろをついていってる間、ずっと不安そうに表情を固くしていた。
それから、申し訳なさそうに耳打ちしてくる。
「恵美、変なことに巻き込んでごめんね。恵美だけでも帰してもらうよう頼んでみるから」
「いや、そんなのいいから」
ここで私だけ帰されても、余計心配になるだけよ。
むしろ、帰れって言われてもついていく。
そうして連れていかれたのは、階段裏にあるちょっとしたスペース。階段の影になっていて周りからは見にくいし、何もない場所だから、わざわざここに来る人もあんまりいなさそう。
この子らも私達と同じ新入生のはずなのに、いつこんな所を見つけたんだろう。
それから彼女達は私達をスペースの奥へと押しやると、退路を塞ぐように廊下側に横並びで立つ。そして、小百合に向かって話しかけた。
「水間くんに馴れ馴れしく話しかけてたけどさ、あなた、彼の知り合いか何か?」
「い、いえ。初対面です」
「でしょうね。水間くんのこと知ってたら、軽々しくそんなことできるわけないもの。私達、水間くんと同じ中学から来たんだけどさ、そんなことする子は誰もいなかったわよ」
まるで、あなたは非常識とでも言いたげだ。
彼の通っていた中学がどんなだったかは知らないけど、こっちは初対面なんだから、そんなのわからなくて当然じゃない。
だけどどんな無茶な理屈であっても、三人もに詰め寄られるってのはプレッシャーになる。おかげで小百合は、すっかり萎縮してしまってた。
「そ、そうなんですか。それは、ごめんなさい。ちなみに、彼はどういう人なんでしょうか? あと、話しかけちゃダメとか、その辺も詳しく教えてくれると助かるのですけど……」
このまま何も知らないでいると、ますますまずいことになるかもしれない。そう思ったのか小百合が尋ねると、三人の目がギラリと光った。
そして、待ってましたとばかりに一気に喋り始める。
「いいわ、教えてあげる。彼はね、言うなれば孤高の王子様なの。顔よし、頭よし、スポーツ万能。常に自信に溢れた堂々とした振る舞いで、生徒だけでなく先生からも一目置かれてたの」
「当然。そんな人を周りの女の子が放っておくはずないけど、彼狙いの子が多すぎて、女子全体がギスギスしだしたの。だから私達は、余計な争いが起きないよう同盟を組んで、抜け駆け禁止のルールを作ったわ。そのルールでは、勝手に、しかも一人で水間くんに話しかけるなんて、完全な違反行為よ!」
「同じ中学からはもちろん、他のところからも彼目当てでこの高校に入ってきた子は大勢いるの。あなた、下手をするとその子たち全員を敵に回すことになるわよ!」
三人で代わる代わる捲し立てながら、思い切り牽制してくる。
確かに彼の見た目はイケメンだと思うし、話を聞くと相当にハイスペック。まあ、モテるのも納得だ。けど、いくらなんでもここまでする?
前に小百合から悪役令嬢だのその取り巻きだのの話しを聞いたことがあるけど、それらもこんな感じなのかな?
その小百合はと言うと、入学早々大勢の敵を作るかもしれないこのピンチに大慌てだ。
「ち、違うんです! そりゃ確かに話しかけはしたけど、あなた達が思ってるような理由じゃないんです。ただ、彼が好きなゲームのキャラにあまりにも似てたから、つい声をかけただけなんです!」
「はっ? ゲーム?」
これは三人にとっても予想外だったみたいで、一瞬呆気に取られる。さらに小百合は、水間くんにやったのと同じように、スマホにあるラインハルトの画像を彼女達に見せた。
「ほら、このキャラです。そっくりでしょ!」
三人にとっては、愛しの王子様、水間くん。それと本当にそっくりなラインハルトには、彼女達も驚いていた。
「あら。これは、確かに……」
「似てるわね」
「かっこいい」
しばらくの間、小百合の見せるラインハルト画像を眺めながら、あれこれ言い合っている。
これは小百合のピンチも回避できるかも。そう思ったけど、甘かった。
一人がハッとしたように我に返ると、またさっきまでと同じように、キッとした目つきで小百合を睨みつけてくる。
「だ、だから何だって言うの。どんな理由があっても、それで許されるってことにはならないわ!」
「そんな……」
許されるも何も、本当なら勝手に話しかけるの禁止ってルールを作る方が許されないんじゃないの?
だけど彼女達は止まらない。むしろ、一度削がれた勢いを取り戻すように、その言葉はさらに辛辣になっていく。
「だいたい、ゲームキャラに似てるってなに? そんなのにいちいち騒ぐなんて、もしかしてあなた、オタクってやつ?」
「ああ、どうりで冴えない子だと思った。あなた、見るからにこういうの好きそうだもんね」
「こういうゲーム、ちょっと知ってるけどさ、ゲームの中で恋愛するっていうやつでしょ。虚しくならない? そんなのやってるなんて、ハッキリ言ってキモくない?」
酷い……
好き勝手なことを言っては、嫌〜な笑いを浮かべる三人。
水間くんに近づく相手を牽制するってだけなら、決して納得はできないけどまだわかる。だけど、いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるでしょ。
それでも小百合は、揉めるのを怖がっているのか、顔を引き攣らせるだけで何も言い返さない。
だけど、これ以上は、私が我慢できなかった。
「あなた達、いい加減にしなさい」
低く唸るような声を出しながら、小百合と三人との間に割って入る。
そこでようやく、三人は私に注目を移した。
「なに、あなた? 関係ないんだから、引っ込んで──」
「ふざけないで!」
相手の言葉が終わる前に、私の一喝がそれを掻き消す。もちろん、引っ込む気なんてこれっぽっちもない。
「関係ないっていうなら、あなた達の方でしょ。小百合が誰と話そうと、何を好きだろうと、それを止めたりバカにしたりするなんて、やっていいわけないじゃない!」
「なっ──!」
三人も、こんなにも正面から反論されるとは思わなかったみたい。
それはさゆりも同じで、宥めるように私に声をかけてくる。
「恵美、もういいから。私がオタクなのは本当のことだし、キモイとか言われるの慣れてるから」
「よくない!」
後々のことを考えると、ここで大きく揉めるのは、小百合のためにもよくないのかもしれない。それでも、言わずにはいられなかった。
「だって小百合、『ウィザードナイトストーリー』のこと、大好きだったじゃない。それをあんな風に酷いこと言われて、バカにされて、そんなの見たのに何もしないでいるなんて、私にはできない!」
「恵美……」
私は『ウィザードナイトストーリー』をプレイしたことはないし、小百合が語る他のゲームだって、手をつけてないものがほとんどだ。
だけど、小百合がそれらをいかに大好きかは知ってるし、それをバカにされたらどれだけ傷つくかは、簡単に想像できる。
友達がそんな目にあってるってのに黙っていられるほど、私は我慢強くはないの!
「小百合に手を出したら、許さないから」
叫び、改めて睨みつけると、三人は揃ってたじろいだ。
「な、何よ。さっきも言ったけど、私達みたいな子は大勢いるんだからね。場合によっては、あなたもその人達全員を敵に回すことになるわよ」
「ふーん。だからなに?」
性懲りも無く脅かしてくるけど、あいにく私は、そんなことくらいじゃ怯まない。
何しろこっちは、前世で敵の軍隊や魔法生物、そして魔王と戦った身だ。そこで培った度胸は、生まれ変わった今でもしっかり持っている。
例え相手が何人いようと、引く気なんてない。
これには三人も困ったみたいだけど、だからっておめおめと退散するわけにもいかず、お互い硬直状態が続く。
そんな状況を一変させたのは、私達のどちら側でもない、全く別の人の声だった。
「あっ、いたいた。なあ、ちょっといいかな?」
それまであった緊張感を崩すような、場違いなくらいに呑気そうな声が飛んできた。そこにいた全員が、声のした方へと顔を向ける。
だけどその途端、新たに全く別の緊張が走った。
「み、水間くん!?」
そこにいたのは、さっきまで話題の中心にいた、水間遥人くん本人だった。
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