第2話 乙女ゲームの主人公は私の前世
紺色のブレザーに袖を通し、鏡に映った自分を見る。なんだか制服を着るって言うより、着られてるって感じだ。
だけど、それも当たり前。だって、まだ全然着慣れてないんだから。
私、
するとその様子を見ていたお父さんが、シュンとした顔で言う。
「恵美、ごめんな。お父さんもお母さんも、入学式行けなくて」
「気にしないでよ。二人とも仕事が忙しいんだって、ちゃんとわかってるから」
お母さんは既に仕事に出かけているけど、お父さんはさっきからずっと、娘の晴れ姿を見ることができないって残念そうに言っている。とはいえ、お仕事なんだから仕方ない。
「うち以外にも、そういう子けっこう多いみたいだよ。
小百合っていうのは私の中学からの友達、
高校も二人仲良く同じところに行くことになったて、今日も学校まで一緒に行く予定だ。
するとその時、玄関のチャイムが鳴る。開けてみると、そこにいたのはちょうど名前が出ていた小百合本人だった。
「おはよう、恵美。制服似合ってるね」
「ありがとう。小百合もかわいいよ。けど、どうしてうちまで来たの? 学校まで一緒に行くとは言ってたけど、途中で待ち合わせのはずじゃなかったっけ?」
記憶違いだったかな。なんて思ったけど、小百合はううんと言いながらスマホを取り出した。
「恵美の制服姿を早く見たくて来ちゃった。それに、写真もしっかり撮っておきたいからね。道端だとじっくり撮ることもできないって思ったんだけどダメだった?」
「そんなことないって。好きなだけ撮っていいよ」
「やった! じゃあ、早速ポーズとって」
言われるがままポーズをとると、小百合は嬉々としてスマホのカメラでそれを取る。それも、何枚も何枚もだ。
そのあまりの量に、お父さんも驚いたみたいだ。
「小百合ちゃん、ずいぶん撮るね。そんなに写真が好きなのかい?」
「写真と言うより、恵美を撮るのが好きなんです。学校でも撮ろうと思ってるんで、おじさんにもあげましょうか?」
「本当かい、ぜひ頼むよ。高校でも恵美をよろしくね」
それから小百合はさらに何枚か写真を撮って、それから私達は、ようやく学校へと向かう。元々、小百合に写真を撮られるだろうなとは思ってたけど、ここまでたくさんってのはさすがに想像以上だったよ。
ところで、さっき小百合は私の写真を撮るのが好きだって言ったけど、それにはある特殊な理由があった。
「いやー。それにしても、恵美って相変わらずエミリアに似てるよね」
学校に向かう途中、小百合はそう言ってスマホを操作する。
歩きスマホは危ないよ、なんて思いながらも画面を見ると、そこにはさっき撮った私の写真と、それとは別にとある画像が表示されていた。
その画像は、とあるゲームのパッケージだった。上部には大きく、『ウィザードナイトストーリー』というタイトルが書かれている。
このゲームは異世界が舞台で、そこで生きる主人公の女の子が主に男性キャラと交流し、恋愛をしていく。所謂、乙女ゲームというやつだ。
タイトルの下には、ファンタジックな衣装に身を包んだ五人のイケメンと、その中心に一人、剣を構えた女の子のイラストが描かれている。
このイケメン五人が主人公が恋と恋愛のできる攻略対象キャラで、中心の女の子こそが、このゲームの主人公エミリアだ。
そしてエミリアの容姿は、驚くくらい私とそっくり。ショートボブにしてある髪の癖のつき方や、少しクリっとした目の形。まるで、キャラデザする際に私をそのままモデルにしたみたい。
小百合なんて、ゲームキャラが三次元にやって来たみたいって言っていた。
「中学ので初めて恵美を見た時も、エミリアの生き写しだって大興奮したけどさ、最近ますます似てきたんじゃない? 歳がゲーム内のエミリアに近づいたからかな? 制服を着たところなんて、エミリア現世バージョンって感じだったよ!」
「わかったから、少し落ち着いて」
小百合は乙女ゲームを愛する重度のオタクで、中でものこの『ウィザードナイトストーリー』は、特に大ハマりしたらしい。
中学で初めて私と会った時も、エミリアにそっくりだと感激していて、以来何かと話しかけてくるようになった。
ゲームについて熱くなると時々暴走するけど、基本的にはいい子で、今では私にとって一番の友達になっている。
けどね。私はそんな一番の友達に、あるとっても大事なことを隠してる。
小百合だけじゃない。お父さんにもお母さんにも、この世界の誰にも言っていない。そして、言うつもりもない秘密だ。
実は、私とエミリアがこんなにもそっくりなのには、ある理由がある。
『ウィザードナイトストーリー』の主人公、エミリア。それって、前世の私なの。
私は、乙女ゲーム『ウィザードナイトストーリー』の世界から、こっちの世界に転生してきたんだ。
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