5 帰還

 けほっと息を吐くと、新鮮な空気が小奈津の肺を満たした。

 気づけば小奈津はプール横の地面に倒れていた。

 全身ずぶ濡れで、手に持っていたはずのステッキはバレッタになっていた。


(あれは、一体?)


 不思議な体験だった。

 バレッタがステッキに変わったことのそうだが、あの青い池みたいな異空間や突如見せられた記憶、不思議という言葉では片付けられない。

 小奈津は咳払いをしてもう一度新鮮な空気を取り込んだその時だった。


「小奈津?」


 首だけで見上げると、冬木が小奈津を見下ろしていた。

 小奈津は慌てて立ち上がる。


「ふ、冬木! これには深い理由わけが」


 そうはいうものの、今までのことをどう言えばいいのだろうか。

 小奈津があたふたしていると、冬木は青と黒のチェック柄のハンカチを小奈津に差し出した。

 

「拭きなよ」


 小奈津は少しの間固まった。そしておそるおそる、ハンカチを受け取る。


「ありがとう」


 冬木は小奈津に背を向け、そのまま去る。

 小奈津はその背中をただ見守るしかできなかった。


            

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