恋と怪異の髪飾り

蘇芳 

1章 髪飾りの君と水魚

1 髪から始まる恋




  綺麗な髪だね


 ある日、幼馴染の冬木ふゆきはそう言った。

 なぜかその言葉を思い出した小奈津こなつは今年一番の寒い一日だというのにかかわらず、衝動的に雑貨屋へ向かっていた。

 色とりどりのかわいい小物がたくさん揃っている。華やかな小物たちに小奈津は心が躍った。

 小奈津はかわいいものが好きだ。それは高校2年生になった今も変わらない。どれもこれも欲しいと思っていた矢先、小奈津の目にある髪飾りが目に留まった。

 隅々まで繊細な彫刻が施された髪飾り――バレッタだ。彫った面にピンクや水色、黄緑といったパステルカラーのものが流し込まれており、螺子にも細かい彫刻が施されていた。

 かわいい小物が並ぶ中、小奈津は特にその髪飾りが良いと思った。

 小奈津はそれを手に取り、店に設置されている鏡に向かって髪飾りを頭に添えてみる。

 その髪飾りは小奈津の艶やかな黒髪によく合っていた。

 螺子にまで細かい彫刻が施されているのだ。相当高価なものに違いない。そう思って値段の札を見る。


「……」


 税込みで1800円。このクオリティにしてはそんなに高くなかった。むしろこの値段で良いのか、さえ思ってしまった。

 

 

 翌日、髪をハーフアップし、バレッタをつけて高校に行くと友達から絶賛された。


「かわいい髪飾り! どこで買ったの?」 


 そう言うのは小奈津の親友、亜季あきである。


「近所の雑貨屋さんで買ったんだ~」


 亜季だけではなく、他のクラスメイト達も小奈津の髪飾りを褒めてくれた。小奈津は嬉しくて終始照れていた。

 ふと、小奈津の視界の隅に一人の男子高校生が目に入る。

 短い黒髪に健康的に焼けた肌、目鼻立ちが整った顔立ちをしている。

 小奈津は昔から彼を知っていた。

 彼は冬木ふゆき。小奈津の幼馴染で小さい頃よく遊んだ。だが、中学校1年生の時、彼は父親の都合で急遽引っ越し、離れ離れになってしまった。突然のことだったし、その時は携帯電話なんてなかったから連絡できず、交流が途絶えてしまった。

 だが、彼は高校進学を機にこちらへ戻って来た。

 桜の木の下で冬木と再会した時、小奈津は固まってしまった。

 久しぶりの再会に小奈津が戸惑っていると、冬木が小奈津の髪についた桜の花びらをつまんで微笑んだのだ。


「綺麗な髪だね」


 その瞬間、小奈津は冬木に恋をした。


                    





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る